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48.魔女の誘い

「『略奪の魔女』だと! 盗賊の上前をはねるという、泥棒狙いの泥棒魔女か!」

「闇オークションの品物を盗むつもりか? とんでもねえヤツだ!」


 ここではそれなりに名が通っているらしく、オークション参加者の多くは『略奪の魔女』の名を知っているようだった。

 魔女が杖を手に取ると、司会者が声を上げた。


「困ります! オークション終了まで商品には手を触れないでください!」

「うるさい! なら、我が落札してやる!」


 魔女は腕を振るい、コインを二枚、投げ付けた。

 二枚のコインはそれぞれ、司会者の左右の目に蓋をするようにして貼り付いた。

 開始価格が1Gだったからコイン二枚で落札したわけか。皮肉のつもりかよ。

 司会者が倒れ、ステージの袖から闇オークションを主催する組織の者と思われる、武装した連中がワラワラと出てくる。

 会場は騒然となり、参加者のほとんどが席を立ち、出口へと雪崩れ込んでいった。


「我の邪魔をするな、盗賊ども! どうせこの杖もどこかから盗んできた物だろう! 盗品で儲けようなどと、卑しい者どもめ!」

「「「「お前が言うな!」」」」


 武装した連中が槍や刀で切り付けたが、あの魔女がそう簡単に仕留められるわけもなく。

 魔女はフワリと宙に浮いて攻撃をかわすと、両手を胸の前で合わせて呪文を唱えた。


雷撃刃ボルトダガー!」


 雷撃の刃が無数に出現し、ステージ上に降り注ぐ。

 武装した連中は雷撃に打たれてバタバタと倒れていき、あっと言う間に全滅してしまった。

 魔女を名乗る者は、高位の魔道士だ。そこらの盗賊程度じゃ相手にならない。


 しかし、これは……闇ギルドに魔女がいるらしいと聞いて、闇オークションは闇ギルドと繋がりがあるんじゃないかとにらんで、オークションに参加したわけだが……。

 闇オークションを妨害するような真似をするという事は、あの魔女は闇ギルドとは無関係だったのか?

 もしくは闇オークションが闇ギルドと関係なかったのか、闇ギルドにいるという魔女はあいつの事じゃなかったのか……。


 ……ややこしいな。ともかく、『略奪の魔女』と再会できたんだ。

 ヤツがどこに所属する何者かなんて事は、この際どうでもいい。

 盗まれた物を返してもらわないとな……!


「アーシェ、メルティ、行くぞ!」


 二人に声を掛け、席を立ち、出口へと殺到している参加客を押しのけ、ステージへ向かう。

 魔女はステージに降り立つと、勝ち誇ったように高笑いを上げ、ホール内の各所に向けて魔力弾を放っていた。


「フハハハ! そら、逃げろ逃げろ! だが、お宝は置いて行け! ここにあるお宝は全て我がいただいていく!」


 俺がある程度ステージに近付くと、魔女が視線を向けてきた。


「逃げずに向かってくる者がいたか。むっ、貴様は……どこかで見掛けたような……?」

「もう俺の顔を忘れたのかよ、泥棒魔女。あんたに大事な魔剣を盗まれた、かわいそうな少年の顔ぐらい覚えとけよ!」

「おおっ、貴様はあの時の! クソ生意気でやたらと腕の立つ小僧か! まさか我を追ってここまで来たのか? 暇なヤツだな!」

「やかましいわ! 俺の剣を、返せ、戻せ! 今すぐ返さないと……あの世で後悔する事になるぜ……!」


 魔女をにらみ付け、かなり強めの殺気をぶつけてやる。

 並の人間なら俺の殺気を受ければ動けなくなるはずだが、さすがは魔女、ビクッと肩を震わせただけだった。


「子供とは思えぬ殺気を放ちよるな。一体、何者だ貴様は?」

「俺は、魔剣帝……の弟子ってところだ」

「ほほう、あの魔剣帝の弟子か……道理で大人顔負けの剣の腕なわけだ。魔剣を持っていたのもその関係か?」

「いいから剣を返せ! 返さないのならてめえを切り刻んでから回収してやる!」


 魔力を高めて身構え、突進の準備を整える。アーシェとメルティも攻撃の準備をしているはずだ。

 すると魔女は、特にあせった様子もなく、俺に告げた。


「返せと言われてもな。ここにはないので無理だ」

「なら、どこにあるんだ? 適当な事を言って誤魔化そうとしても無駄だぞ」

「いや、本当にないのだ。どこにあるのか、我が知りたいぐらいでな……」

「?」


 なんだ、コイツ。なにを言ってるんだ?

