51.魔女対特殊警備部隊
黒装束の連中はすばやく動き、俺と魔女を包囲する形を取った。
おそらくは、全員がカエデと同じタイプなのだろう。体術を得意とする、アサシンのような職業か。
「やれ」
カエデが合図し、黒装束達が一斉に動き、木箱の上から飛び降りてくる。
なにかを投げ付けてきたので、短い方の剣を抜き、弾き落とす。
星形の、刃物か? 妙な武器を使いやがるな。
「貴様ら、噂に聞く、ニンジャ、とやらか! はるか東方に住む、諜報や暗殺の能力に長けた者ども。王国に出稼ぎにでも来たのか?」
「我が祖国は王国と同盟を結んでいる。我らが派遣されたのは、王国との友好関係を築くため。王国に仇をなす者を見逃すわけにはいかん!」
ベルリエルが愉快そうに笑い、カエデが叫ぶ。
……全部で五人か。こいつら、かなり強いぞ。
カエデと同じタイプなら、近接戦闘を得意としていると見て間違いない。
距離を詰められると、魔法攻撃主体のベルリエルはかなり苦しいだろうな。
「ククク、この距離なら魔女など恐れるに足らず、とでも思ったか? 我をナメるなよ、ニンジャども!」
ベルリエルが右手を前に突き出し、掌に魔力の光を宿す。
コイツ、杖なしで色々な魔法が使えるんだな。さすがは魔女ってところか。
包囲の輪を狭めようとしたカエデ達に向けて、ベルリエルの魔法が放たれる。
「雷風!」
「!?」
ベルリエルを中心として、魔法による風が渦を巻き、吹き荒れる。
それは単なる風ではなく、雷撃を含んでいた。
黒装束の一人が直撃を受け、感電したようにしてバタンと倒れる。
残る四人は慌てて後ろ向きに飛び、魔法を回避した。
「間合いを開けてしまえばこちらのものよ! 雷撃刃!」
雷撃の刃が四方に飛び、カエデ達を襲う。
カエデ達はさらに後退し、木箱の陰に隠れて魔法による攻撃を避けた。
ベルリエル、魔女を名乗るだけあってかなり強いな。戦い慣れているようだし、相当な場数を踏んでいると見た。
「ふん、なんだ、ニンジャとはこんなものか? ヤバい相手だったら小僧を人質にして逃げるつもりだったのだが、その必要もなかったな!」
「そんな事を考えてたのかよ! なんてヤツだ!」
魔女は小声で「冗談だ、冗談」などと呟いていたが……いや、今のは絶対本気だっただろ! やっぱり魔女は信用できねえな!
木箱の陰から顔をのぞかせながら、カエデが言う。
「貴様こそ、私達をナメるなよ、魔女め……皆の者、行くぞ!」
カエデの号令で、四方に散っていた黒装束三人が飛び出してくる。
ベルリエルは再び雷撃を含んだ風を起こして迎え撃った。
「雷風!」
三人の黒装束は次々と感電してしまい、バタバタと倒れていった。
勝ち誇るベルリエルに向けて、新たな黒い影が複数飛来し、迫ってくる。
「むっ、まだ伏兵がいたのか! 雷撃刃!」
ベルリエルは雷撃の刃を放って迎撃したが、二人ほど撃ち漏らしていた。
そこで俺は短い方の剣を抜き、短刀で斬りかかってきた黒装束を迎え撃った。
一人の短刀を弾き、二人目の攻撃を剣で受け止める。
魔力剣を発動、二人をまとめて弾き飛ばしてやり、さらに魔力の刃を放って追い打ちをかける。
攻撃を受けた二人が、ボン、と音を立てて消滅したのを見て、俺は首をひねった。
「なんだ、こいつらは……人間じゃない……?」
「どうやら分身のようだな。質量を持ち、攻撃する事が可能な分身……これが噂に聞く影分身というヤツか」
ベルリエルが感心したように呟く。
分身の術なのか。分身でも攻撃ができるというのは何気にすごいな。
見ると、カエデは物陰から出てきて、新たな黒装束達を五人ほど従えていた。
「もしかして、あんたは……ずっと分身達を連れて行動していたのか?」
「ふっ、そういう事だ。最初から私一人で貴様らの相手をしていた。我が術の前にひれ伏すがいい……!」
なんと、そうだったのか。気配が複数あったから、完全に騙されてしまった。
さすがは東方の国では最強と聞くニンジャ……やるもんだな。
「行くぞ、魔女と裏切り者の小僧! 忍法、爆雷波!」
「「!?」」
カエデが腕を振るうと、分身達も同じ動作を行い、なにやら黒い球体を複数、投げてきた。
それらの球体が火花を放っているのに気付き、俺と魔女は顔色を変えた。
「ちょ、ちょっと待て! あれはもしかして……!」
「もしかしなくても爆弾だ! おのれ、無茶な真似を……雷風!」
ベルリエルが雷撃の風を放ち、飛来した爆弾を吹き飛ばす。
爆弾が消えていくのを見て、俺はハッとした。
投げた爆弾は、全て幻影か。なら、本物の爆弾は……?
そこで床の上を黒い球体が転がってきているのに気付き、冷や汗をかく。
「くそ、本物は転がしてきたのか!」
魔剣ソードウインドを発動、風の刃による障壁を展開する。
同時に爆弾が爆発し、閃光が弾け、大気が揺らぐ。
小さいのになんて威力だ。障壁を張るのがあと少し遅れていたら、身体をバラバラに吹き飛ばされていたな。
「貴重品を収めた倉庫内で爆弾を使うとは、頭がおかしいのか、あやつは!? 小僧、いったん引くぞ!」
「い、いや、でも、俺の剣が……!」
「今回はあきらめろ! このままやり合えば、あの馬鹿は商品をすべて吹き飛ばしてしまうぞ! ここは引くしかない!」
「ううっ……!」
悔しいが、魔女の言う通りか。
まさか、カエデとかいう女が、ここまでイカれた人間だったとは思わなかった。
「待て、罪人ども。逃さんぞ……!」
分身を引き連れたカエデが追ってこようとしたので、俺は剣を振るい、魔力の刃を飛ばした。
魔力の刃が分身達に命中し、爆発を起こす。その隙に脱出を図る。
「つかまれ、小僧!」
差し出された手を取ると、魔女は俺ごとフワリと宙に浮いた。
風のように倉庫内を飛行し、入ってきた窓から外へと飛び出す。
……普通に空を飛んでやがるし。これだから魔法使いってヤツは……。
倉庫からある程度離れたところで地上に降りて、物陰に身を潜める。
あたりの様子をうかがってみると、なにやら騒ぎになっているようだった。
「オークションの倉庫で爆発が起こったらしいぞ!」
「誰かが盗みに入ったって?」
「警備についていた連中が火をつけたらしいぞ! なにを考えてやがるんだ!」
「急いで火を消せ! お宝が燃えちまう!」
おいおい、えらい事になってるぞ。
俺達のせいじゃないよな? 全部、あのニンジャ女が悪いんだ。
「面倒な事になったな。これではしばらく近付けそうにないぞ」
「どうするんだよ?」
「なに、まだ手はある。我に任せておくがいい」
ベルリエルは自信がありそうだが、本当に大丈夫なのか?
どうにかして魔剣を取り返す事ができるといいんだが……。




