024 言わぬが花 異世界トイレ考察⑥
「ちょっと乱暴だったけど、日本とヨーロッパのトイレインフラ事情を考察するとこんな感じな。質問とかある?」
「さっき、ヨーロッパだとトイレ借りれないって言ってたけど、未だに中世みたいに野〇ソしてんの?」
とりあえず気になったことを訊ねてみた。
「ああ、それ厳密には『気軽に』借りれないってだけな。どうしてもヤベーときに、カフェとかに飛び込んで、注文や会計したうえで借りるんならアリらしいぜ?こればっかりは文化の違いや国民性だと思うんだけど、日本ならコンビニ入って気兼ねなくトイレ借りた後に、ドリンクやガムを購入するのが暗黙のマナーになってるじゃん?まぁ買わん時もあるけど。で、ヨーロッパだと逆で、コンビニやカフェのトイレの利用は、前もって金を払った客のみに与えられるサービスでなんだってよ。あとヨーロッパの公衆便所は、日本ほど多くないし原則有料な」
「ふーん。日本だと公園やそれに付随するトイレって、国や市町村が税金で管理していると思うんだけど、海外だと税金じゃなくって、利用料で管理してるところも多いってことかな?」
「全ての海外の便所がそうだって断言はできねーけど、便所の利用自体が有料の所は粗方その通りだぜ。ちなみに海外の公衆便所は、紙が設置されてないことのほうがデフォだから注意な。まぁ、今でこそ日本は、駅や高速道路SAなんかの公衆便所でもトイペが当たり前のように設置されてるけど、昔は施設によっては紙が常設されてなくて、トイペを持ち合わせてない人は、トイレの入り口に設置されてたちり紙の自販機で買う必要があったんだと」
おーじの問いに、たけちゃんは答える。
公衆便所にトイペが常設されてるのが当たり前と思っていたけど、昔は有料だったんね。まぁ日本でも、規模が小さな単独の公衆便所だと紙がないところも未だにあるしね。シングルで拭き心地が悪いトイペが設置されていったって、海外に比べたら恵まれてるって感謝しなきゃだな。
「質問はそんなもんかな? 第一部がケツを拭く道具考察で、第二部が日本とヨーロッパのトイレおよび上下水道インフラの歴史をサッと説明してきたんだけどさ、いよいよ第三部で異世界のトイレ考察な」
はー、やっとだな。
「転移・転生系漫画や小説って、プロローグや物話が進んでいく中で、歴史背景や文化水準について多かれ少なかれ触れてるよな。ここで二人に訊ねるんだけどよ、文化水準や社会インフラについて深掘りする作家さんとしない作家さんの違いって考えたことあるか?」
違い?あーなるほど。
「内政系だと、作家さんは深掘りするんじゃね?逆に剣や魔法で無双する系の話なら、そこまで深掘りしないと思うな」
「そうだね。内政チートがメインの物語なら、主人公に活躍させるためにも、現代よりも低い文化水準を設定して、話を深掘りするんじゃないかな」
おーじも俺に賛同した。
「二人の思った通りだと思うぜ。転生先の生活基盤を改善したり向上させたりして、主人公やその周りの暮らしが便利になって、注目されたり目をつけられたりして、物語が盛り上がるのが内政チートの醍醐味だからな。一方、無双系だと、軽く文化やインフラに触れる程度で、主人公の成した結果のみをビフォーアフターで紹介するくらいだわな。なぜなら今ふじやんが言ったように、作家さんは、剣とか魔法チートの物語を読者に届けたいんであって、大筋のストーリーに関係ない部分は深掘りしない、っていうかする必要がないんだ。無双系の作品にとって、インフラは軽く触れる程度で、特にトイレ事情なんて、ぶっちゃけどうでもいい話だろ?」
まぁその通りだけど。あれ?
