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地獄の神威  作者: ビタードール
1章
36/64

第14話『地獄の使者②』

 律とポム吉は通路の右角を曲がった。

 曲がった先の通路には、左側に窓がいくつかあり、右側は部屋がいくつかある。

 奥に逃げることも出来るが、律とポム吉は部屋に逃げ込むことにした。


「来いポム吉」

「おう!」


 律とポム吉は手前から二番目の部屋に逃げ込んだ。


「ふぅぅ、早く隠れなくては」

「誰?」


 しかし、入った部屋の中には一人の少女が居た。

 広々とした部屋で、多くの玩具を広げて遊んでいる。

 その少女は7歳くらいの年頃で、金髪で可愛らしい少女だ。

 しかし、背中には左右非対称の黒い羽根が生えている。


「え?」

「地獄からの死者!ポム吉!」

「凄い、ぬいぐるみが喋ってる」


 少女は喋ってるポム吉を見て、嬉しそうに笑った。

 律は羽根の生えた少女に動揺しながらも、通路から聞こえる鎖の音を聞いて慌てた。


「やばい!来る!」

「そんな!?」


 律とポム吉はあわあわと慌てる。

 しかし、部屋の扉はゆっくりと開かれた。

 扉からはラルスが姿を見せる。


「ど、う、し、た、の?」


 少女はラルスの方を見て、口をゆっくり大きく動かして話した。

 部屋には律の姿もポム吉の姿もなくなっている。


「誰か、来なかった?妙な、こととか、ない?」


 ラルスは透き通った優しい声でそう言った。

 少女はラルスの方を見たまま、大きく首を横に振る。


「そう。ならいいんだ」


 ラルスはゆっくりと扉を閉めようとする。

 しかし、何か思い出したかのように再び扉を開けた。


「今日は、莉愛の好きなハンバーグだよ」

「やったぁ!」


 少女――莉愛は露骨に喜んだ。

 声は小さめだが、体と表情で喜びを表現している。


「7時には来るんだよ」

「はーい!」


 ラルスの表情は嬉しそうだった。

 目が見えず、口しか見えない表情でも、声と口元だけで分かるくらい嬉しそうだ。


「大丈夫だよ」


 ラルスが部屋から出て数秒後、莉愛がそう言った。

 すると、玩具の山に隠れていた律とポム吉がひょこっと顔を出した。


「かっ、庇っくれてありがとう」

「ありがとう!」


 律とポム吉はそう言って扉から出て行こうとする。

 しかし、そんな二人に莉愛が玩具の弓で矢を放った。

 ポム吉は矢を受け、その場に転ける。


「ほわあっ!?」

「待って、お父さんに告げ口されたくなかったら、私の元に来て」

「お父さんって?ラルスのことか?」

「ラルス?」

「さっきの、手錠の付いた男」

「そう、私のお父さん。知らないことを教えてあげる。だから私の知らないことも教えて」


 律は困った表情を浮かべながらも、ポム吉の頭を掴み、莉愛に近寄る。

 そして、ソワソワしながら、ポム吉と共に莉愛の目の前に座った。


「質問するのは私から。貴方達は誰?」

「ふっ、イケメンで正義の味方、西園寺 律」

「地獄からの死者!ポム吉!」


 律とポム吉は堂々とドヤ顔で名乗って見せた。

 莉愛はそんな二人に小さな拍手を送る。


「私もそう言うの欲しい。かっこいい」

「そう言うの?かっこいい名乗り方?」

「それ」

「えっと、名前は?」

「夢野 莉愛、7歳、好きな食べ物はハンバーグ。好きな本は幸福な王子。自己犠牲?とても美しくて悲しい所が好きなの」

「なるほど。ならば……博愛の王子!夢野 莉愛!ってのは?博愛ってのは、確か多くの人々を愛する?あれ?等しく愛するだっけ?まぁ、そんな感じの意味」

「かっ、かっこいい……博愛の王子」


 莉愛は静かに頬を赤らめ、影響されてはいけない二人に影響されていく。


「やってみな」

「はっ、博愛の王子!夢野 莉愛……」


 莉愛は少し恥ずかしそうに決めポーズを取る。

 律とポム吉は優しく微笑む。


「良いね」

「かっこいい!」

「えへへっ」


 莉愛は嬉しそうにし、すぐに思い出したかのような表情をする。


「律は人間?」

「えっ?人間だよ。隣のこいつはぬいぐるみだけど」

「やっぱ、人間って羽根がないんだね。本とかに出てくる人間は羽根がないから、薄々気付いていた」

「こっちこそ聞きたい。莉愛は人間?」

「多分人間。けど、生まれつきお父さんと似たような羽根がある。片方小さいけど」

「もしかして……君は神域の中で生まれたのか?外の世界を知らないのか?」

「神域?外の世界は知らないわ」


 律は莉愛と言う存在におったまげた。

 ラルス同様羽根が生えており、ラルスの娘だと言っている。

 神域の中で生まれ育った少女に、どう接していいか分からなくなった。


「外の世界は人々が何万何億人も居るんだ。ここにはないような物が沢山ある。美味しい食べ物、面白い本、心躍るような物が沢山あるんだ。俺はその世界から来た。そしてその世界に戻るつもりだ」

「私も行きたい。外の世界を見てみたい。ずっと思っていたの……扉の外には何が待っているんだろって」

「扉?」

「お父さんが外の世界に行く時、必ず通る三階の扉。けど、三階は行くなって言われてるし、扉には鍵が掛かっている」

「それ!それを教えて欲しい!鍵の場所とか分からないか?」


 律が莉愛の話に食い付いた。

 扉、三階、鍵、脱出へのキーワードが沢山出て来る。


「分からない。けど、立ち入り禁止の地下室が怪しい」

「それだ。地下室だ。なぁ莉愛、本当に外の世界に出たいか?」

「出たい。一度で良いから見てみたい」

「ならば反抗期という名の宣戦布告をしよう。俺が莉愛を外の世界に連れ出してやる」

「ありがとう律」

「よろしく莉愛」


 律と莉愛はポム吉の頭の上で握手をし、意気投合する。

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