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23.使い魔

「これで騎士団全員を片付けたわけか。最後はさすがにヤバかったな……」

「でも、すごいよ、アロン君。お姉さまの得意技を破ったのって、君が初めてじゃないかな?」

「アーシェが協力してくれたからだよ。俺一人じゃ無理だった」


 折られて長さが半分ぐらいになった剣を見つめ、ため息をつく。

 この俺が剣を折られてしまうとは……。弱体化したとはいえ、魔剣帝の名が泣くぜ。

 それだけバーサーカー化したマヨネラがヤバイ相手だったとも言えるが。

 アーシェが手を貸してくれなかったらどうなっていたか……。


 気絶したマヨネラから剣を取り上げ、後ろ手に縛り上げておく。

 意識を取り戻した時、また暴れ出したら面倒だからな。

 バーサーカー状態が完全に解除できたと確認するまでは油断できない。

 他の騎士達も同じように縛り上げて、校舎の各所に転がしてある。

 騎士団本部に連絡して、回収してもらうか。


「ア、アロン君、お姉さまが!」

「!?」


 見るとマヨネラがガクガクと痙攣し、口を大きく開いて、なにかを吐き出していた。

 それは、透明のグネグネした物体だった。水に近いが、かなりの粘度があるようだ。

 謎の透明物体は、床の上に落ちると、人間の上半身みたいな形になって起き上がり、丸い頭部に口を開き、声を発した。


「ウケケケケ! よくもやってくれたなあ! 騎士どもを操って、標的を拉致する予定がぶち壊しだぜえ!」


 コイツが取り憑いて、騎士団の連中を操っていたのか?

 スライムみたいなヤツだな。なるほど、雨に紛れて人に取り憑くのには最適ってわけだ。


「お前の標的っていうのは誰だ?」

「白髪の、やたらと腕の立つ、ちっこいガキさあ! それらしいヤツを見付けたら片っ端から捕まえろって……」


 そこでスライムは、腕の先に指を生やして俺に突きつけ、叫んだ。


「白髪の! やたらと腕の立つ! ちっこいガキ! お前が標的だったのかよ!?」

「気付いてなかったのか。使い魔っていうのは、あまり頭がよくないみたいだな」


 最初に遭遇した細いヤツは、割と知能が高そうだったんだが。

 前回の魔道人形もこのスライムも、幼児程度の知能しかなさそうだ。


「むっ、お前、俺を馬鹿にしてるな? 言っとくが、俺はまだ負けてねえんだからな!」

「ほう。騎士達から離れたお前になにができるっていうんだ?」

「たとえば……こうだ!」

「1?」


 スライムが腕を鞭のようにしならせ、俺に向けて細く長く伸ばしてくる。

 俺は折れた剣を振るい、飛来したスライムの触手を斬り、四散させた。


「で?」

「あれえ!? 俺の身体を剣で斬れるわけが……も、もう一回だ!」


 再びスライムが触手を伸ばしてきたが、俺は剣を振るい、先程同様に四散させた。


「な、なんでだ! なんで斬れるんだよ! インチキだ!」

「俺はお前の身体を斬る事ができる、ただそれだけだ。事実を受け止めろよ」


 スライム系の魔物は、物理攻撃に耐性がある。普通に剣で斬っても斬れるものじゃない。

 しかし、剣に魔力を宿らせた魔力剣なら話は別だ。

 俺の魔力剣は魔法だって斬る事ができる。スライムぐらい斬るのはわけもない。


「ふっ……勝った、と思ったろ? だが残念、勝つのは俺様なのでした!」

「どういう意味だ?」

「俺は身体を分裂させて、他の騎士にも取り憑いていた! その分裂していた分を、呼び寄せていたのさ! 元の一つに戻るためになあ!」

「!?」


 ふと見ると、床の上を透明の物体が這ってきて、スライムにくっつき、一体化していた。

 俺より小さかったスライムがグングン肥大化していき、見上げなければならないぐらい大きくなる。

 巨大化したスライムは人型となって俺を見下ろし、愉快そうに笑った。


「どうだ、この野郎! これだけでっかくなった俺様に勝てるかな? 無理だろ! ギャハハハハ!」

「……」


 確かにでかいな。身長は俺の三倍ぐらいありそうだ。

 だからどうした、って話だが。


「おりゃっ」


 魔力を剣に集中、魔力剣を作り出し、横薙ぎに斬りつける。

 ザン、とスライムの巨体を両断してやり、上半身が床に落ちる。

 身体の三分の一ぐらいが蒸発してしまい、スライムは苦しんでいた。


「ギャアアアア! いてえ、いてえよぉおおおおおおお! 普通に斬るなよ、コンチクショー!」

「……お前には色々と言いたい事がある。騎士団の連中を利用するとはふざけやがって、とか、無関係の生徒達を襲おうとするとは許せない、とか……」

「あ、あれ? もしかしてお前、怒ってる……?」

「ああ、かなりな。てめえをぶっ殺すのは確定事項だが、一応、訊いておく。てめえを送り込んだのはどこの誰で、今現在どこにいる?」

「けっ、誰が言うか! 使い魔ナメんなよ! 主の情報は、口が裂けても言わねえ!」

「そうか。じゃあ、死ね」


 魔力剣を振るい、スライムの身体を適当に斬って消し飛ばす。

 スライムは悲鳴を上げ、俺に抗議してきた。


「いてえだろうがよぉ! もうちょっと交渉とかしろよぉ! 口の堅い俺もなにかしゃべるかもしれねえぞ!」

「面倒だし。次の一撃でとどめだ」

「ま、待て待て! 少しだけ情報を教えてやってもいいぜ!」


 俺が剣を振りかぶった状態で動きを止めると、スライムは語り出した。


「うちの主はおっかねえ御方でな……任務に失敗して手ぶらで戻ったりしたら俺は消されるだろうよ。血も涙もない、冷酷な魔道士さ……」

「そいつが黄金眼ゴールデンアイとかいうヤツか?」

「なんでその名を知ってるんだ!? 色々とヒントを出して予想させようと思ったのによぉ!」

「情報というのはそれだけか。じゃあ、もういいな」

「ま、待て待て! とっておきの情報があるぜ!」


 スライムが慌てふためいて叫び、再び俺は動きを止めた。


「主はなあ……すぐ近くまで来てるぜ。お前を観察するためにな」

「近くだと? どこだ?」

「それは……あっ、お前の後ろにいるぜ!」

「なにっ!?」


 背後を確認したが、誰もいない。

 そこでスライムが叫んだ。


「引っ掛かったなアホが! 死ねえ!」


 スライムが内側から弾けるようにして広がり、俺の身体を飲み込もうとする。

 俺はその場でグルンと回転し、魔力剣でスライムを薙ぎ払った。


「ギャアアアアア! 馬鹿な、完璧な不意打ちだったのにぃ!」

「どこがだ。見え見えなんだよ、アホが」

「悔しいぃいいいいいい!」


 残ったスライムの身体も適当に切り刻み、蒸発させる。

 飴細工が溶けていくようにして消滅していきながら、スライムが声を発した。


「俺の負けだ……でもな、教えといてやる……俺は嘘は言ってねえ……主は、すぐ近くまで来てるぜ……」

「……」


 念のため、周囲の気配を探ってみたが、それらしいものは捕捉できなかった。

 仮に、本当に近くまで来ているとして、そう簡単に姿は見せないだろうな。

 見せるとしたら、確実に仕留められると確信した時か。

 俺を殺すつもりなのか、単に捕まえるだけのつもりなのかは分からないが。

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