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6.高等部二年の実力

 中庭の一角にて。

 剣を構えてアーシェを取り囲んでいる連中に、俺は足音を消してそうっと近付いた。


「おい」

「ん? なん……ぐえっ!」


 手前にいた一人の鳩尾に剣の柄を打ち込んで悶絶させ、隣にいたヤツの脇腹を鞘で打って気絶させる。

 いきなり乱入してきた俺に、貴族出身者の集団とやらは驚いていた。


「な、なんだ、お前は! って、子供? なんで子供が……」

「……アロン君?」


 目をぱちくりさせているアーシェに、俺は軽い口調で声を掛けた。


「面白そうな遊びをやってるな。俺も仲間に入れてくれよ」

「遊びって……ダメよ、危ないわ! 離れていなさい!」


 へえ、この状況で、助けを求めるどころか、俺の心配をしてくれるとはね。

 いい根性してるじゃないか。そういうの、嫌いじゃないぜ。


「どこのガキなのか知らないが、怪我したくなきゃ失せろ。もしも剣を抜いたら、斬られる覚悟ありだとみなされて、斬られても文句は言えなくなるぞ?」

「ダ、ダメよ、アロン君! 剣を抜いちゃダメ!」


 そいつは古来より剣士に伝わる、暗黙の掟ってやつだが……学生にも適用されるのかね?

 剣を抜くなっていうのなら、そういう縛りで対応してみるか。

 腰のベルトから短い方の長剣を鞘ごと引き抜き、右手で鞘をつかんで構える。

 真剣を適当に構えて立っている集団を見据え、連中の人数、立ち位置、剣の向き、構えなどを瞬時に把握する。

 えーと、残りは……八人か。


 タン、と地を蹴り、連中の懐に飛び込む。

 子供の俺がいきなり間合いを詰めてきたので、連中は皆、驚き、あせっていた。

 剣は抜かないまま、柄と鞘の先を標的の鳩尾や喉などに打ち込み、連中の間を縫うようにして駆け抜ける。

 仲間達がバタバタと倒れていくのを見て、強面の男と優男は目を丸くしていた。


「残りはお前ら二人だけだな。しかし、歯ごたえのないやつらだな……」

「な、なん……なんなんだ、お前は!?」

「初等部から飛び級してきた優秀な生徒だよ。ちなみに一〇歳だ」

「じゅ、一〇歳だとう! 毛も生えてなさそうなガキが、高等部二年を倒したっていうのか! そんな馬鹿な!」


 生えてない言うな。気にしてるのに。

 アーシェは意味が分からないのか、「アロン君、髪の毛なら生えてるよね?」など呟き、怪訝そうに首をかしげている。

 うん、分からなくていいんだ。頼むから追及しないでくれ。


「さて、俺はまだ剣を抜いていないが、お前らは既に抜いているよな? それってつまり、斬られる覚悟あり、って事か?」


 俺が目付きを鋭いものに変えて問い掛けると、優男の方は慌てて剣を鞘に納め、両手を挙げた。

 だが、強面の方は剣を構えたままだ。野獣のような目で、俺をにらみ返してくる。


「じょ、上等だ! 来るなら来い、ガキが! ぶった切ってやらあ!」


 面白い。少しは腕に自信ありって事か。

 剣を抜く構えを取りながら、ジリジリと間合いを詰めてみる。

 当然ながら、相手の方がリーチは長いので、攻撃は向こうの方が先に届く。

 行けると思ったのか、男が踏み込んでくる。


「おりゃあ!」


 上段から振り下ろしてきた剣をギリギリでかわし、鞘を打ち下ろすようにして相手の剣先を突き、地面に突き刺してやる。

 同時に剣を抜き、相手の首を落とす――寸前で止めてやる。


「まだやるかい、先輩?」

「い、いや……やめとく……」


 俺が剣を引くと、強面の男はヘナヘナとその場に座り込んでしまった。

 向かってくる根性はよかったんだがな。隙だらけだし、打ち込みの速度も遅い。

 つか、コイツら全員、アーシェよりもかなり弱いし未熟だな?

 この程度の腕でよくアーシェを仲間に誘えたもんだ。


「アーシェに近付くな。今度、彼女に絡んでるのを見掛けたら……斬るぜ?」

「ひっ……!」


 軽く脅してやると、連中は震え上がっていた。

 うん、素直な反応でよろしい。俺もできれば前途ある若者を斬りたくはないからな。


 逃げるようにして引き上げていく連中を見送ったあと、アーシェが俺をジッと見つめて言った。


「一応、お礼を言っておくべきかしら?」

「別にいいよ。クラスメイトを助けるのは当然だろ」

「格好付けちゃって……でも、ありがとう。正直、助かったわ」


 ニコッと微笑むアーシェに、なんだか照れてしまう。


「しかし、こういう場所でも身分の差がどうこうって言うんだな。うぜー」

「そうね。生まれの違いなんて本人にはどうしようもないのにね……」

「?」


 一瞬だが、アーシェが表情を曇らせたような気がして、首をひねる。

 高貴な家柄のお嬢様だと思っていたが……彼女にも色々と抱えているものがありそうだな。


「それにしても、君は何者なの? 剣の腕が立つのは分かっていたつもりだったけど、真剣を抜いた集団を相手にして全然怯えた様子もないなんて……まるでいくつもの修羅場を潜り抜けてきた歴戦の勇士みたい」

「ま、まあ、それなりに場数は踏んでるかもな……あちこち旅をしながら修行をしたりしてたから」

「私よりずっと年下なのにすごいのね……その異常な強さの秘密は実戦経験にあるのかしら?」

「俺って異常?」

「ええ。少なくとも普通じゃないわ」


 真顔で断言され、思わず引きつってしまう。

 異常なのか。えらい言われようだな。

 まあ、ガキの頃からずっと剣を振って生きてきたからな。普通の人間とは違うのかもしれない。


「剣はどこで習ったの?」

「それはその、ほとんど我流で……ああ、一応、魔剣帝にも教わったかな……」

「なっ……魔剣帝ですって?」


 アーシェが顔色を変えたのを見て、慌てて自分の口を押える。

 ヤバイ、失言だったか? アーシェは魔剣帝を目標にしているみたいな事を言っていたし、魔剣帝の名を出したのはまずかったか。


「すごいじゃない、アロン君! 魔剣帝は決して弟子を取らない事で有名なのに! 一体、どうやって?」

「た、たまたま、知り合いが顔見知りだったんだ。それでまあ、ちょっとだけ教わったんだよ」

「魔剣帝に顔が利く知り合いって? どんな人なの?」

「あー、その……お、王国騎士団の団長かな……?」

「!?」


 あまり隠してばかりでもかえって疑われると思い、適当にでっち上げておく。

 騎士団団長と顔見知りなのは事実だし、このぐらいの嘘なら問題ないよな。


「ますます君の素性が分からなくなってきたわ。一体、何者なのよ?」

「一〇歳にして、高等部の兄ちゃんらよりも強い、天才剣士かもな。サインしてあげようか?」

「いらない。なんだか肝心な部分をぼかしているような気がするわね……」


 疑いの目を向けてくるアーシェに、冷や汗をかく。

 いっそ、正体をバラしちまうか? いや、なるべく隠しておいた方がいいよな。

 魔剣帝が子供になって弱体化した、なんて噂が広まったら、俺に恨みを持つ連中が雪崩れ込んでくるかもしれないからな……。

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