表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

003 羞恥

よろしくお願いします。

 あんな夢を見たあとでも、朝食は食べるし出るもんは出る。俺は布団の中で一頻(ひとしき)り叫び、気を落ち着かせてベッドから這い出す。洗面所で顔を洗い爆発した頭を整え朝食や用足しや歯を磨いたあと、リビングで情報バラエティ番組を見ながら、通学の時間まで暇を潰している。でも何にも頭に入ってこない。頭の中を駆け巡っているのは、今朝みた夢のことばかり。


 インターホンが鳴った。


「和歌菜ちゃん迎えに来たみたいよ。ぐでーっとしてないで早く出発しなー」

 母ちゃんが台所から俺に伝えてくる。聞こえてるっつーの。


「はいはい、行ってきまーす」

 腰が重い。気合でソファから立ち上がり母ちゃんに返事をして、ライトダウンに腕を通しスクールバッグを肩に担いで玄関に向かう。

 ドアを開けると案の定、俺と同じ中学の女子スクールブレザーを纏った(といっても、春先なのでまだ朝晩は冷え込み肌寒いためハーフコートを上から羽織っている)女の子が俺を待っていた。


「おはよう、待たせてゴメンな。じゃ行こうぜ」

 俺を迎えに来てくれた女の子に、いつものように挨拶をして歩き始める。この女の子は隣の家に住んでいる同級生の安田和歌菜。いわゆる幼なじみである。そして俺の初恋の女の子でもあり現在進行形で惚れている相手だ。お節介で世話焼きなクラスメートから聞いた噂では、和歌菜も俺のことが好きらしい。本人に確認はしない。産まれた頃から一緒に育ち、この付かず離れずの距離感が心地いいし何よりも楽なんだ。


 お隣さんってことで当然、和歌菜とは小学校時代から一緒に集団登校していて、中学も同じ市立のトコロだから、その流れでまた一緒に通学している。

 自転車通学も可能だけど、昨日のH/Rで受け取った自転車通学許可書を提出して自転車の泥除け付近にシールを貼らなければならないんで、今日は俺たち、徒歩で通学している。でも通学時にはヘルメットを着用する規則があってさ、そうなると俺のゆるふわカールショートがキモペタンコヘアーになってしまうんだ。寝坊でもカマさない限り、俺が自転車で通学することはないと思う。だから一応念のため、許可証は提出する予定だけどね。


 和歌菜はどうなんだろう?運動部にでも入って朝練が始まったら自転車通学に変わって、こうやって俺が和歌菜と一緒にいる時間が減ってしまうんだろうか。小学生だった時は2クラスだったが、別々のクラスだったのは2年と3年の二年間だけだった。中学に上がって初めの学年だけど、すでにクラスは別々である。クラスも5クラスあるから今後も同じクラスになる可能性は高くはない。今朝の夢のコトは少し薄れてきたけど、和歌菜のことを考えていると、なんだか胸の中心が重苦しくもやもやしてくる。学校に寝取られた気分だ。ま、ゆーてもお隣さんだし、学校以外でもなんやかんやで交流あるんだけどね。


「ゆーじんどしたの?辛そうだよ?」

 和歌菜が心配そうに訊ねてきたけど、お前と一緒に通学できなくなるかも知れないことや、クラスが別々だったことを考えて沈んでたとは言えない。そうそう、和歌菜は俺のことをふじやんじゃなくてゆーじんって呼ぶ。


 うんちょっとねー、なんて曖昧に返事してたら話題を変えてきた。

「あ、そう言えば夏奈が言ってたんだけど・・・」

「夏奈?」

 夏奈ってのは、和歌菜の小学校のバドミントン部時代からの友達。当時ペアを組んでたからカナカナコンビとか言われていた。ことあるごとに俺と和歌菜の関係を邪推してくるし、自ら情報通を自称して俺の言動を逐一和歌菜に報告するような、そんなお節介で世話焼きなウザいヤツだ。顔はまあまあだし(和歌菜や琵琶島くんには敵わないけどな)、スポーツも勉強も万能だから、小学校時代は、あいつが自然と学年の中心的存在だった。俺は苦手だったけど。進学して和歌菜とはクラスが別だったのに、あの女とは今年一年間同じクラスでやっていかなければならなくって、甚だ(チョー)遺憾だ。あいつの名前を聞いただけで、また気分が落ちていく。


