46.闇オークション
宿屋に戻り、夕食を済ませた後、しばらくして、マヨネラは出掛ける準備をしていた。
深夜に開かれる、闇オークションに参加するのだ。
俺達三人も連れて行ってくれと頼んだんだが、却下されてしまった。
「駄目です。どんな危険があるのか分かったものではありませんし。ここは大人の私に任せておきなさい」
マヨネラに留守番を命じられた俺達は部屋に残り、ため息をついた。
窓の外を眺め、マヨネラが宿屋から離れていくのを確認し、俺はニヤリと笑った。
「さて。それじゃ、俺達も行くか」
「そうね。留守番なんかやってられないわ」
「魔道関係の品物も出品されるのかしら。楽しみだわ」
反対されるかと思いきや、アーシェとメルティも俺と同じ考えだったようで、最初からオークションに行くつもりだったらしい。
場所は分かっているが、問題もある。誰でも参加できるとは言え、子供だけでは入場をお断りされてしまう可能性がある。
「この中で一番大人に近いのはアーシェか。アーシェに大人役をやってもらって、俺達は付き添いという事にすれば参加できるかも」
「ふふ、お姉さんにお任せだよ! 学院の制服じゃマズイだろうから、大人っぽいドレスに着替えて行こう!」
アーシェはノリノリで、言うが早いか、制服を脱ぎ捨てて下着姿になってしまった。
俺は慌ててアーシェに背を向け、見ないようにした。メルティは俺の様子を見て、呆れたように笑っている。
「子供の振りも大変ね。正体を知られたら完全に犯罪者扱いでしょうし」
「俺が望んだわけじゃないのに、参るよ。メルティがなるべくフォローしてくれないか?」
「いやよ、面倒くさい。あなたが自重すればいいでしょう。それじゃ、私も着替えようかな」
「お、おい、ちょっと? 俺の前で脱がないで……お、おいおい、マジでやめろってば!」
メルティが制服を脱ぎ始め、ブラウスまで脱いで下着姿をさらしたので、思わず赤面してしまう。
慌てて顔をそむけ、回れ右をすると……目の前に、下着姿のアーシェが立っていて、着替える服をベッドの上に並べて悩んでいた。
ピンクの下着が丸見え、発達しまくったプロポーションが剥き出しで、目の毒だ。頼むから少しは隠してほしい。
「うーん、黒のワンピか、白のワンピか。闇オークションなんだし、もっとアウトローな感じの方がいいのかな? アロン君はどう思う?」
「ふ、普通に、黒のワンピースでいいんじゃないの? 大人っぽくてさ」
肩が剥き出しだし、胸元が開きすぎだし、スカートも短すぎだと思うけどな。
アーシェは黒のワンピースに着替えると、長い髪をアップでまとめ、化粧までしていた。
おお、なんだか年齢が三つぐらい上がって見えるぞ。これなら大人だと言い張ればいけそうだ。
「私も着替えたわ」
メルティは、漆黒のローブにマントを羽織り、とんがり帽子を被っていた。
なるほど、魔法使い装束か。これなら年齢は分かりにくいかもな。
「どう?」
「うん、似合う似合う。魔法使いっぽいし、かわいいぜ」
「ぽい、じゃなくて魔法使いなんだけど……ありがと」
最後は俺か。俺も制服じゃマズいよな。
制服の上着を脱ぎ、持参したコートを羽織る。
サイズはお子様サイズだが、素材とデザインは本来の俺が着ているコートと同じものだ。
「えっ、アロン君、それって……魔剣帝様が着ているのと同じデザインのコートじゃないの! やだすごい、どこで売ってるの? 教えて教えて!」
「オーダーメイドだよ。師匠のコートと同じにしてもらった。悪くないだろ?」
「超格好いい! イカすわ! もし魔剣帝様の着ていたコートがオークションに出品されたら、借金してでも落札するのに!」
「そこまで欲しいのか!? 詐欺とかに引っ掛からないようにしろよ」
大丈夫なのか、アーシェは。魔剣帝に対する好感度が高すぎて、ちょっと心配になってくるな……。
ともあれ、準備を終えて、いざ、オークション会場へ。
大通りを北へ進み、途中で脇道に入り、裏通りにある、割と大きめの劇場へ。
普段は劇団が劇の公演を行っているこの場所が、深夜にはオークション会場になるらしい。
入り口には強面の黒服が立っていたが、アーシェがオークションに参加するために来たと告げると、通してくれた。
俺とメルティも顔を伏せながらアーシェの後に続いて建物に入る。追い返されずに済んでほっとしたぜ。
「第一関門はクリアしたわね。ここからどうする? オークションに参加してみる?」
「ひとまず見学してみよう。盗まれた品が出品されていたら落札してもいいし、出品者を締め上げて入手経路を吐かせてもいい」
劇場に入ってみると、広いホールは薄暗く、既に大勢の参加者が席に着いていた。
適当な席を選び、三人で並んで座る。どこかにマヨネラがいるはずだが、見える範囲にはいないみたいだな。
