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60.もう一人の剣帝

 魔剣帝である俺を評価する際、『世界でも一、二を争う最強クラスの剣士』というように言われる場合が多い。

 『世界一』『最強の剣士』と断言される事はあまりないのだ。

 それはなぜか。答えは単純で、ほぼ同格の腕前だと評されている剣士が一人いるからだ。


 ヤツの名は、カイル・ブランツ。

 魔剣帝と同等にして対をなす存在。

 もう一人の剣帝……『聖剣帝』と呼ばれる、剣の達人にして最強クラスの戦士だ。



 魔力弾を消滅させたカイルは、被っている仮面の紐が切れたらしく、仮面が落ちて、素顔をさらしていた。

 カイルのイケメンフェイスを目にして、悪魔は顔色を変えていた。


「むう! お前、魔剣帝じゃないじゃねえか! ヤツはそんな顔じゃなかったはずだぞ!」

「い、いや、私は魔剣帝だよ、うん。プチ整形したんだ」

「嘘をつけええええええええ! あいつが整形なんかするはずないだろうが!」


 ギルマスの野郎、魔剣帝の、俺の顔を見た事があるのか。

 そうなると、魔剣帝だって言い張るのは苦しくなるよな。実力的には魔剣帝と同等クラスなんだが。


「本物の魔剣帝はどこにいる! 俺が殺したいのはあいつなんだ! 偽者なんかに用はない!」

「……参ったな。魔剣帝の名を知らしめるチャンスだと思ったのに……」


 ふう、やれやれ……と呟きながら、立ち上がるカイル。

 怒りに震える悪魔に対し、静かに呟く。


「私の名は、カイル・ブランツ。もう一人の剣帝とか、聖剣帝と呼ばれている。これでも一応、魔剣帝とは同格の剣士なんだが」

「聖剣帝、だと……!」


 聖剣帝の名を聞き、悪魔は動揺していた。

 それはそうだろうな。どちらかと言えば、魔剣帝より聖剣帝の方がメジャーというか、一般人にも名が知れ渡っているはずだから。

 さしものギルマスも降参か? 悪魔の力を得たぐらいじゃ、あいつには勝てないだろうしな。


「なにが聖剣帝だ! 嘘をつけ!」

「えっ? いや、私は本当に……」

「本物なら、魔剣帝の名を騙るはずないだろうが! 魔剣帝ではないとバレたから、今度は聖剣帝を名乗る事にしたんだろう! この詐欺師が!」

「ち、違うんだ! 色々と事情があって魔剣帝を演じていたけど、本当は聖剣帝だったんだよ!」

「あー、もういい。俺は偽者になんか興味はねえ。目障りだから引っ込んでろよ」

「ううっ……!」


 悪魔に偽者扱いされてしまい、カイルはブルブルと震えていた。

 魔剣帝のフリをしていたのは事実なので、あまり強く反論できないでいるようだ。


「ほ、本物なのに……どうして信じてくれないんだ……」


 カイルはガックリとうなだれ、道の端まで歩いていくと、膝を抱えて座り込んでしまった。

 いや、そこまでショックなのかよ! しっかりしろよ、最強の剣士!


