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20.雨に打たれて

 四時限目、屋外訓練場にて、実技訓練の時間。クララ先生は会議があるとかで不在だった。

 俺はアーシェを相手に、剣術の訓練を行っていた。

 不意に、空が曇り、ポツポツと雨が降ってきた。


「……雨か」


 やがて本格的に降ってきて、あっと言う間にずぶ濡れになってしまう。

 生徒達は校舎の方へと退避していき、俺とアーシェも皆の後に続く。

 屋根がある場所に入り、外の様子をうかがう。


「今日の訓練は中止だな」

「そうね。ほら、早く拭いて。風邪引くわよ」


 アーシェからタオルを手渡され、濡れた顔を拭く。

 見ると、アーシェもずぶ濡れだった。金色の長い髪が水分を吸って身体にまとわりついている。

 訓練時に着ている無地のシャツが肌に張り付いていて、大きな胸のふくらみが浮き出ている。

 下着が透けているのを見てしまい、思わず赤面してしまう。

 俺が子供だからか、隠そうともしないな。ここは男として注意するべきか? それとも見て見ぬふりを……。


「こら!」

「あいてっ!」


 何者かに頭をゴン、と叩かれ、目の前を火花が散った。

 打たれた頭を押さえながら目を向けると、いつの間に現れたのか、メルティが立っていて、その手には棍棒を持っていた。


「メ、メルティ? なにするんだ……」

「アーシェさんの濡れ透け下着を凝視していたでしょう? このエロガキ!」

「ち、ちが……」


 確かに見ていたが、たまたま目に入っただけだぞ。俺は無実だ。

 見ると、メルティもずぶ濡れだった。無地のシャツが張り付いて、なだらかな胸のふくらみが浮き出ている。

 シャツが透けて、なにやら下着らしきものが見えているような……?


「こら! どこを見ているの!」

「あいた!」


 棍棒で頭を叩かれ、涙目になる。

 いや、マジで痛いぞ! 頭が割れたらどうするんだ?


