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地獄の神威  作者: ビタードール
2章
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第4話『怠惰の魔神②』

 島に着いた莉愛と叶夢は、警戒しながら座り込んでいるポム吉の元に行く。


「大丈夫?」

「地獄からの死者!ポム吉!」

「頭以外大丈夫そうね」

「莉愛も同じようなことやってた癖に……」


 ポム吉は何も考えてなさそうな表情をし、莉愛の肩に乗る。


「あのカタツムリは外に居た。今の内このビルの上まで行こう」

「そうしよう」


 二人はそう言ったが、ビルはパッと見て40階建て以上ある。

 そう易々上っていけるようなビルではない。


「行くよ」

「うっ、うん」


 叶夢は震えながら莉愛に着いて行き、ビルの中に入った。

 ビルの中は外と違って薄暗い。


「ちょっと!後ろ歩かないでよ!前を歩いて!」

「だっ、だって……怖いんだよ。莉愛だって怖いでしょ?」

「私は怖くない!なよなよするな!前を歩くんだ!」


 莉愛は強引に叶夢の腕を引っ張り、無理矢理前を歩かせる。

 叶夢は控えめに拒絶するが、嫌々前を歩かされる。

 怯える叶夢の肩にポム吉が飛び付いた。


「ちょっとポムちゃん!何でそっち行くのよ!」

「えっ?前を歩く叶夢の方を警戒しといてあげようと……」

「こっち、こっち来なさい」

「もしかして……怖いの?」

「怖くない!」


 莉愛はポム吉を引っ張り、叶夢の方へ行かないようにギュッと腕に挟む。


「照れちゃう!」

「それより叶夢、お前の背中にあるのは?」


 莉愛が不思議そうに見たのは、叶夢の背中に掛かっている弓矢だった。

 邪魔になる荷物なのに、ずっと持っていることに不思議に思ったのだ。


「弓、俺弓道部だから……神域に来た時持ってた」

「ロビンフットが使う奴か!後で使わせて!」

「良いけど、このビルに居る間はあまり話しかけないで……魔神にバレる」

「分かった。約束守ってね?」

「分かった」


 ビルの中は酷く崩壊していて、薄ら汚かった。

 登れる階段もあれば、崩れ落ちている階段もあった為、階段をただ登るだけでは屋上に向かうことは出来なかった。


「登れない」

「えー!他の道はないの?」


 数分掛けて15階に登ったその時、とうとう足が詰まった。

 しかし、近くに落ちていたロープを見て叶夢が妙案を閃く。


「ポム吉、このロープを上に持っててそこの鉄骨に結んでくれない?」

「任せて!」


 上空を飛べるポム吉にロープを持たせ、16階の鉄骨に結ばせる。


「先私、ちょっと持ち上げて」

「え?わ、分かった」


 叶夢は躊躇いつつ、莉愛を肩車する。

 莉愛は叶夢の肩に足を着け、そこからロープを掴んで上に登ろうとする。


「まっ、まだ?」


 叶夢は痺れを切らせて力んだまま上を見上げる。

 だが、上を見上げると莉愛のスカートの中が見えそうになったので、すぐに下を向いた。


「登れた!」


 上へ登れた莉愛は、下に居る叶夢に手を伸ばす。

 やっとの思いで、叶夢も上へ登ることが出来た。


「何か上から垂れてない?」

「水?」


 天井からほんの少し液体が漏れていた。

 二人はそれに気付いて上を見上げるが、周りが暗くて天井がよく見えない。

 だが、莉愛が手の平に出現させた小さな太陽により、周りが明るくなって天井もはっきり見えた。


「凄い!太陽が……手に……」

「叶夢は出来ないの?」

「出来ないよ」

「そう」


 二人はそんな会話をしながら上を見上げる。


「なっ、何あれ?」


 上には通常のサイズより大きめのカタツムリがみっちり張り付いていた。

 何十匹も居て、もぞもぞと動いている。


「立って!逃げるよ!」


 慌てた叶夢が、ポム吉と莉愛の手を引っ張て、逃げ道へ走った。

 莉愛は太陽を手放すが、太陽は莉愛に独りでに着いてきている。

 カタツムリの大群も体をもぞもぞ動かし、二人にゆっくりと着いて来る。


「きゃあ!!」


 カタツムリの一匹が莉愛の肩に落ちて来た。


「この!ポムパンチ!」


 同じく肩に乗っていたポム吉がカタツムリを殴るが、びくともしないで二つの長い目を伸ばす。

 それどころか、天井に張り付いていたカタツムリが隙の出来た莉愛に飛び付く。

 莉愛はカタツムリの大群に襲われ、埋もれてしまう。


「止めて!離して!止めてよ!助けてーー!!」


 莉愛は太陽を操ってカタツムリを焼き殺そうとするが、数が多すぎて攻撃が間に合わない。

 ポム吉も莉愛を襲うカタツムリに抵抗するが、押し出されてしまう。


「ほわぁ!」

「莉愛!」


 叶夢は足を止めて莉愛に手を伸ばそうとする。

 しかし、すぐに躊躇した様子で震えた手を引っ込めた。


「たっ、助けなきゃ……助けなきゃ……」


 叶夢は青ざめた表情でそう呟くが、体が震えて後ずさりをしていた。

 心と体が嚙み合わなく、思うように動いてくれない。


「契約……助けなきゃ俺が死ぬ。けど……そんなんで死ぬ訳ない……」


 叶夢は莉愛と交わした契約が本物だと信じていなかった。

 人間同士の口約束で、死ぬというのは建前だと思ってる。

 莉愛の中二ぽい性格を考えれば尚更だった。


「嘘付いたら針千本飲ますと同じ……それにもう助からない」


 叶夢はカタツムリの大群に群がられる莉愛からゆっくりと離れる。

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