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2.一〇歳の魔剣帝

 俺の名はアロン・エムス。推定一〇歳の、ナイスガイならぬナイスなチャイルドだ。

 今度、王都にある学院アカデミーに入学する事になったんで、よろしくな!


 ……まあ、そんなわけで。

 魔女の呪いについて知り合いの魔法使いや魔道士ギルドに訊いて回ったが、あまり有益な情報は得られなかった。

 呪いの類を解除するのに最も確実で手っ取り早いのは、呪いをかけた本人に解除してもらう事なんだそうだ。

 いや、そう言われても、呪いをかけたヤツは俺が斬っちまったしな。あの世にでも会いに行けっていうのか?


 これがそこらの低級悪魔や魔女の呪いなら、呪術に詳しい魔法使いや僧侶、呪術師あたりに頼めば解呪してもらえるらしいんだが。

 なにせ、呪いをかけたのはあの『呪詛の魔女』だ。本人以外で呪いを解除できる者などいないだろうとの事。

 解呪の方法を調べてもらうよう知り合いに頼んではいるが……現時点では呪いを解く方法はないわけだ。


 一〇歳の姿にされてしまった俺は、一〇歳の子供として生活しなければならなくなった。

 しかし、ガキの姿のまんまじゃ仕事もできないし、世間的な目もある。

 知り合いに相談したところ、それならば学院に入学してはどうかと勧められた。

 中身はいい歳した大人だってのに、学生からやり直せっていうのか。

 冗談じゃねえと思ったが、今の俺は外見も能力も子供そのものだ。

 ここは我慢して子供として生活するしかないか……。

 なに、呪いが解けるまでの辛抱だ。きっとすぐに元の姿に戻れるさ。


 魔剣帝と同じ名前ではまずいだろうと思い、アロン・エムスと名乗る事にした。

 俺の、子供の頃の名前だ。エムス村のアロン、という意味だったりする。

 そんなわけで今の俺は、一〇歳の少年、アロン・エムス君なのだ。

 学院ってどんなところだろう? ちょっと楽しみだな。



 パイノエリア王国は、中央大陸の中心に位置する大国で、世界最強と名高い王国騎士団を有している事で有名だ。

 その王都であるノエリアは、王国の中心にして最も栄えている都市である。


 ノエリア王都学院は、九歳以上の子供から入学資格がある。

 王国が誇る教育機関であり、生徒達はここで学問や魔術、剣術について学び、巣立っていく。

 ちなみに俺は田舎生まれの田舎育ちなので、都会にある学院になんか通った事はない。

 そのため、学院に生徒として入学するというのには少しばかりワクワクしていた。


 真新しい制服に身を包み、今の俺はピカピカの新入生といったいでたちだ。

 腰に巻いたベルトには、現在の体格に合わせた、やや短めの長剣と、標準サイズの長剣の二本を差している。

 仮にも魔剣帝とまで呼ばれた俺だ。子供の身体にされても剣ぐらい扱えなければと思い、呪いを受けて以降も、暇さえあれば剣を振っている。

 しかし、やはり子供の身体では限界がある。リーチの短さとパワーのなさは致命的だ。


 そこで二本の剣を用意した。

 短めの長剣は子供の身体に合わせたものであり、標準サイズの長剣はリーチの短さをカバーするためのものだ。

 どちらの剣も俺の愛刀であり、コレクションの中から選んだ二本だ。趣味というわけではないが、俺は複数の剣を所有している。

 どの剣もこれまでの戦いや冒険の末に手に入れたもので、そこらの武器屋で手に入るような代物とは違う、名刀ばかりだ。

 本来の能力には程遠いが、この二本の剣を駆使すれば、それなりに戦えるはず。

 まあ、なるべく争い事は避けるつもりではいるが。



 王都の一画にある高い塀で囲まれた広大な敷地に、いくつもの小綺麗な建物が立ち並ぶ。あれこそが王都学院だ。

 開放された正門をくぐり抜け、俺は学院に足を踏み入れた。

 いい歳こいた大人の俺が、こんな場所に侵入するというのは、なんだか犯罪っぽいな。

 入学に関しては知り合いが手を回してくれたのだが、一応、編入試験を受けるという事になっている。面倒だが仕方ないか。

 えーと、試験の会場はどこなんだ? やたらと広いし、どこになにがあるのやら……。


「きゃっ……!」

「!?」


 キョロキョロとあたりを見回していた俺は、たまたま通りかかった生徒の一人にぶつかり、転ばせてしまった。

 しかも相手は女の子だった。金色の長い髪をした、かなりの美人だ。年齢は一五、六ってとこか。

 尻餅をついて痛そうに顔をしかめている少女に、慌てて手を差し出す。


「わ、悪い。大丈夫か?」

「……」


 少女は一瞬、ムッとしたが、俺の顔を見るとなぜかため息をつき、俺の手を取って立ち上がった。

 スカートの埃を払いつつ、俺をジロッとにらんで言う。


「気を付けなさい。ちゃんと前を見て歩かないと危ないでしょう?」

「あ、ああ、そうだな」

「……それと、目上の者には敬語を使うものよ。分かりましたか、僕?」

「は、はあ? 誰が僕ちゃんだって……」


 少女の物言いにムカッと来てしまった俺だったが、相手の言い分が正しい事に気付いた。

 ……やべえ、忘れてた。今の俺は一〇歳のお子様なんだっけ。

 一五、六の姉ちゃんからすれば、年下の坊やにしか見えないよな……。


「悪かった。気を付けるよ、年上の姉ちゃん」

「本当に理解しているの? 見ない顔だけど、初等部の生徒?」

「実は、今日、編入試験を受ける予定で……なに部とかは分からないんだ」

「編入試験? ふーん……」


 少女は珍しそうに俺の顔をジロジロと見ていた。

 よせよ、照れるだろ。さては俺があまりにもナイスガイなんで見とれてしまったか?


「どう見ても子供なのに、なんだかオジサンと話しているみたい……変な子」

「……」


 悪かったな、中身がオジサンで。

 だが、残念ながら今は子供だ。子供らしい話し方の練習でもしておいた方がいいのか。


「編入試験の会場を探しているの? それなら、職員棟へ行って、先生方のどなたかに訊いてみるといいわ」

「分かった。ええと、職員棟っていうのは……」

「真っ直ぐ、正面にある建物よ」

「そっか。ありがとよ、姉ちゃん」

「どういたしまして。……本当に変な子ね」


 軽く手を挙げて礼を言い、その場を後にする。

 さて、学院の教師っていうのはどんな連中なんだ?


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