61.悪魔と魔剣帝の剣
「そういや、お前は魔剣帝の弟子だったな。お前を殺してやれば、魔剣帝は悔しがるだろうな……悪くねえ」
悪魔化したギルマスが呟き、含み笑いを漏らす。
あの野郎、悪魔の力を得た影響で、考え方まで悪魔みたいになってきているな。元々、邪悪な思考をする人間だったのかもしれないが。
ヤツが魔剣帝に復讐したい一心で悪魔に魂を売ってしまったというのなら、救ってやるのが俺の務めか。
「いいぜ、来いよ、クソガキ。魔剣帝に習った剣術が通用するのか試してみろ! 無駄だと思うがなあ!」
「……」
野郎、悪魔の力を得た事で調子に乗ってやがるな。
マヨネラ達の攻撃を受けてもノーダメージだったから、俺が相手でも余裕だと思っているわけか。
……上等だぜ、クソ野郎。望み通り、魔剣帝の剣を味わわせてやる。
悪魔はノーガードで笑みを浮かべ、手招きをしている。
あえて俺の攻撃を受けてみせるつもりか。好都合だな。
本当に不死身なのか、俺が確かめてやる……!
「それじゃ、軽く……八つ裂きにしてやろう……!」
「……えっ?」
魔剣ソードウインドを抜き、全力で斬りつける。
この魔剣は風の属性を持ち、魔力を込めれば速度が上がり、さらに風の刃を生じさせる事が可能になる。
悪魔の強靭な肉体を、ザクザクと切り刻んでやる。
魔剣本来の能力を開放しているため、その刃は鋭く、疾風のごとく速い。
並みの剣士では見切れない剣速のはずだが……悪魔には見えているのか?
「ちょっ、待て! な、なんだ、コイツ……速すぎて太刀筋が見えねえ! どうなってやがる!」
なんだ、見えないのか。俺自身が弱体化している分、かなり遅いはずなんだが。
頭の天辺からつま先まで、野菜を細切れにするように、容赦なく切り刻んでやる。
すごい勢いで再生しているので、無傷のようだが……多少は痛みがあるのか、悪魔は苦しそうに呻いていた。
「や、やめろ! いくら斬っても効かねえって! こら、やめろってば! ぐううう!」
こらえきれなくなったのか、悪魔が前に出て、俺に手を伸ばしてくる。
手の先から肘のあたりまで細切れにしてやり、後ろ向きに飛んで間合いを開ける。
ふむ。いくら斬っても致命傷にはならないのか。厄介な相手だな。
「お、お前、何の躊躇いもなく人の身体を切り刻みやがって、それでも人間か? 実は悪魔なんじゃねえのか?」
「お前が言うな。その姿、完全に悪魔そのものじゃないか。親父さんが見たら泣くぜ」
「う、うるさい! 親父は関係ねえ! ガキが偉そうに、分かったような口を利くんじゃねえ!」
痛いところを突かれたのか、悪魔になったギルマスは激昂していた。
先代のギルマスが、親父さんが優秀だったために、それを超える事ができずに苦しんでいたってところか。
ちょっとだけ同情するぜ。だからといって、非道な真似をしてもいいとは思わないが。
「ガキだと思って優しくしてやってりゃ付け上がりやがって……今度はこっちから行くぜ!」
悪魔が左腕を振り上げ、筋肉を隆起させ、ブウン、と腕を振るう。
大気が震え、突風が吹き荒れ、俺を襲う。
腕を振っただけで風を起こせるとは、かなりのパワーだが……風なら俺にも起こせるんだぜ?
「はあっ!」
魔剣を振るい、風の刃を生み出し、迫り来る突風に叩き付ける。
突風を相殺、消し飛ばしてやると、悪魔は目を丸くしていた。
「ガ、ガキが! だったらコイツはどうだ!」
悪魔は左右の手に魔力を集中、魔力弾を作り出した。
一発でもこのあたり一帯を壊滅させられる威力がありそうなのに、それを二発も……。
子供相手になんて大人げない真似をしやがるんだ。加減ってものを知らないのか?
