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49.いけない夜遊び

 さて、捜していた魔女は見付かったわけだし、一応は上手くいったという事でめでたしめでたし。

 ……とはならなかった。


「あなた達! 宿で待機と言ったはずです! あんな危ない場所に子供だけで入り込むなんて、なにかあったらどうするつもりでしたの!?」


 宿屋に戻ってすぐ、俺達はマヨネラから説教を受けていた。

 子供になってからというもの、大人から説教されてばかりのような気がする……子供って大変だったんだなあ。


「で、ですが、お姉さま。私達だけ留守番しているなんて、とてもできません」

「それでもし、年下の二人がさらわれでもしたらどうするのです! あなたに責任が取れますの、アーシェ!」

「うっ……そ、それはその……さらわれないように気を付けて……」

「気を付ければ大丈夫というものではありませんわ!」


 姉弟子のマヨネラに怒られ、アーシェは小さくなっていた。

 そこで俺は、おずおずとマヨネラに告げた。


「えーと、その……アーシェを怒らないであげてください。最初にオークションへ行こうと言い出したのは俺なんです」

「もちろん、あなたも同罪ですわよ、アロン君! 夜中に子供が外に出るなんてとんでもない事ですわ!」

「す、すみません……」


 本来は年下のマヨネラから子供扱いされたあげく、ガチで説教をされるとは……。

 なかなかに屈辱的だが、保護監督者の立場からすれば怒って当然だよな。素直に反省しておこう。


 お説教の時間が終わり、寝る事になった。

 家族向けの大部屋だとかで、部屋はそこそこ広く、ベッドが三つも並んでいた。

 ん? 三つ? 一つ足りないような……。


「アロン君のベッドはこちらにありますわ。お子さん用のベッドです」

「こ、子供用ベッドだと……?」


 三つのベッドの隣に、高さが低く、サイズそのものが小さいベッドがあった。

 いや、最初にこの部屋に入った時から小さなベッドの存在には気付いていたが……荷物置きか、赤ん坊用のベッドだと思っていた。

 まさか、俺用のベッドだったとは。完全に幼児扱いじゃねえか。


「こ、子供用……アロンにぴったり……んふふ……」

「おいこら、なにがおかしい! ちっ、どうせ俺はお子様だよ」


 メルティは自分の口を押えてプルプルと肩を震わせ、懸命に笑うのをこらえていた。

 子供用ベッドに寝転がってみると、悔しいが丁度いいサイズだった。


「俺様にジャストフィット、か。子供に戻ったような気分だぜ……」

「いや、アロン君は実際、子供でしょ?」

「……もういっそ幼児になってやるか」

「えっ?」

「ばぶー、ばぶばぶ! アーシェお姉ちゃん、抱っこ! 抱っこして!」

「えー? しょうがないなあ」


 アーシェは苦笑し、本当に俺を抱きかかえてくれた。

 いや、冗談で言ったんだが……うおおお、でっかい胸のふくらみに顔が埋まる……!


「子供のフリして女の子に甘えてる……なんて犯罪的なのかしら」

「えっ、アロン君は子供でしょ? 中身は大人なのかもしれないけど」


 アーシェの何気ない一言に、俺とメルティは凍り付いてしまった。

 俺は真っ青になり、メルティがおそるおそるアーシェに尋ねた。


「あ、あの、それってどういう……」

「いや、アロン君って発言が大人っぽいし、色々な事を知ってるから、中身は年齢以上に大人なんじゃないかなー、って……あれ、私、なにか変な事言った?」

「い、いえ。特に問題ないです。気にしないでください」

「?」


 なんだ、そういう事か。アーシェが俺の正体に気付いたのかと思ってあせったぜ。

 しかし、いずれバレてしまった時に、それまでの事が問題になるかもしれないし、あんまりくっついたりしない方がいいよな。


「一人だけ子供用ベッドなんてかわいそうよね。アロン君は私と一緒に寝ようか?」

「なっ……い、いや、それは……」

「ア、アーシェさん、もっと自分を大切にした方が……あとで大変な事になるかも……」

「?」


 アーシェには俺が子供にしか見えないらしく、不思議そうに首をかしげるだけだった。

 マズイよな。もしも俺の正体がいい年こいた大人で、しかも魔剣帝だって分かったら……アーシェに殺されるかもしれない。


「あなた達、早く寝なさい。アロン君、子供用がお嫌でしたら、私と一緒に寝ましょうか?」


 マヨネラからとんでもない事を言われ、俺はうろたえてしまった。


「い、いや、よくないっすよ、そういうの! 嫁入り前の娘さんがはしたない!」

「あらあら、そんなにうろたえたりしてかわいい事。お顔が赤いですわよ?」


 うるせーな、そりゃ赤くもなるわ! 知り合いの女から一緒に寝ないかとか言われたら。

 マヨネラは平気かもしれないが、俺は駄目だ。下手すりゃ死ぬぞ。勘弁してくれ。


「ここは間を取って、私と寝る? エッチな事をしないと誓うのなら構わないわよ」

「なんでそうなるんだ……そりゃまあメルティが一番刺激が少ないだろうけど……」

「……」

「いてえ! お、おい、無言で頭を殴るなよ! 痛いって!」


 なぜかメルティにグーで頭を殴られてしまい、痛みに顔をしかめる。

 メルティと一緒に寝られるなんて最高だぜ! とでも言うべきだったのか?

 俺の実年齢を考えると完全に変質者の発言になるが。


 結局、俺は子供用ベッドで寝る事になった。

 なんだか特殊なプレイでもやっているみたいで変な感じだが、今の俺は子供なんだ。深く考えないようにしよう。



 しばらくして、皆が寝静まった頃。

 誰かに呼ばれたような気がして、俺は意識を覚醒させた。


 なんだ? 今、確かに俺を呼ぶ声が……。

 ベッドの上で身を起こし、室内を見回す。みんな寝ているようで、起きている者はいない。

 あたりの気配を探り、部屋の直上に誰かがいるのに気付く。

 ……上か。もしや旅行者狙いの泥棒か?


 寝巻のまま靴を履き、コートを羽織り、二本の剣を手にする。

 窓を開け、窓枠に足をかけて、外へ飛び出す。


 宿屋の屋根の上に出てみると、夜の闇に紛れて、怪しいヤツがいた。

 黒いローブをまとった、魔道士らしき人物。

 そいつは俺の姿を認めると、被っていたフードを下し、素顔をさらした。


「来てやったぞ。少し付き合え、小僧」

「こんな時間に子供を連れ出すなんて、不良だな、あんた」


 略奪の魔女、ベルリエル。

 後で連絡を入れるという話だったが、もう来たのか。


 ニヤリと笑った魔女を見て、本当にこんなヤツと組んで大丈夫なのか、俺は今さらながらに不安になったのだった。

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