第3話『怠惰の魔神①』
莉愛と叶夢は契約を交わし、その契約通りお互いを助けてこの地獄を抜け出すことにした。
「じゃっ、じゃあ、私が道中会ったのは魔神って言う化け物?」
「そう。俺は魔女によってこの神域に連れて来られた」
荒廃した世界を歩く二人は、お互いの知らないことをお互いに質問し合っていた。
「魔女って、さっき言ってた魔神だよね?」
「うん」
「ここは地獄の神域って言うんだよね?」
「うん」
「この外には人間が生活してるんだよね?」
「うん」
「ちょっと見てみたいかも」
叶夢とポム吉はそう呟く莉愛を横目で見ていた。
ポム吉は叶夢の肩に乗り、未だに紐で縛られたままだ。
「君、本当に人間じゃないの?」
「お母さんは私達を神だと言っていた。この世界をうろつく人間に気を付けてとも言っていた。けど、もしかしてそれすらも嘘かも」
莉愛は自分が逃げて来たまでの経緯を叶夢に話し終えていた。
母親が自分を人を生き返らせる為の心臓としか思っていなかったこと、化け物から命からがら逃げたこと、他にも叶夢の疑問に答えた。
「ポム吉は?何でぬいぐるみが動いてるの?」
「何で?ポム吉だから……としか言いようがないよ」
「地獄からの死者だから!」
「そう……かい」
叶夢は不思議そうにしたままポム吉を撫でる。
「叶夢は?なぜ逃げようしなかったの?あんな家に引きこもって……出口が分からないのか?」
「引きこもりはいつものことだよ。怖いんだ……学校もこの神域も怖い……自分に自信がないから。だから、君と契約するのも怖かったんだ。俺は誰かを助けるなんて……無理なんだよ」
叶夢は下を向いて卑屈な様子を見せる。
そんな叶夢を見て莉愛が首を傾げる。
「学校?あの教育の場所?本当にあるんだ……」
「余り良いとこではないよ……少なくとも俺はね」
「叶夢ってオドオドしててムカつくね」
「ごめん……助けるどころか足引っ張ると思うから、いつでも見捨てていいよ」
「そんなことしない。私は博愛の王子だからね」
「女の子なのに王子?王妃じゃないの?」
「王子よ!王子の方がかっこいい!」
「そうだけど……」
二人がそんな会話をしていると、遠くから明かりが見えてきた。
「明かりだ!僕らを導いてる!」
それに気付いたらポム吉が、上空にある太陽を指差した。
太陽の近くには、荒廃した場所とは違うエリアが待っている。
そこは太陽に照らされた島のような場所だった。
辺り一帯海で囲われいて、その海に家や公共物が所々ある。
その中央には、そんな小さな建物とは比較できないくらい大きなビルが樹木のように立っている。
ビルには苔や草がびっしり張り付いていて、一番目立つ建物となっている。
「水の地面?渡れなくもないけど……」
「ちょっと待って」
叶夢がショルダーバックから望遠鏡を取り出した。
その望遠鏡で、遠くの方まで辺り一面見渡す。
「だめだ。こっからビルの方に行けても、ビルから向こう岸には足場がない。違う道を探さないと」
ビルの奥には足場がなかった。
よって、二人が居る場所からビルに行けても、奥に行けることは出来ない。
しかし、この場には自称神が居る。
「ビルの屋上に上ることが出来れば向こう岸に行けるわ」
「どうして?」
「私にはこの羽根があるから」
莉愛はそう言って、自慢げに左右非対称の羽根を広げる。
「飛べるの?」
「いや、紙飛行機のように舞うことが出来るだけ……お母さんは飛ぶことが出来るけど、私の右羽根は小さいから上空には飛べない」
莉愛はそう言って地面を蹴り、出来るだけ高く跳ぶ。
そして、その位置から羽根を広げ、ゆっくりと叶夢の周りを飛んで見せた。
「こんな風に滞空時間は長めだから安心して」
「凄い……かっこいいね」
「えへへ。かっこいいっしょ」
莉愛は嬉しそうにして照れるが、叶夢は不安そうにしている。
「けどさ、莉愛は飛べても、俺は飛べない」
「私が抱える」
「いける?」
「いける。抱えるくらい楽勝」
「そう、ならいいんだけど」
「ただしポム吉、てめぇはダメだ」
「そんな!?」
二人は取り敢えず奥に見えるビルに向かうことにした。
莉愛が叶夢を抱え、足場から足場へ移動して海を渡る。
「ごめん」
叶夢は申し訳なさそうにしている。
「何が?」
「いや、迷惑掛けて」
「叶夢にとって、この行為は迷惑なの?」
「いや……そういう訳じゃないけど」
「はぁ?じゃあ謝らないで。その謝罪は誰も得しくてないじゃない」
「ごめん……」
「だ、か、ら!謝るな!次謝ったらぶっ飛ばすぞ」
「わ、分かった」
叶夢は申し訳なさそうにしたまま顔を下に向ける。
体に密着した罪悪感と、莉愛を怒らせた申し訳なさで押しつぶされそうだ。
「ごっ、ごめんなしゃい」
ポム吉が叶夢の気持ちを弁解するように謝る。
謝ったことで、莉愛がポム吉をぶっ飛ばした。
「ほわぁ~!!」
ポム吉は目的地であるビルに吹っ飛び、その場に居たカタツムリにぶつかる。
そのカタツムリは、どう見ても普通のカタツムリではなかった。
大きさが人間の三倍はある。
以前、瑞希や律が出会ってきた魔神に比べたら、大きさも見た目も可愛いものだが、莉愛や叶夢から見たら異質なものには変わりがない。
ビルの壁に張り付き、ぶつかってきたポム吉の方を見ている。
「あっ、あれは?もしかして……魔神?」
「カタツムリの魔神?俺が見た魔神に比べて小さいぞ」
「ポム吉死んだかも……」
二人は唾を飲んで遠くから巨大カタツムリを見る。
しかし、カタツムリはポム吉に何かする訳でもなく、そのまま奥の死角の方へ去って行く。
「ポム吉をただのぬいぐるみだと思ったんだわ」
「ほっ、本当にあのビル行くの?」
「行くしか……ないでしょ」
二人は怯えたままビルが建っている島に足を付けた。