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13.怪しい侵入者

 教室を飛び出した俺は、廊下を走り抜けようとした。

 そこへ小柄な少女がフラリと現れ、声を掛けてくる。


「待ちなさい」

「うわっ! な、なんだ、メルティか。もしかして、メルティも気付いたのか?」


 メルティはコクンとうなずき、俺に告げた。


「もしもの時に備えて、学院の敷地全体に探知魔法の網を張っているから。いきなり強い気配の持ち主が出現したようね」

「そうなんだよ。なんの気配もなかったのに、どうなってるんだ?」

「気配を完全に消した状態で侵入したのか、あるいはどこか離れた場所から転移魔法で移動してきたのか……」


 たぶん後者だな。気配を消して侵入したのなら、消したままにするはずだし。


「目的がなんなのか分からないが……学院の見学に来た、ってわけじゃないんだろうな」

「ええ。このおかしな気配は……獲物を求めている狩人のような、そんな感じがするわ」


 俺もメルティの意見に同意だ。

 そして、この場における獲物とは……学院の生徒なんじゃないのか?


「近くに生徒がいたら大変だぞ。急がないと……!」

「待って、危険だわ。先生達を呼んだ方が……」

「それじゃ間に合わない! 先に行くぜ!」


 止めようとしたメルティを振り切り、校舎の窓から外へと飛び出す。

 着地と同時に、地面を蹴って気配のする方へと走る。

 非常事態なので、魔力をまとって身体能力を強化し、全力疾走する。

 こういう時、転移魔法が使えたらと思うが、使えないものは仕方がない。


 現場は、集会なんかを行う講堂の裏手にある、屋外訓練場だった。

 この時間は誰も使っていないようで、見える範囲には生徒の姿はない。

 そこに――ヤツはいた。強烈な気配を発している張本人だ。


 そいつは明らかに、人間ではなかった。

 建物の二階に届きそうなぐらい背が高く、手足は長く、細い。

 灰色に塗り潰された、やたらとでかくて細長い、人形のように見える。

 楕円形の頭部には目も口も鼻もない。特大のマペットといった外見をしている。


 俺がある程度接近すると、そいつは反応してみせた。

 キリキリと歯車が回転するような音がして、全身の関節が機械的な動きをする。


「お前、何者だ? ていうか、なんだ? ここへなにしに来た?」

「……」


 人形に訊いても無駄か、なんて思っていると……。


「キキキ、キィーーーーッ!」

「!?」


 楕円形の頭部、その下部がパカッと上下に開き、耳障りな奇声を発した。


「ニンゲン一匹目、ゲッチューーーーーッ!」

「は、はあ? なに言ってるんだテメー!」


 人形が細長い腕を振り上げ、手の先を俺に向けてくる。

 つかみかかってくるのかと思い、身構えていると、そいつは手の先から、なにやら白い物を射出した。


「うわっ、なんだ!?」


 慌てて避け、地面に落ちたものを見てみる。

 それは、ネバネバした粘液でできた網のようなものだった。

 こいつは……人間を、この学院の生徒を、捕獲するつもりか?

 人形が両手の先を向けてきて、冷や汗をかく。


「ゲット、ゲット、ニンゲン、ゲットォーーーーッ!」

「ちょっ、よせ、やめろ! うわあ!」


 バシュッ、バシュッと、網を連発され、慌てて回避する。

 あの網、射出速度がかなり速い。しかもあの質感、剣で受けるのも斬るのもヤバそうだ。

 だが、動きは割と単調だ。左右一発ずつ撃ってから、少しだけ間が開く。そこを狙えば……。


 次の二連射が来るのを待ち、二発目を回避しつつ、地を蹴り懐に飛び込む。

 人形の胴体に斬りつけようとしたところ、細い胴体の中央部分に穴が開き、バシュッと白い網が射出された。


「しまっ……!」


 剣で弾こうとしたが、やはり無理だった。ヌルヌルした網が剣に絡み付いてしまう。

 粘着質の網に包まれてしまい、俺は身動きが取れなくなった。いくら動いても網が身体中にまとわりついてしまう。

 くそ、油断した! 両手以外にも仕掛けがあるんじゃないかと疑うべきだった。


「ニンゲン、ゲッチューーーーーッ! ゲラゲラゲラ!」

「て、てめえ、覚えてろよ! 後で絶対、切り刻んでやる!」


 地面を転がって人形から離れてみたが、網は外れないし破れそうにもない。

 どうにかしてこいつを取らないと。これじゃまるで、蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶じゃないか。

 俺があせっていると、そこで何者かの声があたりに響いた。


「あっ、アロン君が! しっかり!」

「!?」


 声の主は、アーシェだった。網に絡み取られて地面に転がった俺に駆け寄ってくる。


「ど、どうしてここへ?」

「メルティさんに転移魔法で連れてきてもらったの! アロン君一人じゃ危ないからって」

「メルティが?」


 見ると確かに、メルティも来ていた。

 倒れた俺を見下ろし、ポツリと呟く。


「だから待ってと言ったのに。一人で出て行ってこのざま? 無様ね」

「う、うるせえな! ほんのちょっと油断しただけだ!」

「……その、ちょっとの油断で死んでいたのかもしれない。反省しなさい」

「ううっ! お、おっしゃる通りです……」


 悔しいが、返す言葉がない。

 アーシェが剣を抜き、人形と対峙する。


「私が相手をするわ! メルティさんはアロン君をお願い!」

「了解」


 助けに来てくれたのはありがたいが……アーシェで勝てるのか?

 くそ、早く網を外さないと! 俺とした事が、なんてざまだ……!

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