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25.魔力の刃

 教室に入ると、アーシェが派手に飾り付けられているのを見掛けた。

 頭に冠を載せ、首にいくつもの花輪を掛けられ、机の上には無数の花束が。


「なんだかめでたいな。一人お祭り状態か?」

「あのね。誰のせいだと思ってるのよ」


 アーシェにジロッとにらまれ、首をひねる。


「俺のせいみたいな言い方だな。なにかしたっけ?」


 するとアーシェは、他の生徒に聞こえないよう、声を潜めて呟いた。


「騎士団の人達がバーサーカーにされた一件、私が解決した事にしちゃったでしょう? おかげで学院の救世主みたいな扱いをされてるのよ。みんなで面白がってるみたいだし」

「すごいな。学年トップから一気に学院のトップまで上り詰めたわけか。おめでとう!」

「めでたくないわよ! あれは全部アロン君が……」

「しっ」


 黙るように合図すると、アーシェは渋々と口を閉ざした。

 俺とアーシェのやり取りを見ていたメルティが、ボソッと呟く。


「詳しい事情は聞かなくても大体分かるわ。アロンとアーシェさんの役割を入れ替えて公表したというところかしら?」

「さあ、どうだろうな。詮索はなしにしてくれ」

「……正しい選択かもね。君の能力は優秀とかそういうレベルを超えている。あまり公にしない方がいいと思う」

「さすが、賢いなメルティは。察しがよくて助かるぜ」

「大人が子供をほめるような言い方はやめて。年下のくせに」


 メルティは真実を言いふらしたりはしないだろうから安心だな。

 アーシェは困っているみたいだが、我慢してもらおう。


 いずれ近いうちに、敵は次の手を打ってくるはず。

 今度こそ、黒幕の魔道士を突き止めてやる。居場所や人相が分かりさえすれば、対処のしようはあるはずだ。



 実技の授業中。屋外にある訓練場にて。

 今日も俺は、アーシェと組んでいた。訓練用の衣服に着替え、木剣を持って対峙する。


「てやあ!」

「おっと」


 アーシェの打ち込みを、左手で持った木剣で受ける。

 彼女は本当に優秀だ。このまま順調に腕を上げていけば、王国騎士団に入団できるだろう。

 才能があるという事もあるが、本人の努力によるものだろうな。よく鍛錬を積んでいるのが、動きで分かる。


「いい腕だ。さすがは学院の救世主」

「もう! からかわないでよね。君の方が明らかに剣の腕は上なのに……」

「俺は色々と経験を積んでいるから。そのうち追い付くさ」

「私より五つも年下なのに……どんな経験を積んだらそこまで強くなれるのよ?」


 俺はアーシェの倍以上生きているからな。何度も死にそうな目にあっているし、死線を潜り抜けてきた分だけ、人よりも腕が立つのは当然の結果だ。

 『魔剣帝』の呼び名は伊達じゃないんだ。子供にされて弱体化したとはいえ、そこらの騎士には負けないつもりだ。


「よーし、こうなったら……マヨネラお姉さまの得意技、雷鳴斬を真似してみるわ!」

「あの技を使えるのか?」

「まだ修得できていないけどね……練習台になってもらうわよ!」


 さすがは姉妹弟子、マヨネラと同じ技を使えるのか。

 せっかくの実技訓練なんだし、練習をしたいっていうのなら、付き合ってやるか。


「行くわよ、アロン君!」

「お、おう! 来い!」


 アーシェは両手で剣を構え、魔力を高め、全身にまとった。

 前傾姿勢になり、そこから一気に加速、地面の上を滑るようにして、突進してくる。

 おお、すごいスピードだ。やるな、アーシェ。


「でやあ!」


 超加速状態で剣を振るい、魔力剣がうなりを上げ、斬撃が稲妻の軌道を描く。

 俺は剣の軌道を見極め、魔力を木剣に集中、魔力剣に変化させた。

 アーシェが放った斬撃を弾き、彼女の木剣を叩き折る。

 加速状態だったアーシェが動きを止め、俺はニヤッと笑って彼女に告げた。


「うん。まあ、こんなもんかな?」

「ちょっと! 私の渾身の一撃をあっさり防がないでよ! これはいけると思ったのに!」

「いや、悪くないよ。そこらの剣士が相手なら、余裕で勝てるだろうし。もっと速度と威力を上げた方がいいんじゃないか?」

「くっ……! 簡単に言ってくれちゃって……」


 悔しそうなアーシェに苦笑し、提案してみる。


「じゃあ、俺がやってみせようか? 完全に同じとはいかないだろうけど、似たような技なら使えると思うし」

「二回見ただけで使えるっていうの? 面白いじゃない」


 アーシェが木剣を新しい物に取り替え、俺から距離を取って構える。

 俺は木剣を右手で握り締め、剣先を真横に向けて構えた。

 えーと、ここから、魔力を高めて加速移動、加速状態から剣を振るう、でいいんだよな。

 俺も似たような技を使えるし、マヨネラの技を真似するぐらいなら、いけるはずだ。


「んじゃ、行くぜ」

「ええ。どうぞ」


 魔力を高めて地を蹴り、一気に間合いを詰める。

 アーシェに接近するのと同時に魔力剣を振るい、斬撃を放つ。


「っと」


 なぜかアーシェは剣を構えたまま動かなかったので、慌てて剣の軌道を変えて、彼女に当たらないように避けておく。

 アーシェの傍らをすり抜け、急停止。魔力を解除する。


「……こんな感じでどうかな?」

「えっ? あー、うん。い、いいんじゃないかな……」

