第20話『愛と狂気③』
動画を見終えた瑞希は、訳が分からないままパニックになっていた。
冷静になろうと、情報をメモに整理するが、落ち着くことが出来ない。
「じゃあ、僕があの場に居たのは?結愛が原因?結愛は僕の家族を殺し、僕を神域まで無理やり連れて来た?耳を切ったのも、手錠を掛けたのも結愛だった」
警察はパニック状態の瑞希にメモを渡す。
『動画内で君は、耳を切られた後も結愛の言葉が聞こえていた。本当は聞こえるんじゃないのか?』
瑞希はそのメモを見て、ヘッドホンを外して耳を澄ませる。
しかし、音らしい物は何も聞こえてこない。
「いいえ、聞こえないです」
「そうか」
警察が再びメモを取る。
『カメラで撮影したのは君か?それとも結愛か?分かるかい?二人にはカメラの位置が分かっていないように見えたけど』
警察の質問に対し、瑞希が首を横に振る。
「分からない」
瑞希の目は虚ろで、何も考えれないような表情で自分の手錠を見つめている。
それと同時に、何か考えているように見えた。
* * *
結愛は瑞希と別の場所で取り調べを受けていた。
手錠を掛けられたまま、中年の警察と居る。
「私が……瑞希の家族を殺し……瑞希を神域に連れて来た……耳がないのも手錠が掛かってるのも、記憶喪失なのも私が原因だった」
「そう言ってるだろ?カメラの動画見たろ?あれが全てを物語ってる」
「そんな」
警察は偉そうにし、結愛を見下ろしている。
そして、酷く落ち込む結愛を見てニヤッと笑う。
「けど……記憶喪失を利用して罪を軽くすることが出来るかも」
「でも……」
「そしたら、また瑞希君と通常の生活に戻れる。そうしたいだろ?」
「はい……そうしたいですけど……瑞希は私のことなんか……」
結愛が涙目で、後ろめたそうにする。
警察は席を立ち、そんな結愛の背後にゆっくりと足を運ぶ。
「大丈夫、彼は記憶喪失のせいかそんなこと気にしていらしい。さっき小耳に挟んだ」
「本当?ですか?」
「本当だとも」
警察はそう言って結愛の肩に手を置き、服の中に手を入れた。
ゾッとした結愛は、咄嗟に手を振り払った。
「きゃぁ!何してるんですか!?」
「罪を軽くしてやるって言ったんだ。黙ってろ」
態度が一変した警察は、結愛の口に手を当て、そのまま床に押し倒した。
結愛に馬乗りし、手錠をの付いた両手を頭の上に回す。
「悲鳴を上げるな。上げたら普通の生活には戻れないからな?瑞希君の為にも大人しくしてろ」
「んんん!!」
結愛は口を抑えられ、声を上げることが出来なかった。
神域に居た化け物とは別の恐怖がある。
警察が結愛の服を脱がせ、ズボンを下ろした。
「喋るなよ」
「んんんんんー!」
警察がことを始めようとしたその瞬間、何者かが警察の首を鎖で縛った。
「うううっ!!はなっ……」
「みっ、瑞希……」
警察の首を鎖で縛っているのは瑞希だった。
手錠の鎖を使い、警察の首を締め上げようと力を入れる。
「わるかっ……た」
警察が涙目になり、瑞希に命乞いをするように懺悔の目を向ける。
一瞬、離してあげようか戸惑った瑞希だったが、下着姿の結愛を見てその気が失せた。
そのまま警察の首を絞め、首を捻り曲げた。
「はぁはぁ……もう大丈夫」
警察を絞め殺し終えた瑞希は、震えた手で結愛の服を拾い、結愛に羽織らせた。
結愛は震えたまま服を着て、瑞希にゆっくりと抱き着く。
「怖かった」
「逃げよう。神域内に逃げよう」
瑞希の言葉を聞いた結愛は、震えたままメモを取り、泣いて苦しそうにした。
『私貴方の家族殺した、神域に連れて来た、耳を切った、手錠を掛けた』
震えた手で書かれたメモを見て、瑞希は虚しい表情を浮かべる。
「知ってる。けど、僕は結愛が大事だ。記憶がないってのもあるけど、今の僕は全部許せる。結愛と一緒に居たい」
瑞希の優しい言葉を聞いた結愛は、泣いたまま強く抱き着く。
絡み合うように抱き締め合い、お互いを深く愛しているようだった。
「神域の化け物を皆殺して、僕ら二人の世界を作ろう。そこなら誰も追ってこない」
「それ、賛成」
二人はしばらくの間抱き締め合っていた。
お互いの震えがなくなるまで、深く長く体をくっ付けていた。
「そろそろ行こう。警察が追ってくる」
「うん」
二人は警察署を出て、神域のある壁の方へ走って行く。
しかし、パトカーと共に警察が二人を追い掛けて来るのは当然のことだった。
「あともう少し!」
二人はブカブカの靴を履いたまま全力で走った。
「やばい!神域に入られる!」
「やむを得ない!発砲を許可する!神崎 結愛目掛けて発砲を許可する!」
「ですが!?少年に当たったらどうするんです?」
「構わん!神域に入ればどうせ死ぬんだ。それに奴も人を殺めた」
神域までもう少しと言うところで、警察が銃を発砲した。
二人は弾丸の雨の中、神域のまで手を伸ばす。




