35.5 魔女の集会
「黄金眼のパラカララがやられちゃったか……だがヤツは、魔女の弟子の中でも一番の小物よ!」
「おい。うるせえぞ、酔っ払い」
繁華街の裏通りにある魔道具店にて。
カウンターの隣にある休憩スペースのテーブルに着き、俺は店主のアナと話していた。
パラカララとの戦いの顛末を話すと、アナは残念そうにしていた。
「その場に私がいれば、サクッと倒してあげちゃったのにねー。参加できなくてしょんぼりよー」
「どこに行ってたんだよ。ちゃんと警備の仕事をしてたのか?」
「初等部の教室を一つずつのぞいて回ってたんだけど、警備についてる騎士団の連中から不審者と間違えられちゃってさ。逃げ回ってたのよ」
「お前……なにしに行ってたんだよ?」
「結局、捕まっちゃって、ずっと取り調べを受けてたのよ。かわいい男の子が好きなだけで怪しい者じゃないって言ってるのにちっとも信じてくれなくて」
「なにしに行ってたんだよ! 真面目に働いてる騎士団の皆さんに迷惑をかけるな!」
このバカ、そのまま投獄されちまえばよかったのに。
俺が苦戦を強いられていた頃、騎士団の連中と追いかけっこをして遊んでやがったのか。どうしようもない酔っ払いだな。
「でも、とりあえず魔女の弟子は倒したわけよね。これでしばらくは安心じゃないの?」
「そう願うよ。少なくとも俺にかけられた呪いが解けるまではな……」
自分の小さな手を見て、ため息をつく。
これでも毎日、素振りをやったりして鍛えているんだが。なかなか成長してくれない。
魔力を使って身体能力を強化する事はできるが、元々の身体が貧弱では強化してもたかが知れている。
この子供の身体を強く鍛えないと、いつまで経っても本来の力を出せないぞ。
「私としては、ずーっと子供のままでいてほしいんだけど。その姿のまま成長しないんなら、結婚してあげてもいいよ?」
「こんな子供と結婚してどうするつもりだ? しかも成長しない場合、お前だけが老けていくんだぞ?」
「うぐっ……! そ、そこはほら、私も年を取らない術でも使って……色々とやりようはあると思うのよ」
こいつは悪いヤツじゃないんだが、本当に馬鹿だよな。
子供に手を出す前に息の根を止めてやるのが友人としての優しさなのかもしれない。
ため息をつきつつ、店内を見回す。
いつもは客なんて一人もいないのに、なぜか今日は数人の客が来ている。
客は皆、ローブ姿の魔法使いばかりだ。魔法具店だから当然ではあるが、剣士とは相容れない連中だな。
よく見ると、客の中に、ロリロリした魔女と、ロリロリしたその弟子がいた。
「ロリ魔女とロリ弟子じゃないか。買い物か?」
「ロリ魔女言うな! 失礼極まりないヤツじゃのう」
「誰がロリ弟子なの? 学院で正体をバラすわよ、ショタおじさん」
『次元の魔女』ミリオムと、その弟子で俺のクラスメイトのメルティは、不愉快そうにしていた。
フレンドリーに挨拶をしたつもりなのに、つれないな。ロリとショタで、もっと仲良くしようぜ。
「おぬしとは別の世界で何度か会っておるが……基本的に適当でいい加減なヤツじゃのう」
「俺って、別世界でもそんな感じなのか? 困ったもんだな」
「他人事のように言うのう」
別世界というのがよく分からないが、ミリオムはこことは異なる世界へ行く術を持っているらしい。
実に怪しい魔女だ。俺がモテモテの世界とかあるのなら連れて行ってほしいぜ。その世界に永住しよう。
「あまりのんきにしておる暇はないと思うぞ。おぬしの首を狙う魔女は一人や二人ではないからのう。近いうちに仕掛けてくるかもしれんぞ」
「マジか。俺は魔女なんかと揉めたくないんだけどな。やる気なら相手をするしかないか……」
呪いを解いて元の姿に戻る事ができれば、誰が相手だろうと問題はないんだけどな。
子供の姿のままでは、高位の魔法使いや魔女の相手をするのは厳しい。
パラカララと同等クラスの魔法使いが襲撃してきたら、今度こそ殺されてしまうかもな……。
「な、なあ、ミリオムさん。例の、別世界の自分と身体を入れ替える魔法、俺に教えてくれないか?」
「駄目じゃ。というか、無理じゃ。魔法使いではないおぬしに、あのように高度な魔法は扱えぬ。それにあれは本来、禁呪。次元、時空に干渉する魔法は、気安く使用してよいものではない」
やっぱり駄目か。俺にあの魔法が使えたら、いざという時の切り札になると思ったんだが。
そうなると、呪いを解く方法を探すしかないか。どこかに呪いのエキスパート的な人物がいないのかな……。
「おい、アナ。俺の呪いを解いてくれそうな人間はまだ見付からないのか? 魔道士でも魔女でも呪術師でもいいからさ」
「うーん、探してはいるんだけどね。魔女が自らの死と引き換えにして施した強力無比な呪いを解ける人間なんて、存在するのかどうか……」
そっちも難しい、か。気長に待つしかないのか。
俺がうなっていると、メルティが身を寄せ、小声で囁いてきた。
「ここの店長さんには話しているの? 呪いの事とか」
「ああ、うん。一通り事情は説明してある。それなりに長い付き合いだからな」
「大人同士の、長い付き合い……それって、つまり、そういう……」
メルティは頬を染め、俯いてモジモジしていた。
