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026 citrus(百合はないよ)

よろしくお願いします。

 ふー、食べた食べた。お腹いっぱい。感想としては、すげー可愛かった。昼飯も、おーじママも。12時ちょうどにお弁当を持ってきてくれたんだけど、出迎えたら玄関に美人さんが立っていて、俺もたけちゃんも一瞬言葉を失ったもんな。

 俺たちの年齢を考慮したって、ウチのかーちゃんとそう歳は変わらんはずなのに・・・。流石に『総司くんのおねえさんですか?』って間違えるほどじゃなかったけど、それでも二十代にしか見えんかった。こういうのなんて言うんだっけ。そう美魔女だ。

 で、昼飯はおーじママも交えて一緒にたべたんだけど、なんだか『おばさん』って呼ぶのが悪い気がしてさ。会話の流れで名前を教えてもらって、俺もたけちゃんも名前呼びさせてもらった。ちなみに『茉莉子(マリコ)さん』ね。

 用意された7箱の紙製の弁当箱(クラフトボックス)を開けると、可愛らしい一口サイズの料理が並んでいた。彩り鮮やかな手鞠寿司をはじめ、揚げ物をはじめとした数々のお惣菜に食指が動く。箸を進めながら尋ねたら、ほとんど手作りだって、やべえ。

 たけちゃんは会話の流れのなかで、調子に乗って「むっちゃキレイですね。女優さんだったりしたんですか」って質問してた。もちろん違ったんだけど、大学在学時代にミスキャンパスのグランプリに選ばれたと答えが返ってきたときは、俺たちも納得するしかなかった。おーじだけは居心地が悪そうだったけど、そんなの知らんw

 そんで、会話は標準語なんだけど、イントネーションの端々に抑揚が見え隠れしていて、出身を質問したところ、関西女子だった。(未来の)社長夫人で、ミスキャンパスに選出されたこともある美人で、料理も上手くて、方言女子でって、どんだけ属性持ちやねん。


 〆のデザートは、今ではメジャーになった柑橘類のデコポンだった。

「確か、不知火(シラヌヒ)の糖度が高いヤツをデコポンっていうんだよな(※1)」

「不知火って、なんか心をくすぐられる名前だね」

 なんて会話を交わしながら食べていると、不可解なことに気づいた。


「二人とも種出してないけど、飲んでんの?」

 そう、俺は口の中で探りあてた種を剥いた皮の上に出してんだけど、二人は出してない。

 すると茉莉子さんが、『当たり』だと教えてくれたんだ。もともとこの品種は種なしなんだけど、たまに種が入っていることもあるんだって。本来食べずらいから『外れ』なんだろうけど、『当たり』と言われると嬉しくなっちゃうね。


「せっかくだし、植えてみるか?」

もともと計画では、時期を見て畑をする予定だったけど。

「果物って、野菜と違って収穫までかなり時間かかるんじゃなかったっけか?モモクリ三年って言うしさ」

「まーいいんじゃない? 発芽実験ってことで。将来ウチでデコポン食べれたら嬉しいし」

 なにより俺、『当て』ちゃったわけだし、もうこれは育てて収穫するしかない。


 茉莉子さんが後片付けをしてくれている間、俺たちは休憩がてら、座布団に横になりながら柑橘類の育て方をスマホで調べてる。

「あー、品種にもよるけど種から植えると、実が生るまで10年とかかかるんな」

「発芽率は高いみたいだね。乾燥にだけ気をつければ、9割以上の確率で芽を出すみたいだよ?ふじやん、種何個ある?」

「よいしょっと、えーっと、11個だな」

 横になっていた体勢を持ち上げて、種を数えた。9割以上ってことは9本から10本くらいは芽がでるんかな? ちょっと小っちゃい種もあるから、発芽率はもう少し低いかもしれない。

「ここじゃ、地植えはだめだな。霜が降りるし、雪も積もるからな。柑橘(みかん)系は、常緑樹だから寒さに弱えーんな」

 調べてみると色々分かった。まず種を植えるなら、この時期は特に問題ない。もっと温かくなったほうが種植えから発芽までの日数は短縮できるみたいだけどね。植える場所は地植えではなく、台風の時期や冬季に室内へ避難できるように、プランターや植木鉢がいいみたいだ。土は弱酸性。ホムセンなんかで『柑橘の土』を買ってくれは失敗は無いらしい。水やりは、土が乾いたらたっぷりあげて、夏季は毎日、冬季は土の状態をみながら1~2週間に1回だって。肥料は秋までは化成肥料を2~3カ月おきに、冬は12月ころに有機肥料の油粕を適量あたえる。んで、柑橘類の大敵であるアゲハ蝶の幼虫対策として、害虫退治用のクロチアニジン溶剤のスプレーを用意しておけば一安心、と。


「さっき収穫まで10年とか言ったけどさ、実生(みしょう)の苗でも、成長を促進させることはできるみたいだな。ああ、実生ってのは種から育った苗のことらしいぜ。で、普通は接ぎ木っつって、害虫や病気に強い台木に、育てたい苗の茎を切って貼り付けると、一週間くらいでくっついて強い苗になるんだわ」

 たけちゃんの説明によると、野菜の苗で不通に用いられている技術なんだって。果物に関しては、収穫実績のある柑橘類の枝に2年目以降の実生苗を高接ぎ木という手法で接いであげると、より安定して結合し成長も促してくれるとのこと(※2)。


「なるほどね。まぁ、収穫は長い目で見て、木の成長を見守るってだけでも育てる価値はあるか。いっその事、色んな果物や野菜を植えてみようぜ」

第二回異世界考察のときに、季節ごとに収穫できる果物もサーチしたことを思い出した。冬~春は柑橘類、春にはイチゴ、晩春ころにビワやサクランボ、初夏にはモモ、夏はイチジクやスイカにメロン、晩夏にナシ、秋になるとブドウやリンゴやカキが旬だと知った。あと、ハウス栽培や輸入品も含めると季節を問わず入手できる果物も多い。


「珍しい果物を育ててみたいね」

「プランターならウチのかーちゃんから、使ってないヤツをかっぱって来るわ」

「じゃ、コンポストも早めに作るか。土の違いや肥料の有り無し比較をするのもアリだな」

アイディアがどんどん出てくる。すでに茉莉子さんは片づけを終え、挨拶をして帰ってしまったが俺たちの果物栽培談義はしばらく続いたんだ。


あれ、なんか忘れてるよな。



(※1)『不知火』は品種で『デコポン』は登録商標です。糖度13度以上、クエン酸1%以下の不知火のみに使用されます。また、商標は熊本県果実農業協同組合が所有しているため、全国のJAを介さない場合、上記の条件をみたしていても『デコポン』の名前を使うことができません。


(※2)市販されている柑橘苗は、一般的に二年生のカラタチという柑橘類を台木にし、結実実績のある柑橘類の枝を穂木にしたクローン苗です。 接ぐことによって、葉で作られた養分が根(台木)に行きづらくなり、穂木の成長や開花・結実に使われるため、実生苗に比べて収穫までの年数が早まります。

 カラタチが台木に使われる理由としては、各柑橘類との親和性が高く、良質の果実が収穫でき、病気や寒さにも耐性があるからです。台木をカラタチ以外の品種にすると、樹勢や根勢、開花や結実までの期間や収穫量が変化します。

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