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004 今日から◯◯

よろしくお願いします。

「ナンジャコリャあっ!」


 俺が入室するや、すでに登校済みのクラスメートたちから一斉に「ふじやんおめでとー!」と声を張り上げられた。慌てて目が泳いだ先の黒板を見て、腹の底から叫んでしまった。

 そこには、”祝ふじやん”とか”俺が好きなのはオマエだけ”とか”リア充もげろ”とか”末長くお幸せに”とか”結婚式には呼んでね”とか”一点ものにつき返品交換は受け付けません”とか”キューピッドはワタシ”とか、顔から火が出るような文章がデカデカと踊ってていた。うわっ、さっきのセリフ、このクラスのヤツにも聞かれてたんかいorz。おい最後の、これ夏奈だろ。字に見覚えあんぞ(怒


 昨日の入学祝い黒板アートとまではいかないが、花やハートが水色やピンクや黄色のチョークで彩られ、大小様々な書き込みがされている。まるで結婚式二次会の寄せ書きメッセージボードじゃねーか!(去年招ばれた従姉妹のお姉さんの結婚式で、こんなのがあったわ)


 今日は通学途中にあんなイベントが発生したため、周囲の目を避けて15分ほど時間を遅らせて予鈴ギリギリに入室したんだけど、この短時間でこのクオリティ。ウチのクラス、入学二日目なのになんて団結力だ。黒板を埋め尽くすほどのお祝いの言葉に、恥ずかしさはあるが、怒るに怒れない。逆になんか嬉しさすら感じる。念のためスマホで証拠保存は図っておこうか。ま、記念だな。


 今回は、馬鹿騒ぎできるネタが俺だったってことで、陥れられた訳でもないから、矛は収めよう。だが、夏奈オマエは駄目だ。なんかやり遂げた感出して他の女子と談笑しているが、俺がこれまで散々蒙ってきた被害(大体が羞恥系)は忘れてネェ。俺に隙を見せた瞬間にブスっと千年殺しをお見舞いしてやる。6年の時、便秘気味なんて話を他の女子と話していたのを小耳に挟んでいたからな。暫くの間クソする時は、苦しみ後悔しながら俺の怒りを思い知るがいい!


 ・・・などと実際には出来もしない仕返しを脳内妄想することで溜飲を下げ、席に着く。え、黒板?なんか俺が必死に消すのも癪だから無視無視。え?誰も消さないの?本鈴鳴るよ?ショートホームルーム始まるよ?おーい。

 俺の周りには、冷やかしたり真相を知ろうと何人ものクラスメートが群がるが、散れ散れ。あ、本鈴鳴った。

 みんなが席に着き出しやっと落ち着ける。すると、すでに前の席に着席している琵琶島くんが振り返って挨拶をしてくれた。

「ふじやんおはよ。なんだか凄いことになってるね?おめでとうでいいのかな?」

 困ったような笑顔を投げかけてくれた。大変だね、と俺の心境を察してくれている。尊い。

「おはよう、琵琶島くん。おめでとうと言われると、なんか複雑。でもありがとう」

 彼とは、昨日の放課後に趣味のことなんかを話す機会が少しあって、俺のことをふじやんって呼んでくれるようになった。うん、嬉しい。今日はどうしよう?昨日はたけちゃんもいたけど、確か今日は剣道の道場があったはず。和歌菜と一緒に帰らないとかな?あいつの予定も確認しておくか。


 そこに高橋先生が入室してきた。黒板をみて一瞬ギョッとしたが、そこは冷静に大人の対応。日直に黒板を消すように指示をだす。多くの生徒が消される様子をみて、名残惜しむようにため息をついている。

 黒板が綺麗になっている間に、先生が俺に話しかけてきた。

「ふじやん君、職員室でも話題になっていたわよ」

 おふぅっ、マジか。生徒だけでなく先生方にまで知れ渡ってしまった。

 先生の言葉に教室がドッと湧く。どうやらあの場には、徒歩出勤の先生もいたらしい。てか俺藤村ですよ。ふじやんはあだ名ですよ?まさか一日で、ふじやんの名が先生にも定着してしまった。


 しかしそこで調子に乗った、ある女子生徒が高橋先生に問題発言をしやがった。

「せんせー、先越されちゃいましたねー(笑」

 昨日の給食の時間、教室で先生も一緒に食事をするんだけど、イキった感じの女子グループから際どい質問を受けていた。どこ住んでるんですかとか出身は?といったものから、L○ne教えてくださいよー?結婚は?彼氏は?といったプライベートなものまで。

 高橋先生は質問をうまく捌いていたが「今は仕事が充実しているから彼氏を作る(そういった)時間ないかな」と答えたことで、現在お一人様であることがクラス全体に晒されてしまっていた。


 間もなく日直が黒板を綺麗にし終え、先生は張り付いた笑顔で当日の連絡事項と、提出物の回収を進めて行ったが、口元が引きつっているので作り笑顔なのはバレバレだ。あの女子の発言は相当に先生の心をえぐったみたいだ。

 SHRを終え、先生が教壇を降りる時に、なぜか俺と目が合いニッコリと微笑まれた。

 ん???祝福してくれてんの?


 笑顔の理由は、午後のロングホームルームの時に明らかになった。

 このLHRの時間を利用し、中学生活において理解しておかなければいけない大事なことを学ぶという。重要な箇所を生徒手帳の項目から抜粋して、高橋先生が、生徒を指名し(あて)て読ませている。内容としては、制服や頭髪、自転車通勤や携帯電話に関するルールなど。

 数名生徒が音読の後、俺が当てられたところは、[生徒規則 その他]という(ページ)だった。そこには飲酒・喫煙などの触法行為への注意喚起の他に、異性との交際について明記されていた。俺はここにきてようやく、朝の先生の笑顔の意味を悟った。

 生徒手帳から視線を戻し先生に向き直ると、朝の作り笑顔とは違う、満面の笑みをしたアラサー教師がいた。声を潜めてクスクス笑っている奴もいる。なんたる意趣返し!?俺、被害者じゃん?悪いのはあの女子生徒じゃね?


 今日は、早朝の告白に始まり、休み時間には大勢の生徒に質問されたりネタにされたりもして、マジで精神的に疲労困憊。でも和歌菜が俺の彼女になったことを思うと些細な問題。登校時に頭によぎった言い知えない不安感は消えて、漠然とした安堵感を覚える。中学に上がったばっかりだけど、青春時代を生きてるなって実感できる凝縮された一日だった。



っしゃー!今日から彼女持ち(リア充)じゃぁー!

お読み下さいましてありがとうございました。

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