45.闇ギルドとオークション
「次は闇ギルドか……なんだか本格的な捜査になってきたわね!」
「そうだな」
どこかワクワクした様子のアーシェと並んで歩き、適当に相槌を打つ。
やはり育ちのいいお嬢様なのか、アーシェはこういう治安の悪い街に来た事がないようで、目に映るものすべてが珍しくて仕方がないらしい。
それは引率役のマヨネラも似たようなもので、周囲を警戒しながらも、どこか物珍しげに街の様子を見ていた。
「人相の悪い方ばかりですのね。か弱い私はさらわれないように気を付けないと……」
「……」
「あら? 今のは突っ込むところですわよ。どうして黙っていますの?」
「はあ。それじゃ……いや、あんたをさらうって、どんな命知らずだよ! さらうつもりが命取られたんじゃ割に合わないだろ!」
希望に応えて突っ込んでやると、マヨネラは不満そうにしていた。
「それは言いすぎですわ。私がか弱いのは事実ですし、もう少しソフトに願います」
面倒くせえな。そもそもなんで俺が突っ込まなきゃいけないんだ? 意味が分からん。
「どうしてでしょうね? あなたが誰かに似ているからでしょうか……お弟子さんだからか、どこか魔剣帝に似ている気が……」
「い、いや、似てないよ、全然! ほら、俺の方がずっとイケメンだし! あんなオッサンと一緒にしないでほしいなあ!」
俺が必死になって否定すると、マヨネラは首をかしげ、なぜかアーシェがつかみかかってきた。
「魔剣帝様の事をそんな風に言わないで!」
「ええっ!?」
マヨネラが苦笑し、呟く。
「どういうわけか、アーシェは魔剣帝のファンなんですよね。彼の妙な剣技を真似したりしていますし」
マジか。じゃあ、アーシェがちょっと変わった剣技を使うのは、俺の影響なのか?
そいつはまた……俺の責任じゃないにしても、なにか申し訳ないな……。
「幼い頃から、彼の活躍を聞いて育ったからでしょうか。あんな無礼な男のどこがいいのやら」
「お姉さまは本人と知り合いだからそういう事が言えるんですよ! 魔剣帝と口喧嘩できる仲だなんてうらやましい!」
「そんな事を言われても……別にうらやましがられるような事はなにも……」
揉めている二人をよそに、メルティが俺に身を寄せ、囁いてくる。
「モテモテね、魔剣帝様。あなたとよく喧嘩している私もアーシェさんにうらやましがられたりするのかしら?」
「知らねえよ。俺に訊くなよ、頼むから」
ほめられるのは悪い気はしないが、あんまり持ち上げられてもな。正直、こそばゆい。
俺にファンなんていたっていうのが驚きだが。元の姿に戻れたらサイン会でも開いてみるか? アーシェしか来なかったりしてな。ははは、笑えねえ……。
「そう言えば、魔剣帝は親しい人間からはアロンと呼ばれていましたわね。そして、お弟子さんのあなたもアロン君……」
「い、いや、それは……」
「すごい偶然ですわね。もしかすると名前が同じだから弟子にしたのでしょうか?」
「は、ははは、ど、どうかなあ……」
マヨネラに指摘され、ドッと汗が噴き出してくる。
子供にされた状態での偽名を考える時、あんまり元の名前と違う名前にしても覚えにくいと思って、子供の頃の名前にしたんだが……もう少しひねるべきだったかな。
というか、アロン・エムスの方が元々の本名なんだよな。アヴァロン・エムエルスっていうのは後から改名した名前なんだ。
「お姉さまも魔剣帝をアロンと呼んでいるんですか?」
「いえ、私はそんなに親しくはありませんので……『魔剣帝さん』とか『あなた』とか『野蛮人』とお呼びしていますわ」
「くっ、それはむしろ他人よりも親しいというアピールなんじゃ? うらやましい……!」
「そんなつもりは……にらまないでくださいな」