「ん?じゃなんでたけちゃんは、触れなくてもいい話を今回のテーマにしたんだ?」
「ああ、それな。気になったことがあってさ。おーじは以前、物語に矛盾があると気になって筆が進まねーって言ってたろ? 俺の場合異世界系の物語を読むごとにトイレ事情が気になっちまってよ。異世界転移や転生の舞台にされてる所謂ナーロッパ世界って中世なんだわな。よう色んな物語の主人公が、口を揃えたように『中世のヨーロッパのようだ』って言ってるしな。で、中世っていうと一部・二部で説明した通りな」
あー、うん。一部も二部もう〇この話ばっかで、気分良くないわ。
「ここで、問題提起! ナーロッパはトイレットペーパーが無い疑惑!」
俺の気分なんか気にも留めずに、たけちゃんが言い切った。なんかドヤってるし。
「転生者や転移者や現地のナーロッパ人って、なにでケツ拭いてたんだろうってさ。それに言及している物語ってほとんどないんだわ。この事実について、二人はどう思うよ?」
「どう思うも、たった今たけちゃんが言った通り、深掘りする必要のない話じゃね? 読者はきっとトイレ事情なんてどうでもいいと思うんじゃん? まぁ、個人的には異世界ってことで、魔法でつくった紙がトイペとしても普及していてほしいけどさ」
「うんうん。じゃ、おーじはどうよ?」
「うーん、そうだね・・・。物語上、触れていない若しくは考えていないだけで、魔法世界なんだから、お尻を清潔に拭く快適な何かしらのモノ、もしくは洗浄する何かしらの方法があると思いたいよ」
悩みながらも、おーじは希望的発言をした。俺もその意見には賛同だ。
「なるほどな。今一度おさらいだけど、日本の漉返紙や浅草紙が書き損じの和紙の再生紙だってのは、第一部で話した通りな。当時和紙って家内制手工業や問屋制手工業、もしくは工場制手工業って感じで、手工業すなわち手作業だったんよ。和紙にも品質の良しあしがあるにせよ、もともと大量生産できない原料の和紙を使って再生紙にリサイクルするわけだから、浅草紙をケツ拭きに使える層も限られていたんだ。で、一般庶民は糞箆が使われてたってのは、さっき話したよな」
ああ、それはさっき聞いた通りだな。
「次にヨーロッパだと中世までは、紙でケツを拭くのは邪道で、海綿やその他諸々でもって、ケツを拭いていたんだ。これも説明したよな。そもそも日本の落とし紙のような拭き心地はなかったようだし。それでさ、ヨーロッパでもトイペにシフトして行ったのって、産業革命以降に手工業が工場制機械業になって紙が大量に生産できるようになった後でサ、それまではヨーロッパでも紙は比較的高価だったんよ。そして、紙から作られる本も当然高価だったんよ」
あ、たけちゃんが言いたいこと解った。
「何度も言うけど、異世界が中世ヨーロッパに似た社会水準ってのは、決まりきったことだろ? そして異世界では、本が比較的高価で入手が困難ってのもデフォじゃん? 魔法によって紙が安価に作られるような背景もないから、植物紙が大量生産されているような技術は無いって推測できんじゃね? で、紙が大量生産できないってことは、紙の価値が高いってことで、紙をトイレットペーパーに流用できないってこと。そもそもナーロッパがヨーロッパを模してるんなら、少なくとも海綿とかほかの代用品を使ってるんじゃね?」
そうそう、読者は本来、ナーロッパ世界の現地人や主人公がトイペに何を使ってるかなんて頭をよぎることすらないのが普通だけど、たけちゃんの話を聞いてると、植物紙のトイペが使われているなんて言われたら違和感しかない。魔法で大量生産できるんなら、ほんの価値はもっと低いはずだし。
「そこに行き着くと矛盾が湧いてきてよ。現代日本から転移・転生した主人公は、現地の生活水準に耐えられなくなって、便所や風呂を開発・改善するのがデフォじゃん? ついでに、もし糞箆とかで拭いてる世界なら、絶対にトイペに変えようって考えるんじゃね? でもどの物語においても便所や便器や下水にかんしては触れているけど、ケツを拭く道具に関してはノータッチな作品が大多数なんね。トイレだけ水洗化しても、使用済みの糞箆や襤褸切れはどうすんだ?流せんのか? それとも次元魔法的な感じでアナザーディメンションホールになってんのか? スライム便所だったら吸収してくれるかもしれんけど、なにで拭いてるのか、そして拭いた後のモノをどう処分してるかに触れている物語ってまずねーんよ」
そこまで話して、たけちゃんは一息つく。するとおーじが話に加わる。
「そうだね。戦国時代逆行転生系の物語だと、主人公が和紙を名産として生産して朝廷に献上するイベントもあるし、たけちゃんが言ったような漉返紙の歴史的事実があるから、物語のなかで語られないまでも、再生紙でお尻を拭いているって推測できるよね。でもナーロッパだとトイレ施設自体は改善しても、トイペに言及されることはまずないし、お尻拭きとしての紙を生み出すって話がまずないよね」
「だろ?羊皮紙の代わりとなる植物紙を生み出す物語はあっても、そういった世界では紙自体が高価だから、ケツ拭き用に使われているっていうことまでは断言できんのよ。で、『ナーロッパはトイレットペーパーが無い疑惑』に戻るんだけど、俺ここで断言しちゃううわ。ナーロッパ世界に転生した主人公は、嫌々ながらも、第一部で挙げたような海綿とかを使ってケツを拭いてるんだわ。本来ならば主人公は、そんな環境に不平不満を連ねるんだろうけど、作家さんは、物語の大筋に影響しないし、シモ事情に触れる必要はないからスルーしてるって」
若しくは、そこまで話が練られてないってだけの可能性すらあるけどな(練る必要性を感じないけど(笑))。たけちゃんの結論を聞いて、これから異世界系小説や漫画を読むときに、ぜってー気になっちゃうよ。何が気になるのかって? あの無双している主人公も、聖女も、冒険者も、戦国時代への逆行転生者も、使いまわしの海綿だったり糞箆だったり葉っぱだったり、最悪素手で尻を拭いてるんだってことさ。
まったく。言わぬが花、知らぬが仏だな。
書いている私自身が気分が悪くなり、何度も心が折れながら、う〇こ回(異世界トイレ考察)を乗り越えることができました。
不快な表現が多々ありましたが、ここまでお読みいただきましたことを心より感謝します。
R-15は保険でしたが、つけてて良かったとしみじみ思いました。
話はまだまだ続きます。更新は亀ですが、今後もお目を通していただけたら幸いです。