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4.高等部一年のトップ

 そこは、やたらと広い部屋だった。

 後方へ行くほど高くなるように机が配置され、一〇〇名は収容できそうなところに、三〇名ぐらいの生徒が席に着いている。

 俺は教卓の前に立ち、自己紹介をした。


「アロン・エムスです! よろしく!」


 声を張り上げて叫んだら、前の方の席に座る生徒の何人かが耳を押さえていた。

 ちょっと声が大きかったか。教室全体に聞こえるようにしたんだが。


 ここは学院内にある、高等部一年の教室だ。

 編入試験に合格した俺は、学院に通える事になった。

 だが、俺の実力だと初等部や中等部で学べる事はないという。

 そこで俺は、高等部に所属する運びとなった。

 年齢的には初等部に入るのが普通らしいので、飛び級扱いってところか。


 高等部の生徒は基本的に一五歳以上だそうだ。

 今の俺より五つも上の連中と一緒に授業を受けるわけか。

 ちなみに担任はクララ先生だ。彼女が俺に、高等部で自分が受け持っているクラスに入るよう勧めてくれた。


 同じ子供でも、一五歳以上ともなると体格は大人とそう変わらない。

 それに比べて、一〇歳の俺は子供そのものだ。

 子供が自分達のクラスに編入してきたと聞き、高等部の生徒達は興味深そうに俺を見ていた。

 「なんだあいつ、ものすごい童顔か?」「いや子供だろ、どう見ても」「俺達、子供と同レベルなのかよ」などという呟きが聞こえてくる。

 ……無理もないか。逆の立場だったら俺も似たような反応をしていただろうし。


 先生から空いている席に着くように言われ、教室内を見回す。

 いくらでも空いている席はあるようだが、どこに座ろうか……なんて思っていると、どこかで見たような顔をした生徒がいるのに気付いた。

 確か、職員棟の場所を教えてくれた姉ちゃんだったな。一応、挨拶しとくか。


「よう。また会ったな」


 俺が軽い口調で声を掛けると、金髪の少女は微妙に引きつっていた。


「こ、こんにちは。どうやら編入試験に合格したようね。それにしてもてっきり初等部の生徒だと思ったのに、同級生になるなんてね」

「そうなんだよ。初等部で教わる事はなさそうだから高等部に入れって言われてさ」

「……つまり、それだけ優秀という事かしら? ふーん……」


 金髪の少女は俺を値踏みでもするようにジロジロと見ていた。

 改めて見るとかなりの美人だな。そんなに見つめられると照れちまうぜ。


「あんたの名前は?」

「私は、アーシェ・クリダニカ。よろしくね、アロン君」

「おう、よろしくな!」


 クリダニカだと……確か、王族直系の名門じゃなかったか? なるほど、そこのお嬢様ってわけか。

 俺とアーシェが会話を交わしているのを見て、他の生徒達はなんだかざわついていた。

 「あの子供、アーシェさんの知り合いか?」「子供ってすごいな。あのアーシェさんにあんなに馴れ馴れしく話せるなんて」「まさかアーシェさん、ショタ好きなんじゃ……」などと言った呟きが聞こえてくる。


 ……誰が子供でショタなんだコラ。お前らも魔女の呪いを受けてみるか?

 聞こえていないはずはないのだが、アーシェは特に気にした様子もなかった。肝が据わってるな、この姉ちゃん。

 一人分ほど開けて、アーシェの隣に座る。席は特に決められていないみたいだから、問題はないだろう。


 やがて、授業の開始時間となった。

 座学の授業がしばらく続き、俺は半分眠った状態で教師の話を聞いていた。

 授業ってどんなもんかと思ったが、あんまり面白くないな。世界の歴史やら、語学やら……、

 魔法についての授業は魔女や呪いの事がなにか分かるんじゃないかと思って少し興味を引かれたが、魔法の成り立ちやら種類についての話ばかりで、剣士である俺にはチンプンカンプンだった。

