41.魔道士ギルドと王国警備隊
「あ、あんたは、暗殺者のお姉さん……!」
「違う! 私は城の警備についている者だと言っただろうが!」
怪しい黒装束の女は、暗殺者なんじゃないかという俺の指摘を否定していた。
警備担当ねえ。どう見ても暗殺者なのに……苦しい言い訳だな。
「嘘ではない。そら、身分証だ」
女は懐を探り、身分証らしきものを取り出してみせた。
ライザが身分証を確認し、うなずく。
「王国警備隊特殊警備部隊隊長のカエデさん……お城の警備の方で間違いなさそうですね。それで、当ギルドになにか御用でしょうか?」
「たった今、その小僧と話していただろう。本日、城に曲者が侵入した。そいつは魔道士の姿をしていたわけだが、魔道士ギルドが派遣した者達に紛れ込んでいたのではないのか?」
この連中も魔女の行方を追っているわけか。
まあ、城に魔女の侵入を許したんじゃ、警備担当の面目丸つぶれだろうしな。
ライザはムッとして、カエデとかいう女に答えた。
「当ギルドに所属している魔道士の皆さんは、身元が確かな方々ばかりです。犯罪者など紛れ込んではいません」
「だが、実際に犯罪者が混じっていたわけだが。ギルドのチェックが甘いのではないか?」
「うちのギルドに責任をなすり付けようとしていませんか? そちらの警備がずさんなのを棚に上げて」
「なんだと……」
ライザが反論すると、カエデという女は元より鋭い目付きをさらに鋭くしていた。
今にも殺し合いでも始めそうな空気になり、俺は冷や汗をかいた。
「ラ、ライザもアサシンのお姉さんも落ち着けよ! 責任のなすり付け合いとか、みっともないぜ?」
「うっ……! い、言うわね、アロン君」
「私はアサシンではないと何度言ったら分かるのだ……だがしかし、小僧の意見も一理あるか……」
二人が殺気を収めてくれたのを見て、胸を撫で下ろす。
無駄な争いは極力避けないとな。本来、やるべき事がおろそかになってしまう。
この際、誰の責任かなんて事はどうでもいい。
一刻も早く、あの魔女を捕まえるのが先決だろう。
「とりあえず、王都周辺にいる魔女どもを片っ端から捕らえてやる。城に侵入した魔女の仲間がいるかもしれないからな」
「魔女を手当たり次第に? それはさすがに乱暴なんじゃ……」
「国王陛下を拉致しようとしたのだぞ。どのような手を使っても必ず捕らえる。魔女を名乗る者は全員容疑者だ」
うわ、この姉ちゃん、目がマジだ。本気で魔女達を捕まえるつもりみたいだな。
さすがに無茶苦茶だろう。非効率的だと思うし。
「賛成できませんね。魔女の皆さんは確かに変わった方が多いですけれど、犯罪に走るような方はほんの一握りです。善良な魔女の方々まで捕まえるなんてひどすぎます」
「ふん、ならば魔道士を全て捕らえてくれるわ! 魔女の仲間のようなものだからな!」
「ま、まあ、なんて横暴な! そんな真似は当ギルドが許しませんよ!」
「面白い。どう許さないのか言ってみろ」
ライザとカエデがにらみ合い、ギルド内にある待機所のテーブルに着いていた数人の魔道士達が立ち上がり、カエデが連れていた四人が身構える。まさに一触即発の状況だ。
……なにをやってるんだ。困った連中だな。
「おい、どっちもやめろ。こんなところで揉めてなんになる? いい加減にしろよ」
「アロン君は引っ込んでいて! これは国とギルドの問題なんだから!」
「子供は家に帰ってママのおっぱいでも飲んでろ。大人の話に割り込んでくるんじゃない」
「……なんだと?」
ちょっとムカッと来た俺は、いつもは抑えている殺気を、少しだけ開放した。
ギルド内にいる全ての人間が、俺の殺気に飲まれ、身動きが取れなくなる。
目付きを鋭いものに変え、俺は大人の二人をにらみ、呟いた。
「……あんまりナメた口を利いてると、斬るぜ? あんたらのおっぱいを斬り落として吸ってやろうか?」
「「ひっ……!」」
ライザは真っ青になり、カエデも息を呑んだ。
俺が殺気を収めると、二人は胸を撫で下ろしていた。
「ご、ごめん、アロン君……謝るから怒らないで……」
「本当に何者だ、貴様。一瞬だが、この私が死を覚悟してしまったぞ。まるで死神か、鬼神にでも遭遇してしまったような……」
ふっ、まあ、ざっとこんなもんだ。
俺が本気で殺気を放てば、大概の人間の動きを封じられる。
絶対に素性を怪しまれるのが分かっているから、普段はやらないが……今回は仕方ないよな。
「犯人は『略奪の魔女』だって分かってるんだから、そいつに絞って捜索した方がよくないか? 交友関係を当たってみるにしてもさ」
「確かにそうだが……しかし、そいつが本当に『略奪の魔女』だという保証はあるまい? 他の魔女が名前を騙っているのかもしれんぞ」
カエデの意見に、ライザは首を横に振った。
「それはないと思います。魔女は自身の呼び名や二つ名に誇りを持っていますから。もしも他者が名を騙ったのだとすると、本物の『略奪の魔女』が偽者を許さないでしょう。そんなリスクを背負ってまで、名を騙る意味はないんじゃないかと」
どうだろうな。王国に追われるのと、魔女に追われるのを天秤にかけた場合、どちらがよりリスクが高いか。
そこのところは分からないが、ひとまずは『略奪の魔女』を追うしかないんじゃないか。
もしも偽者なら調べていけばいずれ分かるだろうし、正体も見えてくるはずだ。
「『略奪の魔女』はお尋ね者なんだろ? 人相や特徴なんかは分からないのか?」
「人相書きはあるわ。ただ、姿形は変化の魔法なんかで真似る事ができるから……」
本人かどうかを決定づける証拠にはならないわけか。
とりあえず手配書に記載されている人相書きを見せてもらったが、俺達が遭遇した『略奪の魔女』そっくりだった。
あいつが本物だったと仮定して捜してみるしかないか。アジトなんかは分からないのかな?
「盗品の売買をするために、よく立ち寄る街があるらしいわ。そこで張っていれば見付けられるかもしれないけど……」
「なにかマズいのか?」
「その街というのに問題があって……悪名高き、盗賊都市、なのよね……」
「!?」
うわあ、マジか。よりによって、あそこかよ。
このパイノエリア王国において、最も治安が悪いとされている街。王国の力が及ばない、辺境の地。
ボトムシティ。またの名を盗賊都市。住民の大半が盗賊稼業に従事しているという、犯罪者の街だ。
カタギの人間が近付いていい場所じゃないぞ。身ぐるみ剥がされてしまう。
「盗賊都市か。当たってみる価値はありそうだな」
カエデが呟き、ニヤリと笑う。
アサシンみたいなこの姉ちゃんなら危険はなさそうだが……どうだろうな。
「盗賊都市ね。他に手掛かりがないなら仕方ない、行ってみるか」
「ほ、本気なの、アロン君? 危ないわよ」
「子供が行ってもいい場所ではないと思うが……貴様の場合は分からんな」
俺としてもあまり近付きたくない場所ではあるが、これも魔剣を取り戻すためだ。
絶対にあの魔女を探し出してやる。どんな手を使ってもな。