やがて、ライトアップされたステージに、一つずつオークションの商品が運ばれてきて、商品の簡単な説明の後、入札が始まった。
参加者は、欲しい商品があった場合に、手持ちの札を上げて値段をコールすればいいというルールになっている。声が届かない時は、ホールの各所に待機している係員が入札する金額を受け付けるらしい。
「不死鳥の目玉だって。本物かしら?」
「主催者側の信用問題になるから、基本的に本物だと思っていいんじゃないかな。入手経路は怪しいもんだけど」
色々と珍しい商品が出品され、それなりの高値で取引されている。
今のところ、俺達に関係ある物や興味を引く物はないな。絵画とか、価値がサッパリ分からないし。
「次なる商品はこちら! とあるダンジョンで発見されたという、世にも珍しい魔剣です!」
魔剣と聞き、俺はハッとした。
ステージに運ばれてきた一振りの剣を見つめ、ため息をつく。
俺の剣じゃないな。それにあれは……。
「魔剣だって。アロン君の剣じゃないみたいだけど、値打ものかな?」
「美術品や骨董品としての価値はあるのかもしれないが……実用品としては、クソだな、クソ。あんな剣じゃ、草刈りもできねえよ」
「魔剣を使ってるだけあって、詳しいんだ? 魔剣帝様に鍛えられたの?」
「まあね。剣に関する審美眼に限ってなら、そこらの大人にも負けないつもりだよ」
俺がコレクションしている魔剣は、どれも実戦向けの名刀ばかりだ。
呪われた剣なんかも結構あるが、切れ味や威力は折り紙付きだぜ。基本的に実戦で使える剣しか集めていないからな。
「次はこちら! 聖なる剣、レッドキャリバー! 真紅の聖剣はいかがでしょうか! レア物ですよー!」
柄も鞘も真っ赤な剣が出てきて、俺はうなった。
聖剣か。まさかあんな物まで出品されるとはな。しかもあれは……。
「魔剣じゃなくて聖剣だって。アロン君は興味あるの?」
「いい剣には惹かれるものがあるな。あの剣はどうも、本物の聖剣みたいだし」
「本物の聖剣か……入札してみようかな?」
アーシェは興味があるみたいだった。
しかし……。
「では、こちら、五〇万から……はい、一〇〇万! 一五〇万! おっと、二五〇万出ました!」
かなり高額で取引されているようで、ガンガン値が吊り上がっている。
これは気楽に参加できるような代物じゃないな。さっきの魔剣は一〇〇万で落札されたのに。
「それではこちらの聖剣、七五〇万で落札となりました! おめでとうございます!」
どこかの金持ちが落札したらしく、拍手が上がった。
あの聖剣で七五〇万か。盗まれた俺の魔剣も価値が分かるヤツなら同じぐらいの値を付けるだろうな。
「うわあ、高いね。お小遣いで買えるような商品じゃないわー」
「まあ、未成年にどうこうできる代物じゃないよな」
アーシェは苦笑し、少しばかり残念そうにしていた。
いくら名門貴族のお嬢様でも、そんなに大金は持ち歩いていないって事か。
「さて、それでは次の商品です。こちらは少々曰く付きのお品でして、ここ盗賊都市に深くかかわる物でもあります……」
司会者が意味深な言い回しをして、台に載せられた商品が運ばれてくる。
「入手経路不問の闇オークションならではの商品! あの、世界一の剣士と名高い、魔剣帝の愛刀! ご紹介します、魔剣、ブロードザンバーです!」
客席からどよめきが上がる。
それはそうだろう。なにしろあの剣は……。
「今より数年前、この都市にて盗賊王と魔剣帝が激突した際に使用された破壊の魔剣! そのあまりの威力により、都市の東部は破壊し尽くされ、瓦礫の山と化したのは皆さんご存知の事でしょう! 悪魔のごとき威力を備えた魔剣が今ここに!」
客席がざわめく中、アーシェとメルティが俺の肩をつかんで揺すってくる。
「で、出たよ、アロン君の剣が! 魔剣帝様の愛刀が! ど、どうしよう?」
「王国中を荒らし回った、盗賊王との対決に使用された剣……絶対に取り戻さないといけないわね……!」
やや興奮した様子の二人に、俺は冷静に呟いた。
「待て、落ち着け。そんなに慌てなくていい」
「でも、師匠の魔剣帝様から預かった大事な剣なんでしょ? 誰かが落札しちゃう前になんとかしないと」
「二人とも、あの剣をよーく見てみろよ」
「「?」」
二人はステージ上に置かれた魔剣をしげしげと眺め、首をかしげた。
「あれ? アロン君が持っていた剣と違う……?」
俺はうなずき、二人に告げた。
「真っ赤な偽物だよ。あれは盗まれた俺の魔剣じゃないし、もちろん魔剣ブロードザンバーなんかじゃない」
「「ええっ!?」」
二人とも目を丸くして驚いている。
俺だってびっくりだ。まさか、盗まれた魔剣の偽物が出品されるとは……どういう事なんだ?




