39.略奪の魔女
「正体を知られたからには、生かしておくわけにはいかんな。全員、死んでもらう……!」
「勝手に名乗っておいて無茶苦茶言ってるよ! なんなの、あの人!」
不敵に笑うベルリエルとかいう魔女に、アーシェはオロオロしていた。
まあ、魔女を名乗ってるようなヤツだからな。基本的に変人だと思っていた方がいい。
そこで俺は、メルティに尋ねてみた。
「さっきの魔法の撃ち合いは互角みたいだったけど、メルティはあいつに勝てそうか?」
「正直、苦しいわ。魔女を名乗る者は、保有する魔力の量が普通じゃないから。撃ち合いを続ければ、こちらの魔力が先に尽きてしまう」
「そうか……」
いくらメルティが優秀でも、魔女が相手では厳しいか。
だが、こっちは三人もいるんだ。俺達が力を合わせれば、どうにかなりそうな気がする。
「おい、あんた。国王を捕まえてどうするつもりなんだ?」
「ふっ、子供には分からないだろうが、大国の王というものにはいくらでも利用価値があるのだ! 身代金を要求してもいいし、他国に売ってもいい。そしてなにより、名を上げる事ができる! 国王をさらった魔女など、伝説級の存在として語り継がれていく事だろう!」
「欲望の塊みたいな魔女だな……」
「そうとも、それのなにが悪い! 魔女とは自由気ままに生きるもの! 富と名声を得るためならなんでもするのさ! フハハハハ!」
悪い意味で欲望に忠実すぎるヤツだな。偉そうにほざいているが、言っている事はそこらのチンピラと変わらない。
城に攻め込んできている時点で、とんでもなくヤバイヤツなのは間違いないが……王国をナメすぎていないか? こんな真似をして生きて帰れるとでも思っているのかね。
「アーシェ、メルティ、やっちまおうぜ。俺達であの魔女を倒すんだ」
「そ、そうね。犯罪者を見過ごすわけにはいかないわ」
「逃がしてくれそうにないし、やるしかないか。私達だけで勝てるのかしら……」
相手が魔女という事もあって、アーシェもメルティも緊張している様子だった。
正直、俺もあまり自信はないが……倒すのは無理でも、足止めぐらいはできるんじゃないかと思う。
ここで食い止めていれば、必ず援軍が来てくれるはずだ。それまではなんとか踏ん張ってみよう。
「道を開けろ、お子様ども。邪魔をしないのなら殺さないでおいてやる。我は慈悲深いのでな」
「さっきは正体を知られたからには殺すって言ってたのに……」
「実は俺達にビビッてるんじゃないか?」
「だといいけど。油断しない方がいいと思うわ」
魔力をみなぎらせ、『略奪の魔女』ベルリエルが臨戦態勢を取る。
俺とアーシェは並んで剣を抜き、迎え撃つ構えを取った。
メルティは後方に待機し、魔力を高めて攻撃魔法の準備を整えている。
剣の間合いに入れば、魔法使いは剣士の敵ではない、というのが常識だが、油断はできない。
先日戦った魔女の弟子、パラカララは接近戦も強かったしな。あいつは例外だと思いたいところだが……。
「俺から行く。アーシェは様子を見て、敵の隙を突いてくれ。メルティは援護を頼む」
「分かったわ! 気を付けてね」
「ああ」
「骨は拾ってあげるわ」
「ありがたいけど、俺がやられるのを前提にしてないか?」
魔女関係には散々ひどい目にあわされているからな。慎重に行こう。
だが、慎重にやりすぎても駄目だ。行けると思ったら、ガンガン攻めてやるぜ。
「行くぞ!」
ダン、と地を蹴り、魔力をまとって加速、右に左にとジグザグに動きながら、魔女に接近を試みる。
「むっ、速い! 貴様、ただの子供ではないな!」
俺の動きを見て、魔女がやや驚いた様子で呟く。
子供だと思って警戒していなかったのか? これなら行けそうだな。
一気に間合いを詰め、魔力剣で斬りつける。パラカララのような特殊能力がない限り、太刀筋は見切れないはず。
仮に見切れても防ぎようがあるまい。その首、もらった!
