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43.調査開始

「さあ、いよいよ盗賊都市に繰り出しますわよ! 準備はよろしくて?」


 しばらく休んでから、俺達は街に出てみる事になった。

 一応、引率の教師役であるマヨネラに連れられ、街の様子を見て回る、社会科見学という形を取っている。

 言うまでもなく、それは表向きの話で、『略奪の魔女』の情報を集めるのが本来の目的だ。

 あのクソ魔女め。絶対に居場所を突き止めてやるぜ……!


 盗賊都市の中央を貫く、南北に伸びる大通り。ここが都市を二分する、メインストリートだ。

 大通りの左右、西と東のブロックに都市は分かれていて、東ブロックの方は比較的新しい建物が目立つ。

 それというのも数年前にちょっとした事件があって、都市の東側は壊滅状態に陥ってしまったからなんだが……しっかり復興しているようで何よりだな。


「いいですか? あなた達がどうしても行きたいというから特別に連れてきてあげたのですからね。絶対に私から離れないようにして、くれぐれも危ない真似はしないように……」

「おい、オッサン。この人相書きの女に見覚えはないか?」


 宿屋を出てすぐ、道の隅に突っ立っていた中年男に声を掛けてみる。

 魔女の人相書きを見せたところ、男は面倒くさそうに首を横に振った。


「知らねえな」

「本当か? 知っててとぼけてるんじゃないだろうな? 素直に吐かないと痛い目をみるぜ」


 俺が男を問い詰めていると、マヨネラがなにやら慌ててすっ飛んできた。


「ちょ、ちょっとあなた! なにをしていますの!?」

「なにって聞き込みだよ、聞き込み。こうやって片っ端から訊いて回れば、そのうち何か知ってるヤツに当たるんじゃないかと思って」

「私の話を聞いていませんでしたの!? 危ない真似はしないでくださいまし!」

「危なくないから大丈夫だよ。次はあそこにいる、人相の悪い大男に訊いてみよう」

「や、やめなさい!」


 マヨネラに捕まり、身動きが取れなくなる。


「ま、まったく。馬車で移動中も宿でもずっと大人しくしていたから安心していましたのに……まさか、こんなに行動的な子だったなんて……」

「アロン君は先頭に立って突っ込んでいくタイプだから……あれ? 急に大人しくなったね。なんで?」


 なんでじゃねえよ。マヨネラが思い切り抱き締めてきたからだよ。でっかい胸が頭の上に乗っかってるし。

 俺が子供の姿をしているから、マヨネラは平気なんだろうけど……こっちは平気じゃないっての。

 メルティはクスクスと笑うだけで助けてくれないし。勘弁してくれよ。


「ふふ、女の人に抱っこされて照れていますの? かわいいですわね」

「そ、そんなんじゃ……ないですよ」

「いい子にしていたら、あとでなにか買ってあげますわよ。お菓子がいいですか? それともオモチャ?」


 じゃあ、大人のオモチャを……とか言ったら殴られそうだな。黙っておこう。

 にしても、本来なら年下のマヨネラに子供扱いされるとは……屈辱的というかなんというか、変な感じだ。

 子供扱いされるのはむかつくが、抱き締められるのは悪い気分じゃないな。つか、コイツって、こんなにナイスバディだったんだな。意外な事実だ。


「アロンは年上好きだから。年齢が上であればあるほど好きみたいですよ」

「そうなんですの? ですが私、そんなに歳を取っているわけでは……騎士団ではかなり若い方ですのよ」


 メルティが余計な事を言い、マヨネラが困ったような顔をする。

 俺は年上好きなんかじゃないって何度言えば……まあ、今の俺の年齢で年下好きとかだったら犯罪者になっちまうんだろうけど。


「あの……実は、行きたいところがあるんですが」

「まあ、そうですか。では、私が連れて行って差し上げましょう。どこへ行きたいのですの?」


 単独行動は取らせてくれそうにないので、行き先を指定して、皆で行く事にする。

 女三人を置いていくのは少し不安だしな。この際なので、付き合ってもらうか。


「こっちです」


 記憶を辿りつつ、皆を案内して、先へ進む。

 確か、こっちだったよな……前に来てから数年経っているから、記憶があやふやになっている。

 大通りから脇道に入り、裏通りへ。やがて、見覚えのある建物を見付け、胸を撫で下ろす。

 おう、ここだ、ここだ。迷わずにたどり着けたぜ。


 それは裏通りの一角に建つ、割と大きな、古びた建物だった。

 両開きの扉をくぐり、建物の中に入る。

 中は広々とした、大衆酒場のような場所で、薄暗い部屋の中にはいくつものテーブルが並び、人相の悪い連中が二十人ほどいる。


