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50.魔女との共闘

「あの後、オークション関係者を何人か締め上げて情報をつかんだのでな。動くのなら早い方がいいと思い、貴様に声を掛けたのだ」

「へえ。情報って?」


「オークションに魔剣ブロードザンバーが出品されていたのは知っているな?」

「ああ、あれか。残念ながらあれは偽物だったぜ」

「そう、皆の前に出された物は偽物だったのだが……オークション側はちゃんと本物を確保しているらしいのだ」

「なっ……なんだって?」


 目を丸くした俺に、魔女はニヤリと笑って告げた。


「なにせ盗品だからな。本物は人の目に触れないようにして、偽物で競売にかけ、落札後に本物を引き渡すという手はずらしい」

「マジかよ。じゃあ、俺の魔剣は落札した誰かの手に渡った後か?」

「いや、まだのはずだ。商品の引き渡しは明日の朝以降を予定しているらしい。つまり……」

「取り返すなら今夜しかない、ってわけか」

「そういう事だ!」


 魔女に案内され、夜の街を足早に進んでいく。

 この時間になると、さすがに人気はなかった。盗賊も寝ている時間か。


「なあ。あんたはどこに所属してるんだ? 闇ギルドか、それとも全然別の組織か?」

「フッ、我は自由を愛する、孤高の魔女なり! 取引はするが、どこの組織にも属してはおらぬ! 闇ギルドは取引先の一つにすぎぬのだ」

「フリーランスの泥棒魔女か。とんでもなく厄介な存在だな」

「ふふっ、そうほめるな! 照れるではないか!」

「いや、ほめてねえよ……」


 どこの組織にも属さず、自由に生きる、か。

 俺の信条と同じじゃないか。盗むのは駄目だが、その生き方には共感できるかもしれない。


 向かった先は、都市の中心から遠く離れた場所だった。

 このあたりはどうやら倉庫街のようだ。それらしい建物が並んでいる。

 とある大きな建物を差して、魔女が言う。


「あそこが闇オークションを主催している組織が使っている倉庫だ。オークションに出す商品はすべてあそこに保管されているらしい」

「らしい?」

「確認したわけではないからな。情報がガセという可能性もある」

「マジかよ。無駄足になるかもしれないわけか」

「なに、実際に見て確かめてみればいい。行くぞ」


 倉庫の入り口の扉は閉ざされていて、武器を持った見張りが二人いた。

 魔女に手招きされ、倉庫の裏手へと回り込む。

 壁をよじ登り、天井近くにある明かり取りと思われる窓へ。

 魔女が窓に触れると、音も立てずに窓枠ごと窓が消えた。

 開いた窓を潜り抜け、倉庫内へ。


 窓から床へと降り立ち、あたりを見回す。倉庫内は真っ暗で、ぼんやりとしか見えない。

 かなり広い倉庫で、天井近くまで積み上げられた木箱の列がいくつも並んでいた。

 この沢山の荷物の中から、俺の魔剣を探し出すのはさすがに無理なんじゃないのか。

 すると魔女が、闇の中で呟いた。


「心配は無用。どこにあるのかはすぐに分かる」

「本当かよ。どうやって?」

「朝には商品の引き渡しをしなければならないのだぞ。いつでも取り出せるように、低い位置に下ろしてあるはず。そして、出入り口の近くに置いてあるはずだ」

「なるほど。さすが泥棒、詳しいな」

「ふっ、まあな」


 倉庫の奥から、出入り口がある方へ向かう。

 今のところ、入り口の外にいた見張り以外には人の気配はない。

 出入り口の近くまで行ってみると、床の上に木箱が十個ほど並べて置いてあった。

 この中に俺の魔剣があるのか。よし、箱を片っ端から開けて中身の確認を……。


「そんな必要はない。我は一度手に入れた品には魔法でマーキングを施している」

「マーキング?」

「ある程度近付けば、探し出すのは容易だ。まあ、見ておれ」


 ベルリエルが右手に魔力の光を宿し、床に並んだ木箱に向けて手をかざす。

 すると木箱の一つから光が漏れていた。蓋を開けてみると、中に納まっている商品の一つが青白い光を発している。


「見付けたぞ。コイツで間違いあるまい?」

「おおっ」


 盗まれた俺の魔剣、ブロードザンバー。偽物ではなく、本物だ。

 ようやく取り戻せたと思い、剣を取ろうとしたところで、真っ暗だった倉庫内に明かりが灯された。


「見付かった……?」

「分からん。ひとまず隠れるぞ!」


 魔女に手を引かれ、魔剣の入った木箱から離れる。

 ああ、あと少しで取り戻せたのに……誰だ、邪魔しやがったのは?

