11.刺客
「ま、魔剣帝の居場所なんて知るわけないだろ!」
「ほう、そうか。ならばなぜ、ギルドで魔女の情報を聞いていたのだ?」
コイツ、そこまで話を聞いていたのか。
あとでライザに言っておこう。誰かがあんたを盗聴してるぞって。
「察するに、貴様は魔剣帝の代わりに魔女の情報を聞きに来たのではないか? そして今から、ヤツのもとへ報告に向かうのだろう?」
「ち、違う、そんなんじゃない! 魔女の噂を聞いたから、ちょっと興味を持って……ただそれだけだ!」
会話を交わしながら、相手の観察を行う。
すげえ細いヤツだ。本当に人間なのか疑わしくなるぐらいに。
とんがり帽子のつばが邪魔で、顔付きが分からない。声は男みたいだが……。
「魔剣帝の居場所を言え。案内してくれても構わんが、どうする?」
「い、いや、だから、居場所なんか知らないって! 確か、しばらく旅に出るって言ってたよ! 行き先は聞いてない!」
「……」
謎の人物は、帽子のつばの影から鋭い目をのぞかせ、ボソッと呟いた。
「嘘を言っているようには見えないが……しかし、貴様はどこか変だ……」
「どこかって、どこだよ!」
「……冷静すぎる」
「1?」
「見たところ、一〇歳前後の子供か……なのになぜ、我と相対して冷静でいられるのだ? 我は先程から殺気を放っている。そこらの剣士や魔道士なら恐怖で凍り付くはず。だが、貴様は違う」
コイツが殺気を放っているのには気付いていたが……やべえな、そこまで考えてなかった。
子供らしい反応としては、怯えて腰を抜かすぐらいするべきだったか。
「あ、あんたは一体、何者なんだよ!」
「我か? 我は『呪詛の魔女』配下の一人。我らが主を殺した、にっくき魔剣帝に復讐するため、ヤツの居所を探している」
「……魔女の手下か……!」
最悪だ。いずれ魔女連中には接触するつもりでいたが、よりによって『呪詛の魔女』の手下とは……。
他の魔女の関係者なら、まだ話し合う余地もあったんだが。あいつの手下じゃ無理だ。
「魔剣帝の居場所を知らないというのが事実として……貴様を捕らえれば、魔剣帝は助けに現れるのではないか? 試してみる価値はありそうだ」
「い、いや、俺なんかを捕まえたって、魔剣帝は来ないよ! ちょっと知ってる程度の間柄だし!」
ヤツがなにか仕掛けてこようとしているのを感じ取り、冷や汗をかく。
相手は魔女の手下だ。まず間違いなく魔法の使い手だろう。
問題は、どんな魔法を使うのか、どの程度の力量なのかだ。今の俺に防ぎきれるのか。
「……貴様、もしや、我と戦うつもりか?」
「!」
「おかしな小僧だ。我の殺気を受けてもなお、怯えるどころか、戦うつもりでいるのか。どうやら、只者ではないようだな……」
謎の怪人の殺気が増大し、魔力が膨れ上がっていく。
ヤツは身体を覆うマントから、右腕を出してみせた。
異様に長く、細い腕だ。まるで針金でできているような……。
「死ね」
「!?」
ヤツの右手、その細長い指が瞬間的に伸びて、五本の刃となって襲い掛かってくる。
俺は短い方の剣を抜き、迫り来る五つの刃の先端を全て打ち、弾いた。
伸ばした指をすばやく引き戻し、怪人が呟く。
「我の攻撃を、完璧に見切っただと……子供の技量とは思えない。何者だ、貴様……!」
「さあな。ところで、お前みたいな魔女の手下が何人もいるのか? 王都にどれぐらいの人数が来ている?」
「王都は警備が厳しいので、今のところ、我だけだ。だが、そんな事を訊いてどうする?」
「いや、念のため、確認しておきたかっただけだ。……お前を始末する前にな」
「!?」
ずっと抑えていた殺気を開放、敵にぶつけてやる。
謎の怪人は即座に反応し、両腕を左右に広げ、両手の指を刃に変えて伸ばし、俺を切り刻もうとした。
かなりのスピードと威力だ。そこらの剣士なら、受ける事も避ける事もできずにバラバラにされていただろう。
だが――俺を殺るのには、少しばかり力不足だったな。
「せえの……おりゃあ!」
「!?」
魔力をまとい、剣を一閃、迫り来る十本の刃を全て弾き、粉砕する。
地面を思い切り蹴り、瞬間的に加速、敵の懐に飛び込むのと同時に、剣を振るう。
謎の怪人の背後に立ち、俺は剣を鞘に納め、呟いた。
「……相手が悪かったな。あの世でお前のご主人様によろしく言っといてくれ」
「き、貴様、まさか……魔剣帝、本人か……?」
上下左右、十字に斬られた怪人は、塵となって消えた。
生き物を斬った手応えはなかった。魔女の使い魔か、人形みたいな存在だったってところか。
……正直、ホッとしたぜ。この程度の技量の刺客でよかった。
魔女に匹敵するような力の持ち主だったら危なかったな。
しかし、こうも早く、魔女の手下が俺の前に現れるとは。
ヤツはこのあたりに仲間はいないと言っていたが……刺客を倒した事で、呼び寄せてしまう事になるかもしれない。
これまで以上に、警戒が必要だな。
とりあえず、魔道士ギルドのライザには盗聴に気を付けるよう言っておくか。