「でやあ!」
踏み込むと同時に、斜め上段から全力で剣を振るう。
魔力剣が炸裂し、魔女の身体をザクッと切り裂く。
……手ごたえあり。確実に仕留めた。
剣を止めた俺だったが、そこで信じられないものを目にした。
斬ったはずの魔女が、俺をジッと見て、笑っているのだ。
魔女の身体がユラリと揺らぎ、消えてしまう。
「くっ、幻影か?」
見ると、魔女は間合いのはるか外に立っていた。
俺に幻影を斬らせて、後方で見学してやがったのか。ナメた真似を……!
「子供のくせに恐るべき剣技の使い手だな。念のため、分身を前に出しておいてよかった」
「なんだ、そんな所にいたのか。次は逃がさないぜ、オバサン」
すると魔女は、クワッと目を見開き、叫んだ。
「我はオバサンではない! 訂正しろ、小僧! 若くてピチピチしたお姉さんだ!」
「えー、そうかあ? 俺の三倍ぐらい生きてそうだけど」
「やかましいわ! 女性を年齢の事で侮辱するのは最低の行為だぞ! 死ね!」
えらい言われようだな。年齢の事を気にしているのか。
まあ、本当は俺の方が年上なわけだが……メルティが「自分はおじさんのくせに……」と呟いたような気がしたが、聞かなかった事にしとこう。
「ヒュドラを倒した二人といい、貴様らが見掛けよりもはるかに腕が立つのは間違いなさそうだ。城の衛兵などが集まってくる前に、今日のところは引くべきか……」
「逃げるつもりか? そうはさせないぞ!」
「だが、手ぶらで帰るというのも癪だ。邪魔をしてくれたお返しに、貴様らからいただいておこう……!」
「なんだと? なにを言って……」
ベルリエルは、右腕を横薙ぎに振るって、空間を裂くような動作をした。
なにかを放ってくるのかと思ったが、なにも起こらない。
ニヤリと笑った魔女の手に、見覚えのある物が握られているのを見て、ハッとする。
慌てて腰に手をやると、そこにあるべき物が消えていた。
「お、俺の剣がない! 馬鹿な、どうやって奪ったんだ!?」
長い方の魔剣、ブロードザンバーを奪われてしまい、俺は真っ青になった。
よりによってあれを……俺の愛刀を盗むとは。なんてヤツだ。
「我は『略奪の魔女』なり! 他者から大事な物を奪う術にかけては、世界一だと自負している! 貴様らのお宝、もらった!」
「貴様らの、だと……?」
もしやと思い、後方に控えたアーシェとメルティに目を向けてみる。
二人は自分の身体を探り、顔面蒼白になっていた。
「ない、ないわ! 私の宝物がなくなってる……!」
「わ、私も……そんな、あれがないと私は……か、返して!」
どうやら二人とも、何かを奪われたらしいな。
魔女は愉快そうに笑い、勝ち誇ったようにして俺達に告げた。
「貴様らのお宝はもらっていく。返してほしくば、そうだな……国王の身柄を引き渡してもらおうか。そうすれば返してやるぞ」
「ふ、ふざけるな! 今すぐ取り返して……」
「では、そういう事で。さらばだ!」
ベルリエルは、かき消えるようにして姿を消してしまった。
おそらくは転移魔法を使ったのだろう。城の外か、あるいは王都の外に転移したに違いない。
「メルティ、追えるか?」
「無理よ。逃走用に、かなり長距離を移動する転移魔法を用意していたのでしょう。もう王都周辺のどこにも気配がないわ」
なんてこった。戦いには負けていないが、大事な物を奪われたあげく、まんまと逃げられてしまうとは。
こいつはちょっとシャレにならない。あのクソ魔女め、絶対に探し出してやるぜ。
それにしても、よりによって『魔剣帝』から魔剣を奪うとは……魔女ってのは、本当に恐ろしい存在だな……。




