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24.学院の警備

 雨が上がり、事件は一応の解決を見た。

 スライムに取り憑かれていた騎士団の連中は、全員無事だった。

 全員、異様に疲弊していて、しばらくは休養が必要らしかったが。


 バーサーカー化した騎士団の連中を取り押さえたのは、アーシェという事にしておいた。俺は彼女のアシスト役だ。

 そうでもしないとまた悪目立ちしてしまうからな。アーシェは嫌がっていたが、俺が頼み込むと渋々引き受けてくれた。


 犯人は、学院の生徒を狙う邪悪な魔道士の使い魔、という事で解決したが、実際のところは何も解決していない。

 使い魔は所詮使い魔、何匹倒したところで状況は変わらない。

 黒幕の魔道士を……黄金眼のパラカララとかいうヤツをなんとかしないとな。



 事件の翌日。

 学院の警備は強化され、王国騎士団の連中だけではなく、魔道士ギルドからも何人かの魔道士が派遣されていた。

 なんだか物々しいな。俺が学院に近付かないようにすれば、警備は必要ないんじゃないかと思うんだが。


「休んじゃダメよぉ? 学生はちゃんとお勉強しなくちゃねー?」

「!?」


 校門を抜けた先、校舎へ向かう通路の途中で、見知った顔の魔道士を見掛け、俺は目を丸くした。

 とんがり帽子にローブという、魔法使い装束でたたずんでいたのは、魔法具販売店の店主、アナだった。


「馬鹿な。なぜ、酔っ払いがこんな健全な場所に?」

「こらこらこら! 人の事を不健全の代表みたいに言わないでよねー?」

「いや、マジで、なぜここにいる? 騎士団に通報するぞ?」

「不審者扱いしないでよー。ギルドから協力の要請があったから来てあげたの。私も警備の一人ってわけよ」


 ああ、そうか。コイツも一応、魔道士ギルドに所属してるんだっけ。

 この女は非常に優秀な魔道士だ。それは認める。だが、素行に問題がありすぎる。

 青少年達が集う神聖な学び舎に、こんなのを迎え入れてもいいのだろうか?


