53.魔剣の落札者
「現在、闇オークションを仕切っているのは、盗賊ギルドの連中だ」
「えっ、そうなのか? 闇ギルドじゃなかったのか」
街中を歩きながら、ベルリエルが呟き、俺は少しばかり驚いてしまった。
闇オークションとかいうから、てっきり闇ギルドが絡んでいるとばかり……。
「闇ギルドはあくまでも裏の組織だ。オークションのような、カタギの人間が大勢関わるような企画など運営したりはしない。盗品をオークションに流すヤツはいるがな」
「暗躍はするが、表には出てこないのか。組織としての活動というのは特にしない感じか?」
「仕事に参加する者を募ったり、邪魔者を粛清したりはするようだが……組織を動かしている、幹部とやらが何人かいるらしい」
盗賊ギルドで聞いた話じゃ、かなりあくどい真似をしているらしいが。
闇オークションを仕切っているとなると、盗賊ギルドの方もヤバイ組織なのは変わりないのかもな。
「昨晩の騒ぎのせいで、落札者への商品の引き渡しが遅れているらしい。盗品を取り返すチャンスだぞ」
「おっ、そうなのか。今度こそ取り返してやるぜ……!」
するとそこで、メルティが魔女に告げた。
「私から奪った物はどこにあるの? 返して」
「メルティ、それは……」
それについては、一応、話をつけてある。
盗品を取り返したら、返してもらう約束だと説明しようとしたところ、魔女が答えた。
「我が保管している。仕事が済めば返してやろう」
「本当でしょうね」
「小僧と約束したのでな。貴様らの宝を返さないと斬ると脅されたので、間違いなく返すつもりだ。安心しろ」
「アロンが? そう……」
メルティにジッと見つめられ、俺は目を泳がせた。
「な、なんだよ。ちゃんとメルティ達の物も取り返すつもりだったんだからいいだろ?」
「ううん、不満はないわ。ありがと」
「お、おう」
調子狂うな。素直に礼なんか言うなよな。
「どこから当たる? 昨夜の倉庫か?」
「いや、既に商品は別の場所へ移されているらしい。おそらく今日中に落札者に引き渡すだろうから、ギルドの連中の動きを探るか、あるいは……」
「落札者の方を見張るか、か」
「そういう事になるな」
ニヤリと笑う魔女に、冷や汗をかく。
コイツはかなりのやり手だが、さすがは魔女というか、無茶な真似を平気でするからな。
あまり非道な真似はさせないようにしないと。扱っているのは盗品ではあるが、ギルドや落札者には罪はないんだし……。
「盗賊ギルドはギルドマスターが代替わりしていてな。新しいギルマスになってからは、統率がイマイチ取れていないらしい。ギルドを抜けて闇ギルドに流れていく者も多いと聞く」
そんな事になっているのか。確かに、あのギルマスは先代の爺さんに比べて、小物っぽかったが……。
「闇オークションに力を入れるようになったのも、評価の下がったギルドを盛り返すためだろう。今のギルマスの力では無理だと思うがな」
「そんなに今のギルマスは駄目なのか?」
「盗賊としての能力そのものはかなり高いと聞く。だが、個人の能力と、組織の長としての能力は別の物だ。今のギルマスには、ギルドメンバーを引っ張っていく統率力が欠けている」
ああ、いるよな、そういうヤツ。個人としての能力は高くても、リーダーには向かないヤツか。
実を言うと俺もそういうタイプなので、批判されると耳が痛いんだが……ベルリエルだって、同じタイプじゃないのか?
「我は組織になど興味がないのでな! 魔女とは孤高の存在であるべきもの! 何事にも縛られはせぬ!」
「あー。魔女って、そういうとこあるよな」
ベルリエルに先導され、街中を足早に歩いていく。
俺達を誘導しながら、略奪の魔女は呟いた。
「盗品をどこに移したのかは不明だが、落札者についてはつかんでいる。そいつの動きを監視してみよう」
「マジか。どこかの金持ちの、収集家か? 貴族連中かな」
「そこそこ有名な剣士らしいぞ。オークションに参加したのは代理人らしいが……」
へえ、そうなのか。
有名な剣士なら、俺の知り合いかもしれないな。相手によっては剣を譲ってくれるように交渉できるかも。
ベルリエルは、都市の中心近くにある、大衆食堂に向かった。
割と大きな建物で、広い店内にはいくつものテーブルが並び、大勢の客が詰めかけている。
店内を見回しながら、奥にある四人掛けのテーブルに着く。
「落札者は、ここで商品を受け取るらしいぞ。受け取る前に奪うか、受け取った後に譲ってもらうように交渉するか……」
元は盗品なんだから奪い返してしまえばいいとは思うが、そうもいかないか。
落札した人物は、金を払って商品を購入するわけだからな。
代金を支払う前に手を引いてもらうか。その上で、オークション側と交渉を……。
飲み物を注文して、しばらく待つと、不意にベルリエルが呟いた。
「来たぞ」
「!」
相手に気取られないよう、さり気なく、店に入ってきた人物に目を向けてみる。
白い帽子に、白い法衣を着た、僧侶と思われるいでたち。
サラサラの長い銀色の髪に、青い瞳の、若い女性。かなりの美人だ。
僧侶らしき美女は、背中に大きな籠を担いでいた。籠の口から剣の柄らしき物が複数のぞいている。
なんだあれは……僧侶がなぜ何本も剣を……。
剣の収集家かなにかなのか?