 ベルリエルは俺の手を引いてすばやく移動し、積んである木箱の列の間に身を潜め、周囲の様子をうかがった。

 入り口の扉が開く音がして、複数の足音が聞こえてくる。

 木箱の陰からのぞいてみると、五、六人ぐらいの男達が来ていて、先程の木箱の所に集まっていた。


「おい、蓋が開いてるぞ」

「ちっ、誰か閉め忘れたな? 閉め直しとこう」


 男達が木箱を運び出そうとしているのを見て、冷や汗をかく。

 馬鹿な。商品の引き渡しは朝じゃなかったのか? こんなに早く運び出すなんて。

 コイツはまずいぞ。落札者の手に渡ってしまった後だと、取り返すのが難しくなってしまう。

 そうなる前になんとかしないと。


「ふむ、全部で六人か。あのぐらいの数なら楽勝だな。さっさと片付けてしまおう」

「えっ? お、おい、あんまり無茶な真似は……」

雷撃刃ボルトダガー!」


 ベルリエルが雷撃の刃を放ち、男達に攻撃を仕掛ける。

 完全に不意を突かれた男達は抵抗する暇もなく、バタバタと倒れてしまった。


「殺したのか?」

「気絶させただけだ。こう見えても殺生は好まないのでな。無駄な血は流さぬに越した事はあるまい」

「城で会った時は未成年の俺達を殺そうとしたくせに……」

「場合によるというだけだ。それ、さっさとお宝を回収するぞ」


 木箱へ近付こうとしたところ、何者かの声があたりに響いた。


「そこまでだ、曲者! 無駄な抵抗はやめろ!」


 いつの間に現れたのか、積み上げられた木箱の上に、怪しい連中が立っていた。

 身体にピッタリとフィットした黒装束に覆面姿。アサシンのような連中だ。


「むっ、妙な場所で会うな、小僧……」


 黒装束の一人には見覚えがあった。

 王国警備隊の隊長、はるか東の国の出身だという、謎の多き女性。

 確か、カエデさんだったか。なぜ彼女とそのお仲間がこんな所にいるんだ?


「調査を兼ねて、潜入していたのだ。オークション商品の警護役としてな」

「そうなんですか」

「貴様と一緒にいるのは手配中の大罪人、『略奪の魔女』ではないのか? どういうつもりだ、小僧!」

「いや、これはその、話すと長くなるんですが……盗まれた物を取り戻すために一時的に手を組んだのです」

「正気か? 色々と調べてみたが、その魔女はとんでもないヤツだぞ。極悪非道な闇ギルドの連中ですら、できれば関わり合いになりたくないと煙たがっているぐらいだ。盗賊の上前をはねるわ、平気で裏切るわ、敵対する組織を行き来するわとやりたい放題だとか……」


 マジか。いや、城に乗り込んだり、闇オークションに乱入したりしているんだから、とんでもないヤツなのは分かってはいたが。

 ベルリエルはと言えば、なぜか得意そうに胸を張っている。

 いや、全然ほめられていないぞ? それに相手が誰だか分かっているのか?

 なんのためにあの連中がこの都市に来ていると思ってるんだ。


「貴様の居場所を探り出すために、こんな仕事についていたのだが、そちらから来てくれるとはな。手間が省けたぞ、コソ泥め……!」

「我はコソ泥などではない! これでも盗賊王を目指しているのでな!」

「えっ? そうなのか?」


 ハッとした俺に、魔女はふふんと鼻を鳴らして告げた。


「かつて、王国中を荒らし回ったという大怪盗、盗賊王! あの魔剣帝に敗れてしまって以降は引退したらしいが……強きをくじき、弱きを助ける、その自由な生き方は盗賊の鑑であり、実にすばらしい! 盗賊王に匹敵する存在になるのが我の目標なのだ!」

「盗賊王は一応、義賊だったんだが……あんたは義賊って感じじゃないな」

「我は盗賊ではなく魔女なのでな! 強きはくじくが、弱きは特に助けたりはせん!」


 ……はっきりしてやがるな。なんだか少し好きになってきたぜ。


「貴様の目的などどうでもいい。王国に仇をなす罪人め。この場で捕らえて王都に連行してくれるわ……!」


 カエデが呟き、仲間達が身構える。

 まあ、そうなるよな。連中はベルリエルを捕まえるために来ているんだから。

 もちろん、俺は王国側の味方だ。この都市に来た目的もほぼ同じだしな。

 ただ、完全に同じというわけじゃない。魔女を捕らえるのが俺の目的じゃないんだ。


「あー、悪いけど、ちょっと待ってもらえないか? 俺は盗まれた剣を取り返すのを優先したいんで」

「馬鹿な、なにを言っている! その魔女は、国王をさらおうとした大罪人だぞ! なによりもそやつの逮捕を優先するべきだろう!」

「いや、俺の目的は違うから。魔女をどうするかは、剣を取り返してからだ。それまでは手を組むって約束だしな」

「貴様……自分の目的のために、国賊を見逃すつもりか……!」


 そうは言っていないんだが。魔女を捕まえるのに反対をするつもりはない。

 ただし、まずは魔剣を取り返してからだ。「手を組む」と約束した以上、俺の方から裏切るわけにはいかないし。


「邪魔をするなら貴様も同罪だぞ、小僧……反逆者として追われる身になっても構わないのか?」

「それは嫌だけど……たとえ一時的にでも、手を組んだ相手は裏切れないな」


 カエデは舌打ちし、仲間達に告げた。


「魔女を捕らえるぞ。小僧が邪魔するようなら倒してしまっても構わん。捕らえるのが無理なら始末しろ」


 なんだかおかしな事になってきたぞ。

 味方であるはずの王国警備隊の連中と戦わなくちゃならないなんて……どうしてこうなったんだ?

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