 なんてこった。この場にいる人間の中では間違いなく最強の存在が、戦意を喪失してしまった。

 カイルが戦えないとなると、あのムキムキした悪魔を倒すのは容易じゃないぞ。

 剣士ならマヨネラ、魔法使いでは魔女のベルリエルの二人がツートップだろうが、マッチョな悪魔に勝てるだろうか。


「あんな化け物を放置してはおけませんわ! 先生が戦えないのなら、弟子である私が!」

「私も戦うわ、お姉さま! 先生の仇を討ちましょう!」


 仇を討つって、カイルは死んでないんだが。

 マヨネラとアーシェなら、いい戦いをするかもな。


「ヤツには借りがある。この際、たっぷり利子を付けて返してやるか! 我の方が上だという事を思い知らせてくれようぞ!」


 ベルリエルもやる気か。ギルマスには色々とやられているから、復讐する機会をうかがっていたのかもしれないな。


 さて、俺はどうするか。

 別にあいつを絶対に倒さなくちゃならないという理由は、俺にはない。

 ただ、まったく無関係ってわけでもない。盗まれた魔剣を横流しされていたのだし、頭にも来ている。

 ヤツが俺の魔剣を魔女から奪って売りさばこうとしたのは、俺に恨みがあったからみたいだしな。

 本当は俺こそがヤツと戦わなきゃならないのかもな。だが……。


 俺が悩んでいると、メルティが傍に寄ってきた。

 澄んだ瞳でジッと俺の顔を見つめ、淡々と呟く。


「あの男は、あなたへの恨みから、ああなってしまったようね。責任を感じているの?」

「うーん、まあな……俺は過去に自分がやらかした事について、特に後悔はしていないんだが……あの男があそこまで歪んでしまったのは、俺にも責任があるのかもな」

「どうするの? 彼に勝てそう? ハッキリ言って、あれを倒すのは容易じゃないわよ。『魔剣帝』ならともかく、今のあなたではかなり厳しいでしょう」


 さすがはメルティ、冷静だな。

 悪魔化してしまったヤツは、完全にモンスターになってしまっている。

 あの巨体に異様なほど発達した筋肉からして強そうだが、最も脅威的なのは、ヤツがまとっている魔力の量だ。

 宝珠に封じ込めていた悪魔の力がどの程度のものなのかは分からないが、今のヤツはかなり高位の悪魔と同等の強さを備えていると見た。

 今の俺では、真正面からぶつかっても勝てないだろう。

 戦いようがないわけではないんだが。


「王国騎士団第一部隊隊長、マヨネラ・ライオット! 参りますわよ!」

「お姉さまの妹弟子、アーシェ・クリダニカ! 魔剣帝様の敵は私の敵よ! 泥棒だろうが悪魔だろうが切り刻んでやる!」


 まずはマヨネラが、続いてアーシェが剣を抜き、魔力をまとって加速、悪魔に攻撃を仕掛ける。

 マヨネラが右から斬りつけ、アーシェが左から仕掛ける。

 魔力剣による一撃を、悪魔はその太い左右の腕で受け止めてみせた。


「おいおい、危ないな。生身の人間だったら、両腕を斬り飛ばされているところだぜ」

「くっ……!」


 マヨネラとアーシェが剣を引き、離れる。

 そこへ大型の魔力弾が飛来し、悪魔の頭部に激突、轟音と共に大爆発を起こした。

 攻撃魔法を放ったのは、ベルリエルだった。


「フハハハハ、どうだ、効いただろう! 直撃を受ければ、ドラゴンですら瀕死となる威力! 我の超爆雷撃メガプラズマを食らった感想はどうだ? といっても、頭がなくなってはなにも言えないか? フハハハハ!」


 爆発による煙が晴れた後には、頭部を失った悪魔が……と思いきや、悪魔にはちゃんと頭が付いていた。

 悪魔はぷはあと煙を吐き、呟いた。


「人の顔にあんな魔法をぶつけるなんざ、なに考えてやがるんだ? 生身の人間だったら間違いなく死んでるぜ」

「ば、馬鹿な、効いていないのか?」


 ベルリエルが驚くのも無理はない。あの魔法は相当な威力がある。

 人間なら粉々に吹き飛んでいるし、そこそこ強い程度の魔物でも一撃で倒せるという代物だ。

 悪魔の力を得て、肉体を強化しているにしても、無傷というのはあり得ないと思うのだが……。


「あの男、もしかして……」

「お姉さま?」


 なにか気付いたのか、マヨネラが呟き、剣を構え直す。

 魔力を高め、前傾姿勢になる。

 あれは、マヨネラの得意技か。それも正真正銘、正気の状態で放つ、完全バージョン。


「行きますわよ! はあっ!」


 超高速の踏み込み、加速移動からの、魔力剣による神速の斬撃。

 稲妻の軌道を描き、雷鳴をまとった魔力剣が炸裂する。


「――雷鳴斬!」


 受け止めようとした悪魔の腕を突き抜け、悪魔の巨体を斜めにスライスし、稲妻のごとき斬撃が炸裂する。

 マヨネラは即座に標的から離れ、たった今、両断してやった悪魔が、元通りの姿で立っているのを見て、呟く。


「やはり。再生能力を備えているようですわね。それも超高速の」


 どうやらそういう事らしい。普通なら死んでいるようなダメージを受けても、瞬時にして元の状態に再生できるようだ。

 悪魔の能力なのか? なんにせよ、厄介だな。


「ククク、どうだ、俺の力は! 剣も、魔法も、不死身の相手には効かないだろうが! 今の俺は無敵だ! たとえ本物の魔剣帝が相手でも余裕で勝てるぜ!」


 勝ち誇る悪魔をキッとにらみ、アーシェが叫ぶ。


「そんな事ないわ! 魔剣帝様なら悪魔が相手だろうがドラゴンが相手だろうが負けないんだから!」

「へっ、だったら連れてこいよ、魔剣帝をよう! ひねり潰してやるぜ!」

「くっ……!」


 悪魔に挑発され、アーシェは悔しそうに歯噛みしていた。

 おいおいおい。この俺の、唯一かもしれないファンをいじめるんじゃねえよ。

 あの野郎、本物の魔剣帝が相手でも余裕で勝てるだと……ナメやがって。

 残念ながら、今現在、『魔剣帝』は世界のどこにもいないわけだが……代理の人間ならいるぜ。


「おい、ギルマス悪魔! 魔剣帝に勝てるとは大きく出たな! コソ泥の分際で!」

「ああ? なにか言ったか、クソガキ……ぶち殺すぞ?」

「やれるもんならやってみろよ。魔剣帝の弟子であるこの俺が、てめえを叩き切ってやるぜ!」


 ニヤリと笑い、悪魔に宣戦布告してやる。

 悪魔が額に青筋を立ててピクピクさせているのを見て、やっぱりやめときゃよかったかなー、とちょっぴり後悔したが……今さらどうしようもないよな……。

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