第17話『地獄の使者⑤』
三階のホールで、律とラルスが睨み合っている。
律はラルスの指から放たれる星の弾丸を警戒して刀を構える。
肩から血を流し、震えた足をゆっくり動かす。
「来な」
ラルスはそう言って右の手錠を外す。
律は武蔵座に距離を詰めて刀を振るう。
ラルスは羽根を広げ、宙を舞いながら後ろに下がりながら全ての斬撃を避けていく。
律の刀はラルスを掠るだけで、当たりはしない。
「バカめ!下がりすぎたな!」
ラルスは背後に避け続けたことで、とうとう壁にぶつかる。
その隙を逃さなかった律は、ラルスの頭目掛けて刀を振るう。
「なっ!」
刀は鎖によって止められた。
左の手錠から伸びている鎖を右手で握り、しかっりと刀を受け止めている。
律はそのまま蹴り飛ばされ、再び距離が出来てしまう。
それだけでなく、指から放たれた星を胸に受けた。
「がはぁ!?」
律は吹き飛ばされ、血を吐いてその場に倒れる。
「律ー!」
ポム吉が倒れる律の元に駆け寄る。
「俺はもうダメだ。さらばポム吉……バタッ」
律はその場に倒れる。
そんな律と律にしがみつくポム吉に、ラルスがゆっくりと近寄る。
「そこの熊ちゃん、少年は胸を貫かれた。死が訪れたんだよ……君の命は取らないから、こっちにおいで」
ラルスは優しい声で手を伸ばし、ポム吉に向けて泣きたくなるような微笑みを見せる。
その瞬間、素早く起き上がった律がラルスの首元を刀で斬った。
ラルスは首から出血し、耳に掛けていたヘッドホンが床に落ちた。
「生きている?あの距離で攻撃を受けて……なんで?」
ラルスは斬られた首を抑え、嫌そうな目を律に向ける。
「律!生きてた!」
「赤の魔眼で星の攻撃を止めたんだ。ぺっ!おかげで致命傷にはならなかった」
律の赤い瞳を見て、ラルスは悟ったような表情をする。
「その目、最初に僕に向けた目……何か魔神に近い能力を持っているのか」
「気付いたようだな。だが俺も気付いた……もしかしたら効くのでは?っとな」
「一体何が?」
ポム吉が首を傾げて、立ち上がる律の方を見る。
律は自信たっぷりの表情で、赤い瞳をチラつかせる。
「星の弾丸が効かないなら……直々に仕留める」
ラルスは羽根を広げ、宙を舞って上から律に向って来る。
そのスピードは、先程とは比べ物にならない。
「小動物のように早い!避けるんだ律!」
「いや避けない!魔眼!」
律は赤い瞳を光らせ、ラルスに向けて手を伸ばす。
「奴には赤の魔眼は効かないよ!それは律自身が分かってるはず!なんで!?」
ポム吉の言う通り、ラルスは魔神でも悪魔でも幽霊でもない。
その為、赤の魔眼は通用しない。
しかし、ラルスは空中でピタリと止まった。
手足は動かせているが、羽根が硬直したようにラルスを吊るしている。
「なんだ!?動かない!?羽根が動かない!」
「やはりな。羽根だけは魔神の類だったようだな」
「凄い!」
ラルスは空中で身動きが取れなくなり、律も魔眼を使用して動けなくなる。
しかし、片目を黄色に変え、刀をラルスに向けて飛ばすように操った。
「ラルス!お前を地獄に封じる!」
刀がラルスの胸目掛けて飛んで行く。
しかし、ラルスは動かせる手を動かし、鎖で刀を弾いた。
弾かれえた刀は、律の肩に刺さってしまう。
「ああぁ!!」
ラルスは手錠から鎖を最大限伸ばし、律に届くまでの長さにする。
その鎖を鞭のように操り、手錠を律の頭目掛けて投げた。
「律!」
しかし、ポム吉がその手錠に飛び付き、手錠を受け止める。
そのまま鎖にぶら下がり、流れて行くようにラルスの顔に飛び付いた。
「今だ律!」
「離せ熊!この!」
「ほわぁ!?」
ラルスは慌てて顔からポム吉を剥がす。
「な!?」
ラルスがポム吉を剥がした時、律は赤の魔眼を解除して刀を振るっていた。
目の前には青い瞳で真っすぐこちらを見る律が居て、時間が止まっているようだった。
ラルスは咄嗟に鎖を前に持ってくるが、その鎖ごと斬られる。
「ぐはっ!?」
「ここで眠れ」
ラルスは首から深く胸を斬られ、空を落ちるカラスのように、朽ちるように床に落下した。
「はぁはぁ」
「やった!流石律!」
ラルスが血を流して苦しむ中、ポム吉は体から妙な光を放って喜んでいた。
律は微かに漏れている光に気付く。
「お前?体から何か出てるぞ……」
ポム吉の体から光と共に出ていたのは、ポム吉の霊体だった。
体が薄く、透けているように見える。
生まれつき悪魔が幽霊が見える律には、ハッキリと見えていた。
「思い出した……僕、魔神だったんだ。ラルスに殺された魔神だった。死ぬ前にこの体に入ったんだ」
ポム吉は妙なことを言って、崩れ落ちるように倒れる。
霊体はポム吉の体にしがみついているが、今にも離れそうだ。
「魔神?お前の体から出てるそれは?霊か?」
「ラルスを倒したから、それがトリガーとなって成仏するんだ。ごっ、ごめんね律」
ポム吉は泣いてるようだった。
決して涙を流していないが、悲しそうにしているのが痛い程分かる。
「魔眼!」
律は体から出てきそうな霊体を止めた。
「それ以上魔眼を使うとお腹が減る。これは運命なんだ……だから止めないで」
「約束はどうなる!?神域を出て大スターになるんだろ!俺の結婚式を挙げるんだろ!おい!しっかりしろポム吉!」
「さよなら律。楽しい時間をありがとう」
律は魔眼の使い過ぎで、お腹が減って思わず魔眼を解除してしまう。
すると、霊体のポム吉は「ほわぁ〜」と言う声と共に消えて行った。
「ポム吉の……バカヤロー……」
律は動かなくなったポム吉をギュッと抱き締めた。
青い瞳からは涙がポロポロと流れている。
同時に、ラルスが律とポム吉に向けて手を伸ばし、朽ちるように息を引き取った。