「あの僧侶で間違いないのか?」
「ああ、あの女は代理人らしい。落札者本人は……来ていないようだな」
代理人か。じゃあ、あの僧侶に交渉してみればいいのか?
僧侶は俺達から少し離れた位置にあるテーブルに近付き、重そうな籠を床に下ろして、席に着いた。
「神よ、今日もまたお食事にありつける幸せに感謝します。……すみません、モーニングセットを三人前、お願いします!」
三人分の朝食を、僧侶は一人でパクパクと食べていた。
なんだあの女は……すごい大食いだな。
それに、今から闇オークションの商品を受け取るんじゃないのか? のんきに食事なんかしていていいのかよ。
僧侶の様子をうかがい、ベルリエルが囁いてくる。
「食事をとっているという事は、商品の引き渡しまで時間があると見た。チャンスだぞ」
「どうするんだ?」
「あの女を拉致して、ボコボコにしよう。我があの女に化けて、商品を受け取ればよかろう」
「アホか! 冗談言ってないで真面目に考えろよ!」
「いや、我は大真面目なのだが……」
余計悪いわ。無茶苦茶だな、コイツ。
だが、商品の引き渡しまで時間があるのなら、確かにチャンスではあるな。
そこで俺は席を立ち、僧侶のテーブルに近付いた。
食事に夢中の僧侶に声を掛けてみる。
「どうも。ちょっといいかな、お姉さん」
「ふぁい?」
口一杯に食べ物を頬張り、僧侶の女性は俺に目を向けてきた。
美人なのに、色々と台無しだな。そんなに腹ペコだったのか。
「お姉さんは、剣の収集家なのかな?」
「あー、いえ。私は全然、そういうのじゃありません。パーティーを組んでいる人から剣の収集を頼まれていて……」
「その人が収集家なのか。どうしてお姉さんに代理を?」
「すっごく忙しい人なんですよ。おまけに有名人なので、オークションなんかに顔を出したら大騒ぎになっちゃいます。それで私が代理人を務めているというわけです」
「へえ、有名人なんだ。よかったら名前を教えてもらえないかな?」
すると僧侶の女性は、周囲に聞こえないよう、やや声を潜めて、呟いた。
「名前は言えませんが……『魔剣帝』って知っていますか?」
「あ、ああ、もちろん知っているけど……まさか……」
「そうなんです。その人は、『魔剣帝』と呼ばれている、超有名な剣士なんですよ。あっ、ここだけの話ですよ? くれぐれも内密に……」
ほほう、よりによって魔剣帝とはね……。
この俺の前で、よくその名を出せたもんだな。
俺の知る限り、魔剣帝を名乗る事ができる者は、この世に一人だけなんだが。
まあ、この僧侶の女性は、そいつに騙されているんだろうな。かわいそうに。
しかし、落札者が『魔剣帝』を名乗っているヤツなのだとすると、ちょっと興味が湧いてきたぞ。
ぜひとも、そいつに会ってみたいぜ。魔剣帝の名を騙るからには、それなりに腕は立つんだろうな。
「会ってみたいな、魔剣帝に。どこにいるんだ?」
「なにしろ忙しい方なので……現在取り掛かっている仕事が済めば、ここで合流する事になっているのですが……」
「仕事って?」
「ここより北の地で、ドラゴンゾンビが暴れていて、その討伐に……」
「ドラゴンゾンビだと……!」
ドラゴンゾンビは、その名の通り、ドラゴンがゾンビ化したモンスターだ。
ただでさえ手強い竜種のモンスターに、不死の要素が加わるので、かなり厄介な化け物だ。
俺も何度かやり合った事があるが、少々腕が立つ程度の剣士じゃどうにもならない。
そんな化け物を退治しに出ているというのが本当なら、かなり凄腕の剣士なんじゃないのか。
魔剣帝の名を騙るようなヤツとは結び付かないな。ホラ話なのかもしれない。
「おや、噂をすれば……連れが来たようです。おーい、ここです、ここ!」
「!?」
僧侶が手を振り、声を上げる。
店の出入り口の方に目を向けてみると、そこには……。
とんでもないヤツが、立っていた。