「なんですの、ここ。あまり教育によろしくない場所のような……」


 不安そうなマヨネラ達から離れ、俺は奥にあるカウンターに向かった。

 カウンターにいる、眼帯をしたハゲ頭のオッサンに声を掛けてみる。


「よう。ちょっと話を聞きたいんだけど。いいかな?」

「……帰りな、坊や。ここがどこだか分かってんのか?」


 そこで俺は、ニコッと笑って答えた。


「もちろん、分かってるよ。悪名高き盗賊都市の、盗賊ギルドだろ?」


 すると、俺の後を追ってきたマヨネラ達が、顔色を変えた。


「と、盗賊ギルドですって? ここが盗賊達の本拠地……道理で危険な空気が充満しているはずですわ」

「じゃあ、ここにいる人達って、みんな盗賊なの? 言われてみると、人相の悪い人達ばかりね」

「ここが噂の盗賊ギルド……魔道士ギルドとは雰囲気が違うのね」


 俺はカウンター前の椅子にどっかりと腰を下ろし、足を組んで室内を見回しながら、声を張り上げた。


「誰か、『略奪の魔女』の居場所を知らないか! 教えてくれたら、それなりに報酬は弾むぜ!」


 ギルド内にいる盗賊達はざわめき、笑い声を上げた。


「はははは、面白い事言うな、坊や! 一丁前に戦士気取りか? そういう遊びは家に帰ってからやりな!」

「その台詞、誰に教わったんだ? かわいい声で言ってもさまになってねえよ」

「さらわれないうちに帰りな。この街じゃ、坊やみたいな世間知らずは人買いに捕まって売られるのがオチだぞ」


 ああ、やっぱりか。子供の姿をした俺が、いくら大人ぶっても笑われるだけなんだな。分かってはいたが。

 そこで俺は、盗賊達に告げた。


「確かに、俺はお子様だが、ただのお子様じゃないぜ。こう見えても、あの『魔剣帝』の弟子なんでね」


 『魔剣帝』の名を出した途端、ギルド内の空気が変わる。

 警戒の目を向けてくる者や、探るような目を向けてくる者、殺意をぶつけてくる者など、反応は様々だ。


「魔剣帝の弟子だと。マジかよ」

「ハッタリならやめといた方がいいぜ。魔剣帝には、恨みを持っている人間も多いからな」

「どうせ嘘だろ? 魔剣帝の名を出せばどうにかなるなんて、子供の考えそうな事だぜ」

「嘘だと思うんなら、試してみろよ。魔剣帝の弟子はそれなりに強いぜ? ここにいる、二流以下の盗賊どもじゃ相手になんないかもな」

「なんだと……!」


 盗賊達が険しい表情を浮かべ、武器を手にしてユラリと立ち上がる。

 プライドが傷付いたのか。さすがに俺みたいなお子様には負けていられないんだろうな。

 やる気なら相手をするまでだ。ここにいる全員ぐらい、倒すのはわけもない。


「やめろ、お前ら。子供相手になにやってるんだ」


 声を上げたのは、一番奥にいた人物だった。

 暗がりから浮き出るようにして姿を現し、こちらへ歩いてくる。


 そいつは、長身の男だった。年齢は三〇前後ってところか。

 細身でありながら、無駄のない筋肉を備えている。

 金髪ブロンドの長髪で、薄汚れたレザージャケットを羽織り、眼光は鋭く、隙がない。


「やあ、どうも。俺がこのギルドのギルドマスターだ。何か御用かな、少年」

「……あんたがギルドマスターだって?」

「そうだが。俺がギルマスじゃなにか問題でも?」

「いや……ギルドマスターはもっと年寄りの、ダークって爺さんじゃなかったっけ?」

「それは俺の親父だが、少し前に引退した。今は息子の俺がギルドマスターだ」

「引退? マジか……」


 あの爺さん、引退したのか。そういや、ずっと前からそろそろ隠居してのんびり暮らしたいとか言ってたな。

 ダークの爺さんなら、いい情報を提供してくれると思って、ここに来たんだが……当てが外れたな。


「親父の名を知ってるって事は、魔剣帝の弟子っていうのも、満更でたらめじゃなさそうだな」

「嘘じゃないさ。でなきゃ、こんな危ないところに来るわけないだろ?」

「ふん、なるほどな」


 現ギルマスは俺のそばに立っているマヨネラ達をチラリと見て、薄く笑みを浮かべた。


「保護者同伴で盗賊ギルドに遊びに来るとはいい度胸だな。条件次第じゃ情報をくれてやってもいいぜ」

「本当か? 条件ってなんだ?」

「連れの姉ちゃん達をここに置いていきな。それが条件だ」

「!?」


 ニヤリと笑うギルドマスターに、俺はため息をついた。

 あー、なるほど、コイツはそういうタイプか……どうも、すんなりと情報を与えてはくれそうにないな……。

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