 とりあえず斬っとくか、と思い、前へ出ようとしたところ、魔女は手をかざして俺の動きを制した。


「まあ、待て、小僧。魔剣を取り戻したいのなら、我の話を聞いた方がよいぞ」

「話を聞くのは、あんたをズタボロに切り刻んだ後でもいい気がするが……」

「待てというのに。そんな事をすれば我は絶対になにもしゃべらんぞ。それでもいいのか?」

「……話を聞いてやる。手短にな」


 すると魔女は、淡々と語った。


「王都から脱出した我は、ここ盗賊都市へ向かったのだ。盗賊だらけのこの街は、我にとって居心地がいいのでな」

「それで? さっさと本題に入れよ」

「せっかちなヤツだな。我はまず、奪った宝の鑑定をしようと思ったのだ。剣の価値などには詳しくないのでな」

「なるほど」

「それでまあ、何度か取引をした事がある闇ギルドの鑑定士に依頼したのだが……なんと、そやつに宝を持ち逃げされてしまったのだ!」

「な……なんだって?」


 おいおい、冗談だろ。盗んだ物を他の誰かに盗まれただと?

 そんな馬鹿な事が……いや、よく聞く話ではあるが……。


「我は闇ギルドに所属している者達に当たって回ったが、盗んだヤツの足取りはつかめなかった。元々闇ギルドの連中は、横の繋がりが薄いのだ。誰が所属しているのか、把握しきれていない者がほとんど。問題の鑑定士にしても、詳しい素性は誰も知らないという」

「それで?」

「闇オークションに出品するかもしれないと思い、網を張っていたのだが、我が盗まれた品物は出品されていないようだ。頭に来たので、腹いせにオークションを潰してやり、新たなお宝をゲットしてやろうと考えたというわけだ」

「……」


 なるほど、そうなのか。

 話の流れは分かったが……要するにコイツ、人の物を盗んでおいて、それを誰かに盗まれ、どこへ行ったのか分からないでいるって事か。

 なんて迷惑で間抜けなヤツなんだ。自分が盗んだ物ぐらいキチンと管理しとけよな。


「話は分かった。お前は今現在、俺の剣を持っていないわけだな」

「そういう事だ! すまんな、小僧!」

「得意そうに胸を張るな、この馬鹿が! それで許されると思ったら大間違いだからな! 元はと言えば、お前が盗んだのが原因だろうが! 死んで罪を償え!」

「待て待て、あせってはいかんぞ。ここは一つ、手を組まないか?」

「はあ?」


 眉根を寄せた俺に、魔女は儲け話でも持ち掛けるような口調で呟いた。


「我は闇ギルドに繋がりがあるし、顔も効く。盗品を持ち逃げした鑑定士の足取りを追うのに、我ほど適した者はおるまい」

「でも、足取りはつかめていないんだろ?」

「今のところは、だ。必ず追い詰めて捕らえてみせようぞ。『略奪の魔女』の名に懸けてな!」

「……」


 正直言って、コイツは信用できないし、かなりの高確率で裏切りそうな気がするんだが……。

 だが、盗品を追うのに役に立ちそうではある。

 騙されるのを覚悟の上で、一時的に手を組んでみるのもいいかもな。

 裏切りやがったら、即座にバッサリ斬り捨ててやればいいし。


「いいだろう。お前と手を組んでやるよ」

「おおっ、そうかそうか! 賢明な判断であるな!」

「俺を騙したり裏切ったりしやがったら、世界の果てまで追いかけていって、その首をはねてやるからな。ガキだと思ってナメてんじゃねえぞ?」

「も、もちろんだとも。怖い事を言わないでくれたまえよ。はははは……」


 そんなわけで、あくまでも一時的にだが、略奪の魔女と手を組む事になった。

 こんな泥棒魔女と組むなんてゾッとしないが……魔剣を取り戻すまでは我慢するしかないか。


「そういうわけだから。剣を引いてくれ、マヨネラ……さん」

「……」


 左斜め前方、客席の陰に身を潜めていたマヨネラに声を掛けておく。

 マヨネラもやはり会場に来ていたらしく、魔女が暴れ出してから、様子をうかがっていたようだ。

 俺が声を掛けると、マヨネラは席の陰から出てきて、小さくうなずいてみせた。


「仕方ありませんわね。妙な動きを見せたら即座に斬り捨てるつもりでいましたが、今はやめておきますわ」


 そこでステージの袖から、新たな武装集団がワラワラと出てきた。

 オークションの主催者側が応援を呼んだのか。武器を振り回して「殺せ、殺せ!」などと叫んでいる。


「ではさらばだ! また会おう!」


 魔女はフワリと空中に飛び上がると、クルンと回転して、武装集団に魔力弾の雨を食らわせた。

 高笑いを上げながら宙を舞い、天井にある通気口らしき穴に飛び込み、姿を消してしまう。

 なんという引き際の良さ。あまりに見事な逃げっぷりなので、追うのも忘れて見送ってしまった。

 武装集団のうち、まだ動ける連中が後を追ったが、捕まえるのは無理だろうな。


「逃げられてしまいましたわね。手を組むなどと言っていましたが、このまま姿を消すつもりなのではありませんか?」

「いや……たぶん、手を組もうと言ったのは嘘じゃないな」


 怪訝そうな顔をしたマヨネラに、俺は一枚のカードを示してみせた。


「あら、それはなんですの?」

「魔女が落としていった。あとで連絡を入れるってさ」


 『略奪の魔女』は見付ける事ができたが、盗まれた魔剣の行方は分からないままか。

 とりあえず一歩前進したと考えてもいいのか?

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