「いやらしいわね。子供のくせに……」

「目の前にあったから見ただけだ! なんでそんなあるかないか分からない胸に下着なんか着けてるんだ?」

「し、失礼ね! この野郎、歯を食いしばれ!」


 メルティが目を吊り上げて怒り、棍棒を振り回す。

 俺が慌てて棍棒を避けると、空振りをしたメルティは足を滑らせ、俺に倒れ掛かってきた。


「きゃっ!」

「うわっ」


 俺が下、メルティが上になる形で、もつれ合うようにして倒れてしまう。

 メルティの胸のあたりが顔に被さってきて、俺は息が詰まりそうになった。


「あいたたた……ごめん、大丈夫?」


 メルティが身を起こし、俺の顔をのぞき込んでくる。

 俺は目を泳がせつつ、ボソッと呟いた。


「すまん、俺が間違っていた。謝るよ」

「なんの話?」

「意外と胸があるんだな。驚いたよ」

「なっ……!」


 メルティは慌てて両腕を交差させて胸を隠し、真っ赤になって俺をにらんだ。

 ああ、これは駄目だな。殴られる流れだ……。


「こ、この……エッチぃ!」

「おぐう!」


 バチーン、と平手打ちを受け、俺の首がグリンと真横を向く。

 非力な魔法使いのくせに、いい一撃だな。危うく意識が飛ぶところだったぜ。


「あらあら。君達、本当に仲がいいのねー」


 濡れたシャツの裾を絞りながら、アーシェは苦笑していた。

 そうだな。俺もなんとなく、メルティとはどつき合いをするぐらいが正しい距離感のような気がしてきたぜ……。



 雨はやみそうになく、俺達生徒は制服に着替えて教室に戻り、自習時間となった。

 俺の隣にはメルティが来ていて、なぜか俺は彼女から説教を受けていた。


「まったく。もっと年上を敬いなさい。それと、女性には最低限の礼儀をもって接するように。分かった?」

「へいへい」


 年上のお姉さんっぽく振舞うメルティに苦笑しつつ、一応うなずいておく。

 本当は俺の方がはるかに年上なんだけどな……こんなロリロリした少女に説教されるなんて、知り合いに見られたら大笑いされそうだぜ。


「なあ、メルティ」

「なに?」

「上が縞々模様って事は、下も同じ柄なのか? ……って、痛い痛い! 無言でほっぺたをつねるなよ!」

「こ、このエロガキ……! どうしてそう、中年親父みたいなエロ発言がポンポン出てくるのよ。育ちが悪いにもほどがあるわ!」


 図星なのか、メルティは耳まで真っ赤になって怒っていた。

 出会ったばかりの頃は、もっとクールな子だと思ったんだがな。

 これだけ感情をあらわにするっていうのは、それだけ打ち解けたって事なのか。


「気が強い女は嫌いじゃないぜ?」

「なっ……と、年下のくせに生意気な口を利かないで……!」

「あと一五年ぐらいしたら付き合ってやってもいいかな。今の年齢じゃさすがに子供すぎるしさ」

「……私より年下のくせに! もう二度と生意気な台詞を吐けないように、その口を縫い付けてやるわ!」

「ひてててて!」


 口の両端に指を突っ込まれて左右に引っ張られ、俺は泣きそうになった。

 なにせ、平常時のこの身体は非力だからな。一三歳ぐらいの少女からあれこれされてもロクに抵抗できないんだから、参ってしまう。

 俺の右隣にはアーシェがいて、俺とメルティのやり取りを眺め、のんきに笑っていた。


「そうしてると姉弟みたいね。大人びてるアロン君が年相応にかわいく見えちゃうわ」

「こんな乱暴なロリッ子が姉なわけないだろ。最低でもクララ先生ぐらいの色気がないと」

「この年上好きめ! いい加減、私をロリ扱いするのはやめなさい!」


 メルティが俺の首に腕を絡ませて、グイグイと締めてくる。

 少し苦しいが、このぐらいなら余裕で耐えられる。それよりも問題なのは、真っ平らなようで意外とボリュームのある胸のふくらみが俺の顔にグイグイと押し当てられている事だ。

 こんなロリ少女でも胸があるのにびっくりだし、柔らかいのがフニュフニュ当たってきて困ってしまう。

 断じて俺はロリコンなんかじゃないんだが……なんだか越えてはいけないラインを越えてしまいそうだ。


「メ、メルティ、もうよせ。俺が悪かった……」

「むっ、なぜ笑っているの? さては全然効いていないのね。よし、もっと強く絞めて……」

「俺が悪かった! もうやめてくれ!」


 俺達年下組が揉めている様子を、アーシェは笑顔で眺めていた。

 小さい子同士で喧嘩したりして、微笑ましい……とか思われていそうだ。

 くそ、本当は俺の方が年上で大人なのに……ガキの姿じゃなにを言ってもさまにならないしな……。

 身体が子供になったせいで、周りの人間がみんな大きく見えるし。早く大人に戻りたいぜ。


「そう言えば、アロン君。いつも剣を二本持ち歩いているみたいだけど、短い方しか使わないよね」


 不意にアーシェがそんな事を言ってきた。

 よく見ているな。同じ剣士として、気になるわけか。

 通常、剣士は剣を一本しか装備しない。短剣やナイフを持っていたりはするが、それはあくまでも補助的なものだ。

 剣を二本装備しているヤツなんて、滅多にいない。二刀流の場合、短めの剣を二刀使うのが一般的だ。


 俺が剣を二本装備しているのは、状況に応じて使い分けるためだ。

 標準サイズより短めの長剣は、現在の体格に合わせたもの。振り回しやすさを重視している。

 長い方、通常サイズの長剣は、リーチの短さをカバーするためのものだ。

 今の俺が振り回すのにはやや長すぎるので、少し扱いにくい。長い分、威力は大きいが。


「今のところ、短い方だけでどうにかなってるから。長い方はまあ、緊急用の予備かな」

「そうなんだ。アロン君の事だから、実は二刀流なんじゃないかって疑ってたんだけど」


 今の俺に、二刀同時はキツいな。短めの剣二本ならギリギリ行けると思うが。


「私は、格好いいからだと思ってたけど。剣一本よりも二本装備していた方が格好いいとかそういう……」

「ははは、メルティはかわいい事言うなあ。格好付けるためだけに重たい剣をぶら下げてるわけないだろ?」

「大人ならそうかもしれないけど、君は子供だから。格好付けるのに命懸けてそう」

「子供言うな! 意外とおっぱいがあるからって生意気だぞ!」

「こ、このエロガキ! 泣くまでお尻を叩いてやるから後ろを向きなさい!」

「よ、よせ、やめろ! ズボンを脱がそうとするな!」


 などとのんきに学院生活を送っていた俺だが、実は既に、敵は次の手を打ってきていた。

 激しさを増す雨にまぎれて、ひっそりと。

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