表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の神威  作者: ビタードール
0章
17/64

第16話『憤怒の魔神④』

 ガラスに入れられた結愛は、徹底的に動きを拘束されている。

 瑞希はそんな結愛をすぐに助けようとする。

 リボンを解き、ガラスの箱を開け、苦しそうにしている結愛から目隠しと猿轡を取り、縛っている紐を解いた。


「だ、大丈夫?」

「何でよ」


 結愛は泣きながらそう言った。

 嬉しさと苦しさが混ざった複雑な表情で涙を流している。

 瑞希は困ったように手を伸ばすが、すぐに引っ込めてバックからメモ帳を取り出す。


「メモ、じゃないと伝わらない」


 瑞希がそう言ってメモを渡そうとした瞬間、結愛が泣いたまま抱き着いてきた。

 瑞希は更に戸惑い、恥ずかしそうにして手を迷わせている。

 このまま抱き締めていいか、迷いに迷っている。


「私は貴方を助けなかった。それどころか瑞希が勇気を持って伝えてくれた気持ちを安易に受け取った。それなのに……何で助けたのよ」


 結愛は耳が聞こえない瑞希に抱き着いたまま、気持ちを吐き出すようにそう言った。

 瑞希は結愛が何を言っているか分からないまま、ドキドキしていた。

 そして、再び心の中に天使と悪魔が現れた。


「ほらね!彼女を助けて良かったでしょ?ハグと言うなの大サービス付き!ナイス瑞希!」


 天使が喜びながら瑞希とハイタッチする。


「負けた負けた。確かに人間は疑うより信じるが如し……ということで瑞希、その子に気軽なく抱き着け。そしてそのまま襲っちゃえよ」


 悪魔が静かに言う。


「瑞希はシャイボーイよ?そんなことする訳ないじゃん。このバカ悪魔!」


 天使がおちゃらけたように言う。

 しかし、瑞希は有り余っている手を結愛の腰の元で震わせている。


「そうだ!やれ!瑞希!」

「ちょっと嘘でしょ瑞希?抱き着くのはまだしも、襲っちゃダメよ?」

「うるせえ!女に俺達男のことは関係ないだろ!黙ってろバカ天使!」

「何ですって!瑞希はあんたみたいな男じゃないわ!」


 頭と心の中で天使と悪魔が言い争いをする。

 しかし、瑞希は天使のことを手錠で縛り、悪魔と握手をした。


「うそっ!?」

「分かってるじゃねぇか瑞希!」

「ありがとう、悪魔ちゃん」


 天使が困り、悪魔はニヤリと笑う。

 同時に天使と悪魔が煙になって消えた。


 決心した瑞希は、結愛の気持ちを知ろうともせず、手を結愛に腰に回した。

 しかし、瑞希が腰だと思っている場所はお尻だ。


「そこお尻なんだけど……」


 結愛は困ったように頬を赤くし、ゆっくりと瑞希から離れる。

 しかし、瑞希は悪魔の誘いに乗ってしまっている。

 離れる結愛の手を取り、震えたまま抱き寄せる。

 結愛は瑞希き抱き寄せられたままメモを取る。


『私は貴方を助けなかった。好きって気持ちも拒んだ。なのに、何で助けてくれたの?』


 震える二人は、ガラスの箱の中でふわふわとした不思議な気分だった。

 眠りに着く数秒前のような妙な気分だ。


「助けたかったから」


 瑞希が穏やかな表情のままそう言うと、結愛がほんの少し笑った。


「じゃあさ、この地獄のような世界から出れたら……付き合おうか」

「メモで、お願い」


 結愛が言った一言に、瑞希が反応する。

 口の動きで何かを言ったのが分かっても、内容までは分からない。

 言葉を伝える為、結愛がメモに手を取ろうとする。

 しかし、その時遠くから猿ちゃんが来る音がした。


『来た!化け物が来た!』


 結愛が瑞希に見せたメモの内容は、先程伝えたかったことではない。


「ベッドの下に隠れよう」


 二人は机から椅子に降り、ベッドの下に隠れようとする。

 だが、結愛が足を止めて近くに落ちていたマッチ箱を拾った。


「早く」


 瑞希はモタモタしている結愛を見て焦ったように言った。

 結愛は拾ったマッチで火を付け、椅子や近くのゴミに火を付けている。


「何やってんの!?」


 瑞希はそう言って、結愛の手を取ってベッドの下に隠れた。

 椅子やゴミや紙が燃え、徐々に火が広がって行く。


「なぜあんなこと?」


 ベッドの下で、瑞希が小声で言った。

 結愛はそんな瑞希を横目で見て、首を傾げた。


『化け物のお城を燃やす』


 そう書かれたメモを見た瑞希は、困った表情を浮かべる。


「そんなことしなくても……」

『奴らは私や瑞希を死ぬ程怖い目に合わせた。やり返して当然だと思わない?それに火を付ければ私を探す暇はない』

「そ、そう」


 瑞希は困ったように返事をし、息を潜める。

 その瞬間、猿ちゃんが扉から出て来た。

 居なくなった結愛と燃えている部屋に気付き、慌てたように毛布を叩いて、火を消そうとする。


 瑞希と結愛は、その隙に猿ちゃんが開けた扉からこっそり抜けようとする。

 しかし、偶然的に猿ちゃんが振り向いた。

 猿ちゃんは瑞希と目が合い、一瞬動きを止めた。


「やばっ」

「逃げるよ!」


 結愛が瑞希の手を取り、部屋の扉を出て行く。

 一瞬、火を消すのと瑞希を追うので、どちらを優先させるか迷う猿ちゃんだが、すぐに瑞希を追うことを優先した。


「キィィィ!!」


 猿ちゃんは羽根を広げ、狼のような手足で瑞希と結愛の背後を走る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