34.『魔剣帝』の一撃
子供にされたりして、散々な目にあっているが……俺って、意外と人の縁ってヤツに恵まれているよな。
アーシェが氷の波を蒸発させてくれたおかげで、敵との間に遮蔽物がなくなった。
パラカララは、かなり驚いているようだ。まさか炎系の魔法剣を使える人間が現れるとは思わなかったのだろう。
そこで俺は、ヤツに尋ねてみた。
「なあ、おい。最後に一つだけ訊いておきたいんだが……」
「……なんだい?」
「エムス村という村を知っているか? 随分昔に、あんたの師匠が滅ぼした村なんだが……」
「エムス村? ああ、あそこか。聖剣を守護する者達の隠れ里だとかで、目障りだから潰しておくと、我が主が言っていたな」
「あんたもいたのか?」
「ああ、確か、ボクも参加したよ。村人を始末しながら聖剣を探したんだけど、結局、見付からなかったな」
「見付かるわけないさ。あの村には聖剣なんてなかったんだからな。大昔に聖剣はよその土地に移したって話だ」
「なんだ、そうだったのかい? それじゃ、村人には気の毒な事をしたね」
そう、要はただの勘違いで、魔女は俺の故郷を滅ぼしたんだ。
村は焼き払われ、住民は皆殺しにされた。
ただ一人、魔女の気まぐれで生かされた子供……この俺を除いて。
そして、魔女の弟子であるコイツも、あの時、あの場所にいたんだな。
なら、やっぱり生かしておくわけにはいかないな……。
やるなら今しかない。アーシェが作ってくれたチャンス、有効に活用させてもらう。
「ミリオム! 頼むぜ!」
「おう! しっかりやれ!」
はるか後方で既に準備を整えていたミリオムが、杖を振るい、魔法を発動させる。
俺の真下に魔法陣が出現し、怪しい光が俺の全身を包み込む。
先程、ミリオムから受けた説明は、こうだ。
『――この世界とは異なる道を歩んだ世界があると仮定して、その世界に存在する自分自身と同調するのじゃ。具体的に言うと、呪いを受けなかった世界と呪いを受けた世界、二つの世界に存在するおぬしを同調させ、その身体を入れ替える』
『呪いを受けなかった世界の俺と身体を入れ替えるだと? そんな無茶な真似ができるのか?』
『時空魔法を得意とするワシなら可能じゃ。ただし、これは禁呪中の禁呪。入れ替えていられるのは、せいぜい一〇秒程度じゃろうな』
『たったの一〇秒か……』
正直、十分だとは言えない時間だが……一か八か、賭けてみるしかない。
『呪詛の魔女』の呪いを受けなかった世界の俺と、今の俺とを同調させて、身体を入れ替える。
つまり、本来の姿に戻れるわけだ。『魔剣帝』の姿に。
「時空魔法、ワールド・リンク!」
「くっ……!」
一瞬、意識が飛んでしまいそうになり、どうにかこらえる。
気が付けば俺は、目線の位置がかなり高くなっていた。
自分の手を見て、それが子供のものではなく、大人の手である事を確認し、拳をギュッと握り締める。
どうやら成功したらしいな。だが、喜んでいる時間はない。
制限時間はたったの一〇秒。一気に仕掛けるしかない。
「ば、馬鹿な、その姿は……! き、君は魔剣帝の弟子ではなかったのか!?」
パラカララはそれまでの余裕が吹き飛び、動揺しまくっていた。
無理もないか。いきなり目の前に、師匠の仇が現れたんだから。
長い方の長剣を抜こうとしたところ、パラカララは顔色を変え、悲鳴に近い声を上げた。
「く、来るな! ボクのそばに寄るなあ!」
パラカララが杖を振るい、氷の波が幾重にも連なって襲い掛かってくる。
俺は凍り付いた地面を踏みしめ、前へと出て、剣を振るった。
この長い方の剣は、破壊の魔剣、ブロードザンバー。魔力を込めれば込めるほど威力を増す、広範囲攻撃用の魔剣だ。
俺の魔力を吸収した魔剣は、柄に刀身、鞘までもが丸ごと大型化し、本来のサイズに戻っていた。
魔力を帯びた極厚の刀身を叩き付けるようにして、氷の波を横薙ぎに斬り払い、一撃で消し飛ばす。
「ぼ、防御魔法全開! 魔力増幅最大、身体能力強化! 魔法障壁展開!」
俺が踏み込むと、パラカララは杖に全魔力を集中させ、剣を受け止める構えを見せた。
……そういや、さっきは接近戦で打ち負けたっけな。
『本物』の俺の打ち込み、受けられるものなら受けてみろ……!
「っしゃあああああ!」
右手に握り締めた魔剣に魔力を込め、大上段から叩き付けるようにして、剣を振るう。
刀身から魔力の刃がグン、と伸びて、間合いの外にいる標的へ向かう。
ヤツの黄金眼は魔力剣の剣筋を見切る事ができる。
だが、見切ったところで防ぎようのない威力の斬撃なら――。
ザン、と。
魔法障壁をすべて破壊し、パラカララの杖を両断、魔力の刃がヤツの身体を上から下へと貫き、衝撃波が後方へ突き抜けていく。
そこでガクン、と身体の力が抜け、大型化した剣を支えていられなくなり、俺は膝をついた。
丁度、一〇秒。時間切れか。
子供の姿に戻った俺は、大きく息を吐いた。
俺を見下ろし、黄金眼のパラカララは、驚きと恐怖の入り混じったような、複雑な表情をしていた。
「う、嘘だ……こんな事が……君が魔剣帝本人だったなんて……」
「悪いが、事実だ。言っとくが、こうなったのは、あんたの師匠の仕業なんだからな」
「師匠の? そ、そうか、我らが主の呪いを受けたのか……そうだと分かっていれば……」
「もっと、別の方法で攻めたか?」
「ああ。捕らえようなどとはせず、殺しにかかっていただろう」
「……」
「もしくは……余計な真似はせず、君には近付かなかったかもな……」
「……そうか」
額にある黄金眼が真っ二つに裂け、パラカララの身体は左右に分かれていった。
魔女の弟子が塵となって消えゆく様子を、俺はぼんやりと眺めたのだった。




