40.新たな魔剣
魔女が姿を消した直後、城を警備している衛兵達が駆け付けてきた。
事情を説明すると、すぐに魔女を追うと言っていたが……たぶん捕まえるのは無理だろうな。
油断したつもりはないが、完全にしてやられたな。やはり魔女というのは危険な存在だと再認識した。
国王が襲われずに済んだのはよかったが、代わりにこっちが大損害だ。まさか、魔剣を奪われてしまうとは。
俺の魔剣は、どれもレア物で、値段も付けられないような逸品ばかりだっていうのに。
いや、希少価値とかそういうのはどうでもよくて、剣士にとって剣は自分の魂であり、半身なんだ。
それを奪われたわけだから、身体と魂の一部を盗まれたも同じだ。
『略奪の魔女』とか言っていたな。あの女、草の根分けてでも絶対に捜し出してやる。逃げられると思うなよ……!
「まさか、本当に国家転覆を狙う魔女が現れるなんて……アロン君達が無事でよかったわ」
クララ先生は俺達の無事を確認し、安堵していた。
落ち込んでいる俺達を励ますようにして、笑顔で言う。
「イベントは中止になってしまったけど、邪悪な魔女の企みを阻止したアロン君達には、国王陛下からご褒美があります! 賞品の魔剣を受け取って!」
俺達の活躍で魔女の計画は阻止できたという事で、先生やクラスの皆は、俺達三人の優勝だと認めてくれたらしい。
国王にも評価してもらえたようで、国宝級のお宝だという魔剣を俺達に与えてくれた。
それは、一振りの刀だった。反りのある片刃の剣で、なかなかの剛刀だ。
『ムラマサ』というらしい。予想していた以上にすごそうな魔剣だな。
代表してアーシェが魔剣を受け取ったのを見て、ハッとする。
そう言えば、パーティーで競い合って、優勝したパーティーに魔剣が与えられるんだったな。
つまり、魔剣はパーティーメンバー三人の物であって、俺の物にはならないのか。
「アロン君、メルティさん、見て見て! なんだかすごそうな剣だよ!」
アーシェに手招きされ、俺とメルティは魔剣をマジマジと眺めた。
装飾は割とシンプルだが、並みの業物ではないのが鞘や柄の造りからもうかがえる。
アーシェがゆっくりと剣を抜くと、美しい刀身が顔を出した。
紫色の光を発していて、見る者を魅了する妖しい輝きが……。
「いや、ちょっと待て。それ、もしかしてヤバイ類の魔剣なんじゃないか?」
「ヤバイって、なにが? こんなにきれいな剣なのに……ほら、剣が血を吸いたがってるよ……」
「やっぱり! 剣を鞘に納めろ、アーシェ! 心を取り込まれてしまうぞ!」
アーシェが剣を抜ききる前に、柄を押さえて、鞘に収納させる。
するとアーシェはハッとして、頭を押さえていた。
「えっ、私、どうしちゃったんだろ……この剣を抜こうとしたら、頭の中に『殺せ、殺せ』って声が聞こえてきて……」
「完全に呪われてるぞ! なんて物を賞品にするんだ!」
そこで国王が、何かを思い出したように呟いた。
「おお、そうだ。言うのを忘れていたが、その魔剣は決して鞘から抜かないようにな。どうやら強力な呪いがかけられているらしいのだ」
「おせえよ! さてはわざと黙ってたな!?」
「余は国王なのにひどい言い草だな……」
アーシェから剣を取り上げ、改めて観察してみる。
剣全体から、妖気のようなものを発しているな。さしずめ、呪われた妖刀ってところか。
かなり危険な代物だが、業物であるのは間違いなさそうだ。
「こいつは俺に預からせてもらえないか? 無論、独り占めにする気はない。三人の持ち物という事にしよう」
「わ、私はそれでいいけど……アロン君は大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。呪われた剣なら何本か扱った事がある」
魔剣というのは、少なからず、持ち主の精神に影響を与える。
事実、俺が所有している魔剣のほとんどは、人体に悪影響を与える代物だったりする。
俺はそういった呪いの類には耐性があり、簡単に心を支配されたりはしない。
長年、魔剣ばかり扱ってきたために、慣れてしまったんだ。
実は、いつも装備している二本の魔剣にも、そういった力がある。
短い方の魔剣、ソードウインドには、持ち主のテンションをハイにしてしまうという特性がある。
盗まれた長い方の魔剣、ブロードザンバーは、目に映る物全てを破壊してしまいたくなる、強烈な破壊衝動を持ち主に抱かせる。
そういった妙な力を制御して武器として扱うのが、魔剣使いの特殊技能なのだ。
「……本当に大丈夫なの? あなたが魔剣に精神を支配されたりしたら、最低最悪のバーサーカーが生まれてしまいそうだけど」
「大丈夫だって。魔剣の扱いについては任せてくれ。なにしろ俺は魔剣帝……の弟子だからさ」
メルティが小声で尋ねてきたので、安心させておく。
魔女の呪いは防ぐ事ができなかった俺だが、魔剣に込められた呪力や魔力の扱いには慣れている。
この新たな魔剣も使いこなしてみせようじゃないか。どんな能力を秘めているのか、楽しみだな。
城の見学を終えた後、俺は町外れにある魔道士ギルドへ向かった。
「あら、アロン君。こんにちは!」
受付にはギルドマスターの孫娘のライザがいて、笑顔で応対してくれた。
「『略奪の魔女』について情報を知りたい。どんな些細な事でもいい」
「『略奪の魔女』? それって確か、賞金が懸かっているお尋ね者よね。なんでまた、そんな危ない人の情報を……」
「実は……」
事情をかいつまんで話すと、ライザはうなっていた。
「それは災難だったわね。でも、お城に忍び込んで王様を誘拐しようだなんて、無茶苦茶よね。いくら魔女でも、本気で成功すると思っていたのかしら?」
そこはなんとも言えない。どんな馬鹿でもやらないような事をやるのが魔女だからな。
ただ、あの魔女が単独で動いたのではなく、共犯者や協力者、手引きをした者などがいたのだとしたら、成功する確率は高かったんじゃないかと思う。
あのイベントで俺達が最初に接触した魔道士は、魔女がいる場所を示した地図を持っていた。
最初の魔道士が城への侵入を手引きする役目だったのかもしれない。
魔女とグルだったのか、イベントの一部だと思ってやったのかは分からないが。
俺達が邪魔に入ったのが完全に想定外だったのだとしたら。本来なら今頃、国王は魔女の手に落ちていたのかもしれないな。
「今日、城に魔道士が何人か来ていたけど、あれって、ギルドから派遣された人間なんじゃないか?」
「あら、よく知ってるわね。学院の生徒さん達を迎えるために必要だっていうから、手が空いている魔道士に行ってもらったのよ」
「その連中の身元は確かか? 魔女の仲間が紛れ込んでいたんじゃ……」
「ふふ、まさか。うちのギルドに所属している魔道士に限って、そんなはずは……」
「……その話、詳しく聞かせてもらおうか」
何者かの声が響き、俺とライザはハッとした。
慌てて振り返ってみると、いつの間に現れたのか、妙な連中が来ていた。
全部で五人、全員が黒装束に身を包んでいる。
まるで気配を感じなかったぞ。只者じゃなさそうだな。
特に先頭に立っている、リーダーらしき女は……って、あいつは……!
「また会ったな、小僧」
それは城の中庭で遭遇した、例の暗殺者みたいな女だった。




