26.浴場
「うーん、イマイチ上手くいかなかったわ……」
実技訓練の授業終了後、アーシェは不満そうな顔をしていた。
「魔力の刃を飛ばせてたじゃないか。初めてであれだけできれば大したものだよ」
「そう? でも、あれじゃ実戦で使えないよね。もう少し飛ばせなくちゃ」
アーシェは魔力の刃を飛ばす事ができていたが、飛距離が今一つで、剣の間合いのわずかに外まで飛ばせる程度だった。
覚えたてであれなら十分すごいのに、本人は不満そうだな。さすが、才能のあるヤツは向上心が違う。
「ふう、汗かいちゃった。早く着替えなきゃ」
「!?」
訓練用に着用している無地のシャツの胸元を引っ張り、手でパタパタとあおぐアーシェに、ドキッとしてしまう。
俺が子供だからか、アーシェはなにかと無防備だ。おかげで目のやり場に困ってしまう事もしばしば。
今も、胸の谷間や、下着が見えているし。大人顔負けに育っていてすばらしいと思うが、もうちょっと隠すようにしてくれないと困るぞ。
「アロン君も汗かいたでしょ? 着替える前に、一緒にお風呂入らない?」
「なっ……なんだって……?」
設備の充実した学院だけあって、校内の各所には浴場もあったりする。
言うまでもなく、男女別になっているのだが……一緒に入らないかだと? そんな事が許されるのか?
「い、一緒にって……俺は一応、男なんだけど……」
「分かってるけど、君の年齢なら女湯に入っても大丈夫でしょ。お姉さんが洗ってあげるわよ」
「お、お姉さんが……洗ってあげる、だと……?」
おいおい、そんな台詞、生まれて初めて言われたぜ。
子供になるっていうのも、悪い事ばかりじゃないな……。
だが、駄目だ。本来の俺はとっくに成人している大人の男なんだぞ。
アーシェみたいな、可憐な美少女と一緒に入浴なんてそんな……夢のような話だが、ここは断固として拒否しなければ。
「ア、アーシェ。そういうのはその、よくないよ。たとえ子供でも俺は男なんだから、もっと警戒するようにだな……」
「ふふ、警戒ってなにを? もしかして、そういう知識も色々持っていたりするの?」
「い、いや、それはその……ま、まあ、ある程度は……」
「そんなに意識しなくてもいいってば。仲良しのお姉さんと一緒にお風呂に入る、ぐらいに考えてればいいのよ」
「で、でも……あっ、ちょっと! 引っ張らないでくれよ!」
「いいから、いいから」というアーシェに手を引かれ、俺は困ってしまった。
いいのか、このまま言いなりになって。後々、まずい事にならないか。
だがしかし、こんな機会は二度とないかもしれないしな……これも経験だと思って、付き合ってみるのもいいかも……。
「この時間は、ここの浴場が穴場なのよ。誰も使ってないの」
「ヘ、へえ……そうなんだ」
広大な学院の各所に浴場は設置されている。俺が連れてこられたのは高等部の校舎に隣接する浴場だった。
浴場はかなり広く、五〇人ぐらいは入れそうな広さだった。
脱衣所に入り、アーシェは浴室の方を見て、俺に告げた。
「誰もいないよ。私と二人きりなら恥ずかしくないでしょ?」
「い、いやー、どうだろ……」
戸惑う俺の前で、アーシェは汗で湿ったシャツをガバッとめくり上げて脱ぎ始めた。
反射的に背を向け、アーシェの方を見ないようにする。下着に包まれたでっかい胸のふくらみが見えてしまったが、なにも見えなかった事にしよう。
「どうしたの? ほら、アロン君も脱いで」
「は、はあ……」
チラッと見てみると、既にアーシェは訓練着を脱いでいて、下着姿みたいだった。
あれ? 下着にしては、なにか違うような……。
「あっ、これ、水着だよ。さすがに裸になるのは恥ずかしいから」
「なっ……なにぃ……!」
俺が下着だと思っていたのは水着だったのか。
道理でアーシェには余裕があったわけだ。すっかり騙されたぜ。
しかし、おかげで助かったとも言える。水着なら裸を見たわけじゃないから問題はないよな。犯罪者にならずに済んだぜ。
俺は水着なんて用意していないので、腰にタオルを巻いておいた。
浴場には誰もおらず、貸し切り状態だった。位置的な関係から、こちらの浴場は利用者が少ないらしい。
「それじゃ、お姉さんと背中の流しっこしようか?」
「い、いや、自分で洗うからいい……」
「遠慮しないで。隅々まできれいにしてあげるよ」
「す、隅々まで……?」
アーシェに迫られた俺は根負けしてしまい、背中を流してもらう事にした。
大人だったら色々とアレだが、今の俺は子供だ、問題ない。そう思い込む事にする。
「どう? 気持ちいい?」
「はあ……最高っすね……」
「ふふふ、変なの。洗い終わったら私の背中を流してね。洗いっこしようよ」
「あ、洗いっこだと……い、いいのかな、そんな事して……」
あとで高額の料金を請求されるんじゃないだろうな……などと馬鹿な事を考えてしまう。
ややあって、浴場と脱衣所を隔てた扉が、ガラッと開いた。
「むっ……誰もいないと思ったのに、先客か……」
入ってきたのは、小柄な少女、メルティだった。
スレンダーな肢体の正面にタオルを当てて隠している。
メルティは俺とアーシェの姿を確認し、ため息をついていた。
「アーシェさんとエロ少年か。知らない人じゃなくてよかった」
「い、いや、男の俺がいるんだけど。もっと驚けよ」
「君はまだ子供だから問題ないでしょう。同い年の男の子だったらボコボコにして叩き出してやるけど」
もっと騒ぐかと思ったのに、意外とメルティは冷静だった。
ただ、全く平気というわけではなく、タオルでしっかりガードして、見えたらまずい箇所を隠していたが。
「アーシェさんの身体を洗って喜んでいたのね。この年上好きのエロエロ少年め」
「ち、違うよ! 別に喜んでねーし!」
「じゃあ、私の背中も流してくれる?」
「えっ? な、なんでそうなるんだよ」
「アーシェさんの背中は流すのに、私のは嫌だというの? やはりより年上の方がいいのね」
「べ、別にそんなんじゃ……あーもう、分かったよ! 洗ってやればいいんだろ!」
メルティはうなずき、俺の前に座り、背中を向けた。
雪のように白い肌がまぶしく、ドキッとしてしまう。おまけに小さいが形の良いお尻が丸出しで、見てはいけないものを見てしまった気分になる。
「アロン」
「な、なんだよ?」
「優しくしてね」
「あ、ああ、分かった……」
慎重に丁寧に、俺はメルティの小さな背中を流したのだった。




