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56.師匠と弟子たち

 ベルリエルを逃がした後。

 俺はカイルに捕まり、椅子に座らせられていた。

 先程までの友好的な態度は消え失せ、カイルは険しい顔で俺をにらんでいる。

 参ったな。完全に怒らせてしまったようだ。


「『略奪の魔女』。彼女に魔剣を奪われて、君はこの都市に来たわけか。そしてなぜか、今はその魔剣を盗んだ張本人と行動を共にしていると……」

「いやあ、色々あって仕方なく……魔剣を取り戻すまでなら手を組んでもいいかなって」

「まったく、無茶苦茶だな。そういうところは、師匠の魔剣帝に似ているね」


 呆れたように呟くカイルに、ぎこちない笑みを浮かべてみせる。

 ちなみに俺は拘束されているわけではなく、剣も取り上げられていない。

 それでも逃げる事はできない。目の前にいる男が、にらみを利かせているからだ。


「魔女とは後で落ち合う事になっているのかい?」

「さあ、どうだろ。たぶん、そうなるんじゃないかと」

「まさか、なんの約束もしていないのか? 魔女が魔剣を持って逃げたらどうするんだい?」

「それはないと思う。仮に持ち逃げされたとしても、その時は世界の果てまで追い詰めてやるだけさ」

「魔剣帝にそっくりの考え方だね。あまり師匠の悪いところは真似しない方がいいと思うが……」


 ほっとけ。大きなお世話だぜ。

 しかし、困ったな。カイルのヤツは、絶対に敵に回しては駄目な人間だ。

 子供にされてしまった今の俺では、コイツに対抗するのは至難の業だからな……。


「さて、それでは、魔女が接触してくるまで、君と行動を共にするとしようか」


 冗談じゃねえ。逃げたいところだが、コイツからそう簡単に逃げられるわけがないし、どうすれば……。


「あっ、いたいた! アロン君、大丈夫?」


 店内に入ってくるなり、声を上げたのはアーシェだった。

 メルティとマヨネラも一緒だ。そう言えば、メルティの姿がいつの間にか消えていたが、あの二人を呼んできてくれたのか。


「メルティさんから、アロン君がすごく危ない人に捕まってるって聞いて助けに……その人が危ない人なの?」


 見ると、カイルは例の仮面を被って、顔を隠していた。

 そう言えば、コイツは確か、アーシェ達の……顔を見られたらマズイのか?


「うわ、すごく怪しい人ね! ……でも、どこかで会った事があるような……?」

「魔剣帝だと名乗っていたみたい」

「ええっ! 魔剣帝って……どう見ても偽者なんだけど。魔剣帝の偽者が、魔剣帝の弟子であるアロン君を拘束しているの?」


 メルティから、カイルが魔剣帝の名を騙っていた事を聞き、アーシェは怪訝そうにしていた。

 さすがは魔剣帝のファンだけあって、一目で偽者だと見抜いたか。

 仮面を被っているために表情が見えないが、カイルはかなり動揺しているようだ。さっきから小刻みに肩が震えている。


「あら、あなたは……もしかして……」


 マヨネラが何かに気付いたように呟くと、カイルは慌てて席を立った。

 故意に声色を変えて低い声を出し、呟く。


「き、急用を思い出したので失礼する!」

「お待ちください。もしや、あなたは……」

「し、失礼する!」


 マヨネラの問い掛けを振り切るようにして、カイルは風のように去っていった。

 残された僧侶のリリアが大慌てで籠を担ぎ、後を追って店から出て行く。

 二人を見送り、マヨネラは首をかしげていた。


「おかしいですわね。なぜ、お逃げになるのでしょう? せっかく久しぶりにお会いできたのに……」


 それはたぶん、魔剣帝の名を騙っていたからだろうな。

 マヨネラやアーシェに、そんなおかしな真似をしている事を知られたくないんだろう。

 ともあれ、助かった。この二人がこの都市に来てくれていてよかったぜ。


「ありがとよ、メルティ。おかげで助かったぜ」

「別に大した事はしていないわ。アーシェさん達が話をしてくれれば君を解放してくれるんじゃないかと思っただけ」

「その読みは大当たりだったぜ。お礼にハグしてやろうか?」

「……セクハラで訴えるわよ、オジサン」


 照れてるのか? かわいいヤツめ。

 しかし、本当に助かったな。今の俺にとって、最も厄介な相手があいつだからな。

 味方にできれば、あいつほど頼もしいヤツもいないんだが。俺が魔剣帝である事を証明できるまでは無理か。


「お姉さま、今の人って……」

「ええ。おそらく、先生でしょうね。なぜ顔を隠しているのか、なぜ魔剣帝の名を騙っているのかは分からないけど……」


 そう、そうなんだ。カイルのヤツは、アーシェとマヨネラの、剣の師匠なんだよな。

 そしてヤツは、この俺とも旧知の仲であり、浅からぬ因縁がある。

 知人ではあるが、友人かというと微妙な関係だな。

 なにせあいつは……この俺と、魔剣帝と双璧をなす、唯一の剣士だからな……。


「それで結局、アロン君の魔剣はどうなったの?」


 アーシェが尋ねてきたので、これまでの経緯をかいつまんで説明しておく。

 事情を聴いたアーシェとマヨネラは、難しい顔をしてうなっていた。


「なんだか色々と面倒な事になってるみたいだけど……とりあえず、魔剣は魔女の人が取り返してくれたわけね。最初に盗んだのもあの人だけど」

「先生は魔剣帝のために、彼の名を騙っているわけですか。それならそうとおっしゃってくれればよろしいのに……」


 これでどうにか魔剣は戻ってきそうだが、まだ問題は残っている。

 カイルのヤツは魔剣帝を名乗り、闇オークションを取り仕切っている盗賊ギルドの連中と揉めている。

 魔剣を持ち込んだ者の情報と引き換えに代金を払うと言っていたが、はたして盗賊ギルドの連中が応じるだろうか?

 最初に盗んだのは魔女のベルリエルだと判明したので、カイルはもう情報を得る必要はないと考えるかもしれないしな。


 どう転んでも揉めそうだな、こいつは。

 俺としては魔剣さえ取り戻す事ができればいいのだが……。

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