「ところで、初等部の校舎はどこ? そこを重点的に警備しようと思うんだけど……うへへへ」

「よだれをすするな! 警備に来たヤツが変質者って最悪じゃねーか!」

「失礼だなー。ちゃんと仕事はするってば。ねえ、抱っこしてもいい?」

「いいわけあるか! 寄るな、酒臭い!」

「うへへへ」


 抱き付いてこようとするアナから逃れようとしていると、そこへクラスメイトの少女が通りかかった。

 メルティは俺とアナをジッと見つめ、怪訝そうに首をかしげていた。


「年上好きのエロ少年が、年上の魔法使いに迫られて困っている……どういう状況なの?」

「見たまんまだよ! 助けてくれ!」


 アナから離れ、メルティの陰に隠れる。


「あれ? あなたは、魔法具店の店主さん……?」

「うふふ、毎度どうも。あなたもここの生徒だったんだね。しかもアロン君の知り合い?」

「クラスメイトです」

「ふーん」


 アナは俺とメルティをジロジロと眺め、なぜか愉快そうに笑っていた。


「これはこれでなかなか……ショタおじさんと年上ロリ……ジャンル的にはおねショタ?」

「えっ?」

「なんの話だよ、バカ! なにも知らない少女に汚れた情報を吹き込むな!」

「こら。大人の女性にバカはないでしょう? 失礼よ」

「いいんだよ、マジでバカなんだから。ああいう大人には近付いちゃダメだ。悪い影響しか受けないからな」


 よく分からないのか、メルティは不思議そうに首をひねっていた。

 ここは俺がこの子を守らないと。アナの卑猥な話なんか聞かせちゃダメだ。


「アロン君、アロン君。もしかして趣味が変わった? ロリ好きに目覚めたとか」

「ちっっっげえよ! 人を勝手にロリコンにするな!」

「あの……私の方が年上なのに、どうしてロリ扱いされるの? ちょっとむかつく……」


 そこでアナはニヤリと笑い、メルティに告げた。


「いい事を教えてあげましょうか。そこにいるアロン君は、外見はお子様だけど、中身は……」

「やめろバカ! 余計な事を言うな!」

「どういう事? 外見は子供だけど、中身は違うの?」


 メルティに核心を突かれ、嫌な汗がドッと噴き出してくる。

 ヤバイぞ。俺の正体がバレたら、何を言われるか……それこそ変質者扱いされるかも……。


「中身は、結構大人だったりするのよ! エロい知識とか大人顔負けに持ってるから、気を付けてね!」

「それは知っています。やっぱりエロ少年なのね……」


 メルティから呆れ返った顔で見つめられ、引きつってしまう。

 まあ、正体をバラされなかったのは助かったが……アナがウインクなんかしてやがるのがむかつく。


「メルティ、もう行こう。あんな酒と結婚したような、ショタ好きおばさんと会話しちゃダメだ。脳が腐る」

「あー、ひどーい! 私はこんなにアロン君の事を愛してるのにぃ!」

「店主さんはああ言っているけど」

「嘘に決まってるだろ。あの酔っぱらいは酒しか愛せないんだ。少年を性欲の対象として見てやがるし、犯罪者の一歩手前だよ」

「そんな事ないのにぃ。アロン君になら、抱かれてもいいかなって……」

「子供相手になに言ってるんだ!? 学院内で妙な真似しやがったら、騎士団に通報する前に俺が成敗してやるからな!」


 不服そうに頬をふくらませたアナをギロッとにらみ、俺はメルティと共にその場を後にした。

 まったく、あの馬鹿が……美人で性格も悪くないのに男が寄り付かないのは、妙な性癖を隠そうともしないからだよな。やれやれだぜ。


「君には変わった知り合いがいるのね」

「まあな。悪いヤツじゃないんだが、馬鹿なのがどうしようもないんだよな……」

「でも、すごい美人じゃないの。彼女の趣味を利用して、甘えたりしないの?」

「するか! 俺はああいうタイプが苦手なんだよ。もっとこう、清楚可憐な方が……」


 思わず自分の好みを口にしてしまい、慌てて口を押える。

 メルティは納得したようにうなずき、真面目な顔で呟いた。


「清楚可憐か。さては、私の事が好きなのね? このおませさん」

「は、はあ? なに言ってるんだ。んなわけないだろ」

「それはどういう意味? 私は清楚でも可憐でもないと言いたいの?」

「い、いや、そういうわけじゃ……」


 真横からすごい目でにらまれ、冷や汗をかく。

 こ、こええ……なにもそこまで怒らなくても……二、三人殺ってそうな目だな……。


「メルティはほら、ロリかわいいっていうか……ジャンルが違う、みたいな?」

「またロリ扱いして。私の方が年上で背も高いのにおかしいでしょう? 君から見たら相当大人のはずよ」

「いやー、そう言われても……」


 俺が本当に一〇歳だったとしたら、三つ上のメルティは大人に見えたのかもしれない。

 でも、実際は俺の方が数十歳年上だしな。目線の高さが子供のそれになっても、そうそう見る目が変わるものでもないし。


「ほら、見てみなさい。あそこに初等部の女の子達がいるでしょう? 本来なら君とは同級生になっていたはずの子達よ」

「おー、なるほど……めっちゃ子供だな……」

「でしょう? あの子達と比べてみれば、私の方がはるかに大人なのが分かるでしょ」


 確かに、メルティの方が年上なのは分かる。分かるが……。


「あっちは小さなロリ達で、こっちは大きなロリ、かな……」

「だから! 私をロリ扱いするのはやめなさいってば! 本気で怒るわよ!」


 もう怒ってるじゃないか。ここは嘘でも大人扱いしておいた方がいいのか?

 メルティはロリだけどクールだよな。ロリクール……とか言ったら怒るかな。


 そこで初等部の子達の一人がテテテと駆け寄ってきた。

 栗色の髪を長めのショートにした、大きな青い瞳が印象的な子だ。

 スカートではなく短パンをはいているが……男なのか?


「ねえねえ、君ってさ、アロン君だよねー? アロン・エムス君」

「そうだけど。俺になにか用か?」

「やっぱり! 君って有名人なんだよ! 飛び級で高等部に入っていたり、高等部の人を負かしたり……王国騎士団の騎士にも勝ったんだって?」

「い、いや、それは……俺は援護をしただけで、騎士を倒したのは別の人なんだ」

「それでもすごいよ! みんな、君みたいになりたいなって、話してたんだよ!」


 この子の友達なのか、さっきの女子集団がこちらを見て、微笑んでいる。

 みんなかわいらしいな。ほめられて悪い気はしないが……ちょっと照れ臭い。


「ボクはハイラっていうんだ! よかったら今度、剣術を教えてくれないかな?」

「あー、まあ……時間があったら」

「約束だよ? それじゃまたね、アロン君!」


 ハイラと名乗った男か女か分からない子は、笑顔で手を振り、初等部女子の集団の所へ戻っていった。

 なんだか変わったヤツだな。悪い人間じゃなさそうだが……。


「こら、アロン。だらしないわよ。ちょっとほめられたからってヘラヘラしないで」

「別にヘラヘラなんてしてないだろ。つか、呼び捨てにするなよな」

「君は私を呼び捨てにするじゃないの。なら、私が呼び捨てにするのは当然でしょ」

「それは……そうだけどさ」


 実年齢では、俺はメルティの数倍生きてるんだが。

 ロリッ子に呼び捨てにされるっていうのはどうなんだろ。

 実年齢と言えば、今現在の俺は初等部の連中と同年齢の子供なわけで……同い年の連中とも交流を持った方がいいのか?

 本来の俺は、誰とも組まない一匹狼なんだけどな。別に孤独を好むってわけじゃないんだが……他人と絡むと、色々と問題が出てくるからな。

 特に、組んだ人間に死なれたりすると、責任やらなんやら、伸し掛かってくる重圧が半端ない。

 だから俺は、単独行動を好むんだ。日常生活においては、馬鹿なやつらと馬鹿騒ぎしたりするのも嫌いじゃないんだが。


「さっきの子、気を付けた方がいいと思う」

「えっ? なんでだよ。悪い子じゃなさそうだったぞ」

「いい子に見えたけど、なにかが引っ掛かるのよ。前に、どこかで会ったような……」


 難しい顔をしてうなるメルティに、俺は首をひねった。

 誰かと間違えてるんじゃないのか? しかし、メルティは妙に鋭いところがあるからな。忠告は頭の隅に留めておくとしよう。

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