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1.魔女の呪い

 そいつは、恐ろしく強く、吐き気がするほど邪悪な存在だった。

 名を『呪詛の魔女』という。


 その魔女は、少なくとも百年以上前から存在し、自由気ままに暴れ回っていた。

 ある時は平和な国に現れて人々に災厄をもたらし、またある時は辺境の地に現れて小さな村を滅ぼしたりもした。

 魔女は多種多様な魔法を操り、強力な呪いの術法を得意としていた。

 生きた人間を不死人に変え、兵隊として操るというような、極悪非道な真似を繰り返していた。


 邪悪な魔女は気まぐれで、数年間同じ国で暴れ回っていた事もあれば、十年以上姿を消している事もあった。

 魔女がその姿を現すたびに、何人もの勇気ある猛者達が退治に向かったが、誰一人として生きて帰っては来なかった。


 ただ一人の、例外を除いては。


 世界でも一、二を争う、剣の達人にして、剣を極めし者。

 特定の国家、組織には属さず、己が信じた道のみを突き進む、孤高の剣士。

 『魔剣帝』アヴァロン・エムエルス。

 魔を斬る事を得意とする最強の剣士、魔剣帝が、ついに邪悪な魔女を退治するべく立ち上がった。


 決戦の地は、魔女が棲家にしている古城。

 強力な魔法を駆使する魔女を相手に、さしもの魔剣帝も苦戦を強いられたが、数日に及ぶ死闘の末、ついにその刃が魔女の身体を貫いたのだった――。




「グォオオオオオオオオオオオ! おのれ、おのれぇ! よくもこの私を、人間ごときがァアアアアアアアア!」


 その身体が塵となって消えゆく中、邪悪な魔女は最後の力を振り絞るようにして、自分を殺した男に向けて叫んだ。

 魔女はボロボロのローブをまとっていて、死神のような姿をしていた。

 フードの奥に隠された素顔は、元はかなりの美人であったであろうと思われたが……その顔は狂気に歪み、まるで死人のような灰色の肌をしており、血の色に染まった目と相まって、不気味極まりないものとなっていた。


「ただでは死なぬ! 我が呪いを受けるがよい! 貴様は未来永劫、呪われた人生を歩む事になるのだ!」

「……うるせえなあ」


 ……しばらく黙って聞いていたが、さすがに鬱陶しくなり、俺は舌打ちした。

 つか、このクソババア、なにがよくもだ。被害者ぶりやがって。

 一体、今までに何人の罪なき人間の命を奪ってきたんだ?

 コイツの罪を考えると千回ぐらい死刑にしてやっても足りないぐらいだぜ。

 元はコイツも人間だったんだろうに、百年以上もの間、イカれた魔女として暴れ回っていたせいで、すっかり人間以下のモンスターになり下がっちまったみたいだな……。


「終わりだ、クソ魔女。てめえが殺してきた人間に、あの世で詫びてこい……!」


 トドメを刺すべく、剣に力を込め、塵になった魔女の身体を四散させる。

 肉体だけでなく、魔女の持つ強大な魔力までもが吹き飛び、消滅していくのが気配で分かる。


 やれやれ、やっと終わったな……。

 ここまで来るのに、随分と遠回りをしたが……これで俺もようやく、楽に……。


「……いいや、まだだ。我が呪いを受けるがいい……!」

「!?」


 耳元で魔女の不気味な声がして、ギョッとする。

 直後、急激に身体から力が抜けていき、立っていられなくなり、その場に膝をついてしまう。

 くそ、呪いだと? 魔女め、最後の最後に妙な術を仕掛けてきやがったな……。


 薄汚れた床の上にうずくまったまま、意識が遠のいていく。

 それでも俺は、手にした剣を放さなかった。



 この日、邪悪な魔女は滅ぼされた。

 同時に、最強の剣士たる魔剣帝アヴァロン・エムエルスもまた、姿を消したのだった――。






 さて、結論から言うと、俺ことアヴァロン・エムエルスは生きていた。

 ただし、魔女の呪いをしっかり受けてしまった状態で、だが。


 魔女の居城で意識を失ってからどれだけの時が経過したのか。

 目覚めた俺は、自分がまだ生きている事を確認し、胸をなで下ろした。

 外傷は特にないようだが……なにか、妙な感じがするな。

 服がブカブカで、どうにも動きにくい。一体全体どうなって……。


「……!」


 気絶しても握り締めたままだった剣が、俺の愛刀が、なんだか一回り以上大型になっているのに気付き、ギョッとする。

 元々幅広の刀身を備えた剛刀ではあるんだが、明らかに大きすぎる。片手でしっかり握る事ができない。

 そこで、自分の手が、指が、妙に小さくなっているのに気付いた。

 つか、腕そのものが細くて短いぞ。これじゃまるで、子供の腕みたいじゃ……。


「まさか……!」


 剣から手を放し、自分の身体を撫で回してみる。

 怪我はない。それは間違いないんだが、毛までないぞ?

 全身から筋肉が抜け落ちて、身体そのものが縮んでいる。

 コイツは一体、なにがどうなったんだ?


 壁際に大きな姿見があるのに気付き、ブカブカの服を引きずりながら、おそるおそる近付いてみる。

 そこに映っていたのは、ナイスガイの俺様――ではなくて、どこかで見たような顔をしたクソガキだった。

 つか、ガキの頃の俺だよ! たぶん一〇歳ぐらいの頃の! だってまだ生えてないし!

 顔は幼い頃の俺みたいだが、髪の色がなぜか真っ白になっている。

 俺は生まれ付き黒髪だったんだが……。

 子供になった反動かなにかで髪の色が抜けちまったのか?

 恐怖で髪の毛が真っ白になったという話は聞いた事があるが。


 もしかして、これが魔女の言っていた呪いなのか?

 オッサンだった俺が、子供に若返ってしまったわけか。

 若返ったのなら喜ぶべきなんじゃないかと言われそうだが、コイツはかなりマズイぞ。

 一〇歳の頃から、三〇年ほどかけて得た力のすべてが、消えてなくなってしまっている。

 最強の剣士と呼ばれたこの俺の力が、魔剣帝の能力が、失われてしまったわけだ。

 今の俺は、めちゃくちゃ弱くなっているわけで……この状態で魔女の仲間や部下なんかが襲ってきたら一溜りもないぞ。


「くそう……とんでもない呪いをかけてくれたな、魔女め……」


 妙に高い、女の子みたいな声が自分の口から出て、ゾッとする。

 声変わり前の声ってこんなんだったっけ? 俺にもこんなカワイイ声を出していた時期があったんだな……。

 絶望に打ちひしがれつつ、俺は魔女の居城から脱出した。

 幸いにも、襲ってくる敵なんかはいなかったが……これからどうすりゃいいんだ……。



 自分でどうにもできそうにない時は、信頼できる人間に頼るしかない。

 まずは魔女の呪いについて詳しそうな人間に当たってみるか。

 それで呪いが解ければよし。だが、もしも解けなかった場合は……。


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