「そう言えば稲妻の軌道を忘れてた。これじゃ雷鳴斬にならないよな」


 失敗失敗、などと言って笑っていると、アーシェが叫んだ。


「ていうか、速すぎぃ! なに今の、どうなってるの? お姉さまより速いんじゃ……」

「いや? たぶん、マヨネラ……さんよりは遅いと思うよ」


 いかん、やりすぎたか。どうやら速すぎてアーシェは反応できなかったらしい。

 今の俺は、身体を子供にされたせいでリーチが短く、魔力によるパワーとスピードの増幅も、身体が壊れないように加減しなければならない。

 本気を出せるのは一瞬、刹那の時間だ。それですら、本来の俺の力と比較すると、かなり弱いのだが。

 その程度のレベルでも、まだアーシェには早かったか。彼女ならいずれ、今の俺ぐらい余裕で追い越せると思うのだが。


「年上として負けてられないわ! 絶対、追い付いてやるんだから!」

「その意気だ。……そうだ、俺が知ってる技を一つ、教えてやろうか?」

「それって、まさか……『魔剣帝』の技?」

「ん? まあ、そうかな……」


 するとアーシェはパアア、と表情を明るくして、なんだかモジモジしながら俺に告げた。


「い、いいの? 門外不出の、超絶奥義だったりするんじゃ……」

「そんなんじゃないって。実戦向けの、簡単な技だよ」

「そ、それじゃよろしくお願いします!」


 妙にかしこまっているアーシェに苦笑する。

 アーシェだって、結構とんでもないヤツの弟子なんだろうに、『魔剣帝』の称号になにか思うところでもあるのかな。


「魔力剣は使えるんだよな。だったら知っているのかもしれないが……魔力による斬撃は飛ばす事ができるんだ。近距離攻撃しかできない剣士の欠点をカバーする事ができる」

「聞いた事はあるけど。風系統の魔法を剣に宿らせる魔法剣とは違うの?」

「魔法剣とは違う。この技は魔法が使えなくても使えるんだ。えーと、なにか適当な標的は……」


 周囲を見回すと、訓練場の片隅で、魔法の訓練を行っている連中が目に入った。

 魔法を撃っている標的を見て、アーシェを手招きして魔法使い達に近付く。

 当然ながら魔法使いの中にはメルティがいて、ヘラヘラ笑いながら近づいてきた俺の事を怪訝そうに見ていた。


「ちょっと的を一つ使わせてくれないか?」

「いいけど……なにするのよ」

「まあ、見てなって。割と面白い技だと思うぜ」


 メルティと入れ替わり、横並びになっている魔法使いの列に加えてもらう。

 剣を構え、離れた位置にある、丸い的をにらむ。

 普通なら、剣士にはどうしようもない距離だ。ナイフを投げるぐらいしか攻撃の方法はない。

 だが、この技を使えば……剣士でも遠距離攻撃が可能だ。


「んじゃ、よく見ていてくれよ……!」


 魔力を高め、木剣に集中、魔力剣に変化させる。

 さらに魔力を上乗せして、魔力の刃を倍ぐらいの厚みにする。

 的をにらみ、剣を振るい、剣にまとわせた魔力の刃のみを飛ばす。

 三日月形の青白い刃がゴオッと飛んでいき、的に命中、ズバンと斜めにカットする。


「とまあ、こんな感じかな?」


 アーシェもメルティも目を丸くしていた。他の魔法使い達もすげえ驚いた顔をしている。

 なんだ、みんな見るのは初めてなのか? 魔力剣が使えるレベルの剣士なら、修得しているヤツはそれなりにいると思うんだが。


「す、すごいのね。金属製の的が切れちゃうんだ……」

「そこそこ強力な魔法を受けても傷一つ付かない素材で作られているのに……どれだけ研ぎ澄まされた魔力を放っているのよ……」


 あれ? もしかして、またやりすぎたのか?

 本来の俺ならもっと高威力のヤツを放てるから、このぐらいなら問題ないと思ったんだが……まずかったか。


「さ、さあ、アーシェもやってみろよ。覚えておいて損はないと思うぜ」

「うん、そうね。試してみようかな」


 剣を構え、素振りを始めたアーシェを眺めていると、メルティがススッと寄ってきて、肘で小突いてきた。


「また妙な技を……一体どれだけの能力を隠しているのよ。底が見えなくて怖いわ」

「いや、そんなに大した事ないって。今の俺は、未熟もいいところだから……技の知識だけはあるから、あれこれ工夫してるだけだよ」

「私も知識だけなら大人の魔法使いにも引けを取らないつもりだけど……でも、君とはなにかが根本的に違う気がするのよね……」

「そ、そんな事ないさ。たぶん似たようなもんだよ」


 メルティにジッと見つめられ、冷や汗をかく。

 この子は本当に鋭い。俺の正体についても薄々勘付いているんじゃないかと思うぐらいだ。


「そう言えば、例の大人になる魔法……あれって、呪文さえ覚えれば魔法使いじゃなくても使えるのかな?」

「あれはかなり特殊な魔法だから。魔法の素質がない者には無理よ。どうしてそんな事を訊くの?」

「いや、一時的でも大人になれるんならなりたいと思ってさ」


 するとメルティは、クスッと笑った。


「早く大きくなりたいのね。そういうところは子供っぽくてかわいいわね」

「そんなんじゃ……おい、幼子を見るような目で見るなよ!」

「ふふふ、かわいい」

「笑うなってば!」


 ここぞとばかりに、年上っぽい態度を取るメルティに、ギリギリと歯噛みする。

 くそ、今に見てろよ。呪いを解いて、本来の姿に戻ったら、子供扱いしまくってやるからな。

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