 いくつかの授業を受けた後、生徒達が次々と席を立ち、教室から出て行った。

 今日の授業は終わりなのかと思いきや、そうではないらしい。


「次は剣術の実技授業よ。訓練場に移動するの」


 アーシェに教えてもらい、慌てて席を立つ。

 更衣室で実技訓練用の無地のシャツとハーフパンツという簡素な服装に着替え、訓練場に入る。

 そこは屋内に設けられたやたらと広い部屋で、編入試験の会場とは異なる場所だった。

 こういった屋内外の訓練場が学院のあちこちにあるらしい。


 他のクラスの生徒と合同で授業を受けるらしく、教室にいる時よりも人数が倍ぐらいに増えていた。

 生徒達は皆、訓練用の木剣を手にしている。俺も適当なヤツを選んでみた。

 木剣なら軽いから、長めの剣でも余裕で振り回せるな。


 実技の指導役はクララ先生だった。二人一組になるように言われ、相手を探す。

 なぜか、俺が目を向けると、クラスの連中は皆、顔をそむけていた。


「えーと、誰か、相手を……」

「私が相手をしましょうか?」


 声を掛けてきたのは、金髪のお嬢様、アーシェ・クリダニカだった。

 相手をしてくれる人間がいた事に安堵しつつ、俺はアーシェに尋ねてみた。


「なんでみんな、俺と目を合わせてくれないんだ? もしかして俺が生意気そうなガキだから嫌われてる?」

「違うわよ。みんな、恥をかきたくないんでしょ」

「恥?」

「年下の君に勝っても自慢にならないし、仮に負けでもしたら、年下に負けたという事で馬鹿にされるかもしれないでしょ。だからみんな、君とは組みたくないのよ」

「あー、なるほど、そういう……確かに、俺みたいなガキに負かされたくはないよな……」


 納得しつつ、アーシェに尋ねてみる。


「アーシェはなんで俺の相手をしてくれるんだ?」

「君に興味があるから、かな? その歳で高等部に振り分けられてしまう実力というのがどんなものか、見てみたいわ」


 アーシェは身をかがめて俺に顔を近付けてきて、柔らかく微笑みながら、そんな事を言っていた。

 至近距離から澄んだ瞳で見つめられ、ドキッとしてしまう。

 俺が子供だからか、躊躇なくグイグイ来るな。美少女に迫られるなんて、子供も悪くないかもしれない。


 木剣を手にして、訓練場の一角でアーシェと向き合う。

 念のため、確認を取っておくか。


「えーと、アーシェは強いのか? 剣術は得意な方?」

「心配しないでも、弱くはないつもりよ。このクラスで私に勝てる人はいないと思うわ」


 クラスでトップの実力者って事か? なら、遠慮はいらないか。

 というか、今の俺じゃ勝つのは難しいんじゃないか。なにせ一〇歳の身体だもんな。


「それじゃ、胸を借りるつもりで……行くぜ!」

「!」


 床を蹴り、剣が届く距離まで間合いを詰める。

 リーチが短い分、相手の間合いに踏み込む必要がある。かなり危険な行為だが仕方がない。

 アーシェが剣を繰り出すよりも早く、右手のみで握り締めた木剣を振るい、打ち込む。


「くっ……!」


 アーシェは即座に反応し、俺の攻撃を木剣で受けてみせた。

 なんだか虚を突かれたって感じだが……予想よりも俺の動きが速かったのか?

 剣を引き、左、右と軌道を変えて四、五回ほど打ち込む。

 アーシェが剣で受けてみせたのを確認し、一旦下がる。


 ふむ。クラス一強いと言うだけあって、この姉ちゃん、かなりやるな。

 反応速度が大人顔負けだし、隙がない。今の俺が訓練を積む相手としては丁度よさそうだ。


「驚いたわね。一〇歳の子の動きとは思えないわ」

「そりゃどうも。でも、さすがに五つぐらい上の姉ちゃんを相手にするのはキツいかな?」

「ううん、そんな事ないわ。たぶん、私以外の人間では君の相手は務まらないでしょう……」

「?」


 ほめられているのか? しかし、なんだかアーシェの顔付きが変わったような……。

 アーシェは木剣を両手で握り締め、剣先を俺に向けて構え直した。


「次は私の番ね……」

「おう、来い!」


 床を蹴り、アーシェが踏み込んでくる。

 剣を低めに構え、一直線に突っ込んできたかと思いきや、横薙ぎに剣を振るってきた。


「おっと」

「!?」


 真横からの一撃を、木剣で受ける。

 アーシェはすばやく剣を引き、その場で回転、反対方向から剣を繰り出してきた。

 おお、速いな。それに、鋭い。間合いの取り方も上手いし、いい動きだ。

 二撃目を剣で受け、弾く。

 するとアーシェは飛び退くようにして後ろに下がり、隙のない構えを取った。


「今のを防ぐなんて……君は一体、何者なの?」

「世界一強い剣士……の弟子ってとこかな」


 決め台詞のつもりで呟いた俺を、アーシェは「なに言ってるの?」という顔で見ていた。

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