第12話『強欲の魔神⑤』
ビルに来ていた瑞希は、スコップを武器として構え、奥へ奥へと進んでいた。
「取り敢えず、このビルから出なくては」
瑞希は暗いビルの中を懐中電灯で照らし、ゆっくりと二階への階段を探していた。
「あった!階段だ!」
三階から二階への階段をゆっくりと下がる。
しかし、途中で黒い壁が道を塞いでいた。
「何だこれ?なぜ壁なんか?」
懐中電灯で壁を照らすと、その壁の正体が分かった。
その壁は蜘蛛の塊で出来た物だった。
懐中電灯の光で照らされた蜘蛛達は、朝の日差しを眩しがる子供のように手足を動かした。
「ごっ、ごめんなさい。お昼寝の邪魔して」
「「ウシャアァァァァ!」」
「わぁぁぁ!本当にごめん!!」
瑞希は慌てて道を引き返す。
しかし、後ろから先程の蜘蛛がぞろぞろと着いて来る。
「なんてこった!やっぱ上がり続けるしかない!」
しばらく走り、部屋のドアをを締め、息を乱したまま四階への階段を登る。
しかし、四階にも少なからず蜘蛛が潜んでいた。
四階に上がってすぐ、蜘蛛が歩いていたのが見えた。
懐中電灯の光を手で覆って調節し、バレないように蜘蛛の傍に近付く。
そして、後ろから思いっきりスコップで叩き潰す。
「ウシャアァ……」
「はぁはぁ」
瑞希はスコップを引きずって、ひと休みするように近くのタンスによし掛る。
「疲れた」
ため息をつき、タンスの引き出しを漁る。
そこには、ノートとペンチがあった。
なんの気もなしにそのノートに目を通す。
ノートの表紙には、持ち主の名前と『俺の生存日記』と震えた手で書かれた文字がある。
『一日目、東京に魔神が現れて一週間は経つ。外で軍や警察が戦う音がなくなった。奴らは何なんだろう……宇宙からの侵略者か?はたまた人工的に作られた者か?それと人類の知らない違う世界から来たのか?考えれば考える程恐ろしい。
三日目、お腹が空いた。とうとう助けが来ない。きっと俺は死ぬ。家族に会いたい……来月には初の武道館ライブも控えていたのに……。
七日目、西園寺.ミシェルと名乗る男が不思議な力を使って魔神の相手をしている。彼は天からの救世主だろうか?』
これはノートの大まな内容だ。
薄汚れていて読めないページもあるが、読めるページだけ読み進めた。
「魔神?東京って……今この場所のこと?」
瑞希はノートを引き出しに戻し、ペンチをポッケに入れた。
一休みした瑞希は、ほんの少しモヤモヤを残したまま階段を探す。
「シャアァァ!」
道中で出会う蜘蛛を一匹一匹丁寧に叩き潰す。
そして、とうとう階段を見つける。
* * *
階段を登ると、そこは屋上だった。
蜘蛛は一匹も居ないように見えるが、妙に薄ら寒く、ビル同士の奥上が繋がっている。
「結愛が向かったのはあっちだ。こっから崩れてる街並みが見える……もう少しだ」
瑞希の目先には、結愛が向かった荒廃した街並みが見えていた。
星々に照らされている世界とは別の世界に見える。
その別世界に向かって、瑞希は足を走らせる。
「うそっ!?」
しかし、ビルとビルを繋ぐ橋を渡っている時、その橋が崩れ落ちる。
瑞希は橋の奥に向かって手錠を投げ、がっちりと取っ手に引っ掛けた。
「ふぅぅ。焦っちゃったよぉ」
長い息を吐き、ふと下を見下ろす。
すると、そこには体中に目玉が生えている巨大蜘蛛――蜘蛛ちゃんが壁に引っ付いていた。
橋が崩れ、瓦礫が蜘蛛ちゃんに当たった為、眠そうにしていた体中の目をパッチリ見開いた。
「ごっ、ごめん。起こす気はなかった」
「ヴシャァァァァ!」
「うわあぁぁぁ!!本当にごめん!」
瑞希は悲鳴を上げ、手に持っていたスコップを蜘蛛ちゃんの目に突き刺した。
蜘蛛ちゃんが怯んだその隙に、手錠を一回引っ張り、すぐに屋上に上がる。
「ヴヴシャァァァァ!!!」
瑞希は全力で走った。
腕を振り、足を伸ばし、蜘蛛ちゃんが吐き出す糸玉を避けながら屋上を駆け抜けた。
蜘蛛ちゃんの体重で、ビルが屋上から激しい音を立てて崩れ去って行く。
瑞希の足元を揺るがしながら、蜘蛛ちゃんが涎とうめき声を吐き出して手足を伸ばす。
「行き止まり!」
ビルの屋上は行き止まりだった。
目の前に広がるのは、結愛が向かって行った荒廃した世界だ。
しかし、奇跡的に電線のような糸が、屋上から荒廃した世界の建物と繋がっている。
だが、下に落ちれば確実に死ぬ高さで、電線は細すぎて渡るのは難しい。
瑞希はその電線に飛び付き、手錠を電線に回し、右手で外れてる方の手錠をしっかりと掴んだ。
電線の上をスキーリフトのように、鎖を擦りながら進んで行く。
瑞希は数秒で奥の家に着いた。
だが、蜘蛛ちゃんもその糸にしがみつき、瑞希の元まで来ようとする。
「僕は結愛に会いに行く。君はここでさよならだ」
瑞希はポッケからペンチを取り出し、ペンチを使って腐りかけの電線を切った。
蜘蛛ちゃんは電線にぶら下がったまま下に落ちて行く。
運が悪いことに、蜘蛛ちゃんが落ちた場所は、尖った瓦礫がある場所だった。
「ヴシャァァァァァァ!!」
蜘蛛ちゃんは瓦礫に腹が刺さり、手足を動かして苦しみ悶える。
死ぬに至る傷ではないが、瑞希を追うことは出来ないだろう。




