第15話『地獄の使者③』
莉愛と共に行動することになった律とポム吉。
律と莉愛は、お互いに知らない世界のことを全て教え合っていた。
律は片目に巻いていた包帯を額の傷に巻く。
「じゃあここは地獄の神域って場所なのね」
「うん」
「律は何でお父さんに追われてるの?」
「え?何でって。あっ、外に畑有るだろ?その畑の野菜を勝手に抜いたから追われてるの!だから逃がすの手伝って」
「謝ったら許してくれるよ」
「それは出来ない」
お互いの知らないことを話した二人。
しかし、律は莉愛に、ラルスが人々を神域内に連れて来る悪い人間だと言うことは言えなかった。
ラルスと言う存在のことも話せなかった。
それを言うのには、余りにも残酷だからだ。
「これやるよ。博物館にあった。王子と言ったら王冠だろ?」
「やったぁ!ありがとう律」
莉愛はそう言って律の頬にキスした。
律は何だか嬉しくなったが、いつものエロガキ律とは違い、紳士的だ。
莉愛が律から貰ったのは黒い王冠だ。
大事そうにして頭に乗っける。
「ここが地下だよ」
「行くか」
律は地下室に入って行く。
しかし、莉愛は着いてこようとしない。
「どうした?」
「こっ、ここで待ってる。私、お父さんに地下室入っちゃダメって言われてるから」
「はぁ?良いから来いって」
「いやだ。気になりはするけど、怖い」
「分かったよ。見張っといてくれ」
仕方なく、律とポム吉の二人で地下室に入る。
地下室は薄暗かったが、広々としていて綺麗にされてあった。
怪しい実験室のような場所で、色々な薬品などがある。
「妙に寒いな」
「さみぃな〜」
寒さで震えながら、机の引き出しや壁に掛かっている写真などを探る。
「何だこれ?学生証?」
机の引き出しにあったのは二つの学生証だった。
一つは山梨第一中学校、3年A組、夢野 瑞希。
もう一つは山梨第一中学校、3年A組、神崎 結愛。
二つとも写真付きの学生証だ。
「山梨第一中学校って?俺と同じ学校だ!けど7年前の卒業生だな。夢野 瑞希?莉愛と同じ苗字だ。にしてもこっちの女の子は可愛い。正直好みのタイプの先輩だぜ」
律は二つの学生証をまじまじと見る。
「律、こっち来て!」
ポム吉が律を呼んだ。
律はすぐにポム吉の方に行く。
「何だ?これは?」
律が見たのは、冷凍漬けにされた少女だった。
ガラスの中で白雪姫のように眠っていて、氷の中で美しさを保っている。
その顔はどこかで見たことのある顔だった。
「これ!この学生証の女性だ!神崎 結愛!ラルスがこの子を氷漬けにしたのか?一体何の為に……は!?まさか!?」
「何か分かったの?」
「ラルスはロリコン野郎だったんだ!だからこの子を氷漬けにしてんだ!許せん野郎だぜ!」
「なにぃ!?それは許せん!」
二人は恐らく違うことを信じて疑わない。
「こっちの引き出しは?」
「まだ開けてないな」
開けてないもう一つの引き出しを開ける。
その中にはカメラのSDカードとお探し物の鍵があった。
「鍵だ!」
「もう一つ何か入ってる」
「それはカメラのSDカードだな。それより早く鍵を持って行こう」
律は三階の扉の鍵を手に入れた。
律とポム吉は莉愛の待っている地下室の出口を出る。
「鍵ゲット!」
「やったぁ!」
「よし、三階に急ごう」
三人はラルスが居ないかを確認しながら二階への大階段を登った。
「誰も居ないね」
「ねぇ律、律はイケメンって言ってたけど?イケメンって何?」
緊迫した空気の中、莉愛が律に話し掛けた。
律は慌てたように莉愛の方を向く。
「しっ!お父さんに聞こえたらどうするの!」
「大丈夫だよ。お父さんは耳が聞こえないから、音に気付かない」
「え?そうなの?」
「うん」
律はラルスが耳の不自由な男だと分かり、ホッと安心する。
そして、聞かれた質問に答える。
「イケメンってのはな、俺みたいに良い男のこと。見た目にも中身にも使える」
「そのイケメンって、どうやって判断するの?」
「男の刀を見れば良い」
「刀?」
「ここさ。股間のことだよ」
律が股間を指差すと、莉愛は不思議そうに首を傾げた。
「刀って言うの?」
「男の場合はな」
「女の場合は?」
「ん〜、鞘、かな?」
「じゃあ私のは鞘?」
「そう」
律は7歳の少女に平気で下ネタを叩き込む。
これにはポム吉も困った表情をしてる。
「律!そんなこと教えないでよ!」
「いずれ知る。これが理の真実」
「男がイケメンか判断するには刀を見れば良いのね?」
「そうそう」
「どひゃー!もうダメだー!」
ポム吉は諦めて考えるのを止めた。
「律の刀見たい」
「ふふっ、良いだろう!」
三階の階段に向かいながら、律が莉愛に刀を見せようとした。
その瞬間、角で待ち構えるように居たラルスとばったり会ってしまう。
「あっ……」
「お父さん!?」
「やば吉」
三人はラルスの目の前で体が硬直してしまった。
ラルスは律を嫌そうな目で見て、莉愛を律から離すように手元に引き寄せた。