「・・・昨日、女の子みたいな男子と手を取り合って、赤面しながら見つめ合っていたってホント?」

「ふぁーっ?そっそんなことあるかぁーっ!」

 あ、変な裏声出た。夏奈、マジ◯す!なんなのアイツ。和歌菜に変なこと吹き込むんじゃねーよ!いや、握手したのは間違いないし、その時琵琶島くんの手の感触にドキドキしてしまったのも、全くの出鱈目じゃないけど、悪印象操作すぎる。アイツの目はBLフィルターでもかかってんのか?


「ゆーじん動揺半端ないんだけど?夏奈の大袈裟な冗談かもって思ってたんだけど、もしかして()()なの?えっ?・・・複雑な気分なんだけど、・・・私、ちゃんと応援できるかな・・・。えっ、どうしよう・・・。あれ、おかしいなぁ・・・」

 辿々(たどたど)しくうろたえるように話す和歌菜に視線を向けると、色を失ったような顔をして目尻に涙を浮かべていた。なんとか笑顔を作ろうとしているようだが、唇が震えているのか口元が引きつっている。そんな様子を俺に見られたくなかったのか、和歌菜は歩調が遅くなり目を伏せてしまう。

 クソッ、夏奈のヤツ。和歌菜を泣かせやがって。あとでヒーヒー鳴かせてやる!いやそうじゃないのか。これまでのことを含め、俺の煮え切らない態度が和歌菜に誤解を生ませ、涙を流させてしまったんだ。


 深呼吸をする。さっきまでの荒ぶっていた状態が幾分おさまった気がする。横にいる和歌菜は、肩を震わせながら萎縮がちに恐る恐る俺の方を見つめてる。あー、俺はこんなにもこいつを不安にさせてしまっていたんだな。

 俺は若菜の手をとって立ち止まると、意を決して言葉を紡ぐ。


「和歌菜、俺が好きなのはお前だけだよ」


 なんか、ラノベのタイトルみたいな告白になってしまったが、これが今俺ができる精一杯の答えだ。

 俺たちの間は一瞬空気が張り詰めたが、俯いたままの和歌菜がもう片方の手を俺が握った手に重ねる。

「私もゆーじんだけ」と胸元に引き寄せギュッと握ってくる。俺の手の甲には彼女から込み上げ溢れ出た涙がこぼれ落ちていた。


 和歌菜との付き合いは、物心つく前を含めれば今年で13年目だ。気がついたら好きになっていた。何年越しかわからないけど、その気持ちを漸く伝えることができた。その安堵感もあって、未だに小さく震えている和歌菜を抱き寄せるため、俺は掴まれてないほうの腕を彼女の肩に添えたその時、周囲から歓声と拍手が沸き上がった。


???

あ、ここ天下の往来だった。しかも多少の距離ソーシャルディスタンスはあるけど俺たちの前後には、同じ学区の同級生や先輩たちが自転車や徒歩で通学していた。周囲が聞き耳を立てているのにも気づかず、入学二日目の朝っぱらから告白ブチかまして成就してしまった。


うわ、恥ずい。俺たちは暫くその場に歩を止めたまま、冷やかしたり肩を叩いて祝福をいって通り過ぎていく彼らを見送っていた。そんな彼らの後ろ姿の中に、いそいそと歩む夏奈らしき人物の後ろ姿が俺は見逃さなかった。



てか、あいつスキップしてね?

※ふじやんの住む世界にコロナウイルスは存在しません※


お読み下さいましてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