47.魔剣の行方
かつて、王国中を荒らし回っていた盗賊団がいた。
その首領が『盗賊王』を名乗る男だった。
色々あって盗賊王を追う事になった俺は、ヤツの根城がここ盗賊都市である事を突き止めた。
盗賊王はなかなか手強い相手だった。ヤツは街中に罠を張り巡らせて、俺を仕留めようとした。
対決の際、俺は魔剣にありったけの魔力を込めて振り回し、街の東側半分を廃墟に変えた。
勝負はもちろん、俺の勝ちで終わったが……さすがにやりすぎたかと反省したものだ。
その時に使った魔剣がブロードザンバー、破壊の魔剣だ。
オークションに出品された、偽物のブロードザンバーを見て、アーシェは首をかしげていた。
「盗品なのを誤魔化すために偽装されてるんじゃないの?」
「俺も最初はそう思ったんだけど……どうやらまったくの別物みたいだな」
それらしく見えるように凝った装飾が施され、何者かによって魔力が込められているようだが、間違いなくあれは偽物だ。
なにしろ俺の愛刀だからな。いくら偽装を施されていようと、本物ならすぐに分かる。
しかし、どこの誰があんな偽物を……紛らわしい真似はしないでほしい。
「偽物なら、落札する必要ないよね。なんだかどんどん値段が吊り上がっていってるみたいだけど……あっ、七〇〇万超えたよ!」
「ここにいる人間で、あれが偽物だと断言できるのは、俺とあれを持ち込んだ出品者ぐらいだろうからな。何も知らずに高値を付けている連中は気の毒だとしか……」
「偽物だって訴えた方がよくない?」
「いや、無理だ。証明する方法がない。魔剣帝本人でもないと、偽物だと言っても誰も信じてくれないだろう」
メルティが小声で「本人ならここにいるのに……」と呟いたが、俺は黙っておいた。
偽物なのは間違いないのに、歯痒いな。誰にでも分かる、証明の方法でもあればいいんだが。
「魔剣ブロードザンバーについてならいくらでも語れるんだけど……実物を見たのは、アロン君が持っている剣がそれだと知ってからだから、証明は難しいかな」
「えっ? アーシェは俺の……師匠の魔剣について詳しいのか?」
するとアーシェは拳でその豊かな胸をドン、と叩き、誇らしげに答えた。
「もちろんだよ! 魔剣帝様の活躍については、可能な限り情報を集めているし! 伝記も沢山読んだよ!」
伝記はまあ、俺が書いたわけじゃなくて、俺から話を聞いた作家が面白おかしく脚色したものなんだが。
「魔剣ブロードザンバー……大陸の果てにある、超絶厳しいダンジョンの最下層、地下二〇〇階に眠っていたというレアアイテム。ダンジョンのボスである、究極暗黒竜が守っていたとか」
「まあ、そんな感じかな」
「魔力を込める事によって無制限に威力を高める魔剣。おそらく、この世に存在する魔剣の中でも最強クラスに位置するものの一つ。魔剣帝が好んでよく使った魔剣だというのは有名な話よね!」
「そうなのか」
「そんなすごい剣をアロン君がずっと持っていたなんて! あの剣がブロードザンバーだって分かってたら触らせてもらったのに! 憎い! 盗んだ魔女が憎いわ!」
「お、落ち着け、アーシェ。声がでかい」
興奮した様子のアーシェを慌ててなだめておく。
オークションの真っ最中に、あの商品は偽物だなどと言って騒いだりしたらマズイよな。
「それでは、一〇〇〇万で落札です! おめでとうございます!」
あの偽物を一〇〇〇万で……どこの金持ちか知らないが、かわいそうに。
落札した者は本物だと思い込んだままでいた方が幸せなのかもな。偽物を出品したヤツは許せないが。
「それでは次の商品です! 次はこちら、『魔道士の杖』となっております!」
魔剣がステージの袖に引っ込み、次の商品が運ばれてきた。
それは枯れ木を螺旋状に捻じ曲げたような形状をした、長い杖だった。
杖の各部に間隔を開けて赤い宝玉が埋め込まれているが、派手さはなく、かなり古い物のように見える。
なんだあれは、骨董品か? どこかで見たような気もするが……。
ただの古い杖をなぜわざわざ出品するのか、参加者も疑問に思ったようで、客席がざわめいている。
そんな反応を予想していたように、ステージ上の司会者は、ニヤリと笑って告げた。
「さて、皆さん。なぜこのような名もなき古い杖をオークションに出すのかと疑問に思われているでしょうが……無論、これはただの杖ではございません! なんと、これは……あの、世界一邪悪で凶悪な魔女と呼ばれた、恐るべき魔女が愛用していた杖なのです!」
なんだと?
それって、まさか……。
「こちら、『呪詛の魔女』愛用の杖となっております! 呪われし魔女の、呪われた魔法具! 本物である事を示す、とある高名な魔道士による鑑定書付き! 歴史的価値のあるレアアイテムと言えるでしょう!」
記憶をたどり、あまり思い出したくはない、強敵の姿を思い浮かべてみる。
『呪詛の魔女』……俺に呪いをかけてくれた張本人。
ヤツが手にしていた杖は……そうだ、確かにあんな形をしていた。
しかし、あの杖は、俺がバラバラに切り刻んでやったはずだが……自己修復機能があったのか、あるいは誰かが修復したのか?
ふと、隣を見ると、メルティがガタガタと震えていた。
「メルティ? どうしたんだ?」
「分からないけど、あの杖を見た途端に寒気が……呪詛の魔女の物かどうかは分からないけど、邪悪な魔力が込められた杖なのは間違いなさそう……」
魔法使いにしか分からない感覚ってヤツか。
本物かどうかはさておき、危ない代物なのは確かみたいだな。
素人が手にしたら、呪われるんじゃないのか? そんな物、よくオークションに出せたな。
「こちら、高名な魔道士によって厳重に封印を施してありますのでご安心ください! いわく付きの商品ですので、落札後の返品はご遠慮願います! それでは、開始価格は1Gから!」
最低価格から開始か。高値になるのが分かっているからか?
しかし、いくら封印が施してあるとしても、あんな物を世に出して大丈夫なんだろうか。
オークションの主催者側は金になればそれでいいんだろうが……。
あとでこっそり落札した人間の後をつけて、杖を取り上げるか破壊してしまおうか。
などと考えていると、ホール全体に、不気味な笑い声が響いた。
「フハハハハハ! 『呪詛の魔女』愛用の杖だと! そのようなお宝、素人の収集家などに渡してなるものか!」
「ど、どちら様でしょう? 入札されるのなら金額を提示して……」
あれ? なんだか聞き覚えのある声のような……。
客席がざわめく中、なにかがホールの天井付近を通過していき、それはステージへと降りていった。
「このお宝は、我がいただいていく! この『略奪の魔女』がな!」
マントとフードで顔や体型を隠していたが、その声と言動には聞き覚えがあった。
間違いない。俺の魔剣を盗んでくれたあいつだ。
『略奪の魔女』。確かベルリエルといったか。
ヤツの手がかりをつかむためにオークションに来たというのに、まさか本人が出てくるとはな。
手間が省けたとも言えるが、なんだかややこしい事になってきたぞ……。