なんの事かと思ったが、どうやら勘違いをされているようだと気付き、ハッとする。
「い、いや、違うぞ? そういう関係じゃないからな。ただの顔見知りで、友人とも言えない程度の付き合いだから。誤解しないでくれ」
「ただの顔見知りに呪いの話なんかするかしら。怪しいわね」
「全然怪しくないから! あんなのと妙な関係だと思われたら困る!」
俺は強く否定したんだが、メルティは疑いの眼差しを向けてくるだけだった。
いや、マジで冗談じゃないぞ。勘弁してくれ。
俺が本来の姿の時なら笑い飛ばせる話だが、今の状態だとシャレにならない。
ショタ好き女と噂になったりしたら最悪だ。きちんと否定しておかないとな。
「店長さん、このポーション、すごく高くないですか?」
「あー、それ、原材料が高騰していてね。相場が爆上がりしてるんだよね」
「店長、悪魔の角の在庫はこれだけか? 百本ほど欲しいのだが」
「うーん、店頭に出してる分しかないなあ。月末には入荷するはずなんだけど」
魔法使いと思われる客が、次々とアナに声を掛けてくる。
珍しく、忙しそうだな。あの酔っぱらいもたまにはちゃんと働いているわけか。
「このお店、魔法使いの間では評判いいのよ。品ぞろえが豊富だし、頼めば大概の物を取り寄せてくれるから」
「へえ、そうなのか。いつも暇そうにしてるから、開店休業状態なのかと思ってたぜ」
俺が感心していると、メルティはクスッと笑った。
「それはたぶん、君が暇な時にしか来ていないからでしょう。もしくは店長さんが、暇な時間に君が来るように調整しているとか」
「アナのヤツが俺の都合に合わせてくれてるってのか? なんでだ?」
「おそらくだけど、君とゆっくり話をしたいからじゃ……」
「オホン! メルティ、新しい杖はいかが? 安くしとくよ」
急にアナが割り込んできて、メルティにセールスを始めた。
商売熱心でなによりだが、なんだか不自然だな。俺に知られたくない事でもあるのか?
「おぬしは確か、独り身じゃったな? 恋人もおらぬのか?」
「あー、まあ、そういうのは……縁がなくてね」
ミリオムに問い掛けられ、頭をかきながら答える。
さすがに女の知り合いぐらいはいるが、友人以上の関係となるとな。
「自覚はないわけか。おぬし、割とアホじゃのう」
「なにがだよ!? モテないとアホになるのか? 泣くぞコラ!」
ミリオムは、どうしようもなく出来の悪い弟子を見るような目で俺を見ていた。
そんな目で見ないでくれよ。俺がモテないのを憐れにでも思っているのか?
「それはそれとしてじゃ。今日、この場に来ている者達は、比較的安全な部類に入る。顔を覚えておくとよかろう」
「えっ?」
この場にいる者達? 店内にいる、他の客の事か?
首をかしげた俺に、ミリオムは淡々と告げた。
「全員、魔女じゃ」
「なっ……!」
店内にいる数人の客が……魔女達が一斉に目を向けてきて、冷や汗をかく。
「皆、争い事を好まぬ者達じゃ。安心せい」
「本当だろうな。隙を見せたら怪しい術や呪いをかけようとしてくるんじゃ……」
「中には危険な者がいるのも確かじゃが、そういう連中はむしろ少数派じゃ。ほとんどの魔女は、人見知りをする、大人しい者達なのじゃよ。邪悪な者どもが派手に暴れるせいで、悪い印象が広まってしまっていて、迷惑しておるのじゃ」
なるほどな。魔女も色々と苦労しているわけか。
改めて店内にいる魔女達を観察いてみる。皆、俺と目が合うと慌ててそらしたり、ぎこちない笑みを浮かべたりしていて、確かに気の弱そうな連中ばかりみたいだった。
むっ、一人だけ目をそらさずにジーッと見つめてくるヤツが……って、なんだ、メルティか。
「さては自分好みの年上のお姉さんはいないか吟味しているのね? 恐ろしい男だわ」
「違うよ! つか俺は別に年上好きじゃねーし!」
「なら、ロリ好きか? 身の危険を感じるのう」
「あんた、中身はロリじゃないだろ! それに俺はロリ好きでもない!」
ヘラヘラと笑うロリ魔女とロリ弟子に、俺は引きつるばかりだった。
なんなんだ、この師弟は……俺をからかいに来たのか?
今に見てろよ。呪いを解いて元の姿に戻ったら、俺のアダルトな面を見せ付けてやるからな。ロリ連中なんか泣かしてやるぜ!
「かわいい子ですね……抱っこしてもいいですか?」
「あっ、私も! 大人の男は怖いけど、このぐらいの子供なら……」
「じゃ、じゃあ、私も……君、お菓子食べる?」
「うわあ、肌がプニプニ……若い男の子っていいわあ……」
そこへ魔女連中が群がってきて、息を荒らげながら俺に触ってきた。
な、なんだ、一体? みんな気が弱そうなのに、なんでハアハアしながら俺を触るんだ?
本当にこいつらは安全な部類の魔女なのか? 身の危険を感じるんだが……。
「皆さん、離れてください。アロンが嫌がっています」
「えー、ちょっとぐらいいいでしょ? メルティちゃん、横暴」
「さてはメルティちゃんの彼氏なの? 年下が好みなんだ」
「ち、違いますし! このエロ少年の中身はオジサンなんですから、妙な真似をすると返り討ちにあいますよ」
メルティに庇ってもらい、どうにか悪戯されずに済んだ。
やはり魔女というのは油断ならないな。今後も気を付けるようにしよう……。