大丈夫か、アーシェは。魔剣帝を伝説の英雄かなにかと間違えてないか? ちょっと心配だな。
四人で適当な会話を交わしつつ、街の中心を貫く大通りを南から北へ向かって歩く。
途中で、雑貨屋に寄ってみたり(アーシェの財布をすろうとした男が彼女に腕を折られそうになった)、露店で珍しい飲み物を買ってみたり(メルティがむせて飲み物を吹いた)、変な宗教の勧誘員がずっとつきまとってきたり(マヨネラが剣を突き付けて追い払った)、エロい格好をしたお姉さんに俺がさらわれそうになったり(抵抗できなくて危なかったが皆に助けてもらった)したが、闇ギルドの情報は得られなかった。
「ここまで手掛かりなしか。噂ぐらい聞けると思ったんだがな……」
「アロン君、武器屋さんがあるわよ。行ってみましょう!」
アーシェが武器屋を見付け、皆で入ってみる。
盗賊都市の武器屋か。前に来た時はこんな店があるなんて気付かなかったが、盗賊用の短剣でも売ってるのかな。
店内はそこそこ広く、割と品ぞろえはよさそうだった。短剣やナイフ類が多いが、長剣も置いてある。
並べてある長剣を手にして、鞘から少しだけ抜いて刀身をチェックしてみる。
悪くはないが、普通の量産品だな。わざわざ買うほどの物でもない。
「ご店主。もう少し上等な武器はありませんの? たとえば、どこかの宝物庫に眠っていた掘り出し物とか……」
「ははは、お客さん、うちは真っ当な店ですぜ? 盗品なんか扱ってませんよ!」
マヨネラが鎌をかけてみたが、武器屋の店主は笑って否定していた。
確かに、売り物に盗品はなさそうだが……置いてある商品が普通の物ばかりで、かえって怪しいな。
どこの武器屋にも、一体誰が買うんだというような、やたらと値の張る武器が一つか二つは置いてあるもんなんだが、ここにはそういった物が一つもないんだ。
仮にも盗賊都市の武器屋に、珍しい武器の一つもないっていうのはな。
「なあ、親父さん。俺らは魔剣を集めてるんだが、この店にはないのか?」
「魔剣? おいおい坊や、そんな危ない物、置いているわけが……」
「たとえば、こういう感じの剣とかさ」
「!?」
短い方の剣、魔剣ソードウインドをカウンターの上に置くと、店主は目を丸くしていた。
魔剣を手にしてしげしげと眺め、うなっている。
「コイツはまた……すさまじい代物だな。一体、どこでこんなすごい剣を……」
「その剣にいくら値を付ける?」
「うーん、そうだな……買い取るなら、五〇〇万はくだらないだろうが……残念ながら、うちじゃ売れねえな。買い手が付かないぜ」
見る目はあるようで、ちょっと感心した。
「魔剣なら、オークションをのぞいてみるといいぜ」
「オークション?」
「盗賊都市名物の、闇オークションさ。盗品も扱ってるから、たまにとんでもないお宝が出品される事があるんだ」
闇オークションか。いかにも闇ギルドが関わっていそうだな。
それに、もしかすると、魔女に盗まれた俺の魔剣が出品されているかもしれない。
オークションの会場や開催時刻を聞き、武器屋を後にする。
誰であろうと参加は自由、金さえあればなんでも手に入る、闇のオークション、か。
闇ギルドや魔女についての情報を得るというのはもちろんだが、個人的にも興味があるな。
すごく珍しい魔剣や名刀なんかが出品されているかもしれないぞ。掘り出し物があったら落としてみるか。
「開催時刻は深夜ですし、参加するのは私だけにしておきましょうか。未成年の皆さんは宿屋でお留守番という事で」
「ええっ!?」
マヨネラに未成年は参加不可だと告げられ、俺は愕然とした。
くそ、冗談じゃないぜ。せっかくのチャンスを逃してたまるもんか……!