「死ねやあ!」
悪魔が叫び、魔力弾を一発ずつ、放ってくる。
避けられないようにと考えたのか、一発目は右から、二発目は左から、弧を描いて飛んでくる。
俺は魔力弾の軌道を読み、剣に魔力を集中、魔力剣を使用した。
飛来した魔力弾を一発ずつ斬り払い、消滅させる。
「隙ありぃ!」
「!」
二発目の魔力弾を斬ったところへ、悪魔が跳躍して一気に距離を詰め、目の前に迫ってきた。
丸太のように太い腕を振るい、鋭い爪の生えた、俺の頭よりも大きな手を叩き付けてこようとする。
――読んでいた俺は、魔力をまとって瞬間的に加速、攻撃をかわすと同時に魔力剣を振るい、悪魔の胴体を上下に両断した。
「ぐおっ!?」
その場で回転、剣に風をまとわせ、悪魔の上半身に叩き付ける。
両断した胴体がくっつく前に上半身のみを吹き飛ばし、下半身から引き離してやる。
「うおおおおおお! て、てめえ、なにしやがるんだあ!?」
むっ、まだ生きていやがるのか。さすが、悪魔になっただけあってタフだな。
だったら、塵一つ残さず消滅させてやるか。
魔剣をもう一本の方と取り替えようとして、気付いた。
そう言えば、ブロードザンバーはまだ受け取っていなかったな。代わりの魔剣を差したままだった。
コイツはまだ、どういう効果があるのか分かっていないからな。ここで試すのは危険か。
「おい、ベルリエル! 俺の魔剣を返してくれ!」
「ん? おお、いいとも。それ、受け取れ!」
ベルリエルが投げて寄越した魔剣をパシッとキャッチして、それが間違いなく自分の愛刀である事を確認する。
やっと戻ってきたか、相棒。一時はどうなる事かと思ったが、これでようやく安心できるな。
「さて、と。それじゃ、お前らが盗んだり売り飛ばしたりしてくれた魔剣が、どれほどの威力を備えているのか……今ここで披露してみせようか」
上半身だけになった悪魔はうろたえ、俺に告げた。
「お、おい、よせ! お前みたいなガキに扱えるような代物じゃねえって! 危ないぞ!」
確かに、子供にされた今の俺では、この破壊の魔剣を十分に使いこなせるとは言えない。
だが――まったく扱えないというわけでもないのだ。
威力を絞って使えば、それなりに強力な武器として役に立つはずだ。
よし、まずは魔力を高めて……魔剣を大型化させずに、このサイズを維持した状態で振るうとしよう。
本来の威力には程遠いが、それでも少し強い程度の悪魔を消滅させるぐらいなら楽勝のはずだ。
「行くぜ。この世から消してやるからありがたく思えよ」
「あ、ありがたくねえええ! よせ、やめろ! そんなヤバい魔剣を使ったら、お前自身もどうなるか分かんねえぞ!」
ご忠告どうも。心配しないでもこの剣の力は誰よりも分かっている。
カッとなって加減を間違えたりすれば確かに危険だが、今現在の俺は冷静そのものだ。なんの問題もない。
「せめてもの情けだ。痛みを感じる暇もないぐらい一瞬で終わらせてやる」
「ひ、ひいいい! やめろぉ!」
悪魔は翼を広げて宙に舞い、下半身を残したまま上半身だけで逃げようとした。
俺はその場から動かず、飛んでいく悪魔の位置を捕捉、狙いを定めた。
射程距離内だ。一撃であの世に送ってやるから感謝しろよ……!
「せやあああ!」
剣を振るい、刀身に集中した魔力を刃に変え、上空へ逃れていく悪魔の上半身に向けて伸ばす。
魔力の刃が到達する瞬間、刹那の時。
なにかが割り込み、魔力の刃を受け止めた。
「なっ……なんだ?」
それは、もっさりとしたローブを着込んだ魔道士だった。
手をかざして魔力の刃を受け止め、四散させてしまう。
馬鹿な、一体、何者だ? 並みの魔道士に今の一撃を防げるわけが……。
まさか……。
「妙な事になっておるな。仕方ない、ここは私が出るしかないか……」
フードを下ろし、そいつは素顔をさらした。
真紅の長い髪に、金色に輝く瞳、妖しげな笑みを浮かべた、妙齢の美女。
間違いないだろう。あれは……おそらく、新たな魔女だな。
意外な伏兵の登場に、俺は嫌な汗をかいたのだった




