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021 トイレに行っトイレ 異世界トイレ考察③

前話よりは幾分マイルドになりましたが、汚話的な意味で継続して閲覧注意です。

ヨーロッパ(あっち)だと産業革命で木材パルプの大量生産と製紙の機械化が可能んなって、ようやく色んな種類の紙がガンガン作られるようになったんね。んで、薄い紙の代表としては新聞紙な。1870年代に今みたいなトイレットロールも誕生したんだけど、多くの人が新聞紙をトイペの代用にしていたんだとさ」


「え?新聞紙ってトイレに流せるの?」


「流せねーぜ。トイペと違って水溶性じゃねーからな。だから水洗便所の場合、ケツ拭いたあとの新聞紙だとかを捨てるゴミ箱が設置されてたらしいんだわ(※1)」

 うわ。夏の暑い日とかのゴミ箱がカオスだな。


「日本だって高度成長期以前の水洗便所移行期までは、汲み取り式の落下式(ぼっとん)便所がメインだったんだぜ。汲み取り式だったから、ちり紙なんかの代わりに新聞紙を使ってた家庭もあったんだと。で、水洗式に代わってからは、現代(いま)みたいな水溶性のトイレットロールに変わっていったんだわ」

 ふーん。産業革命や便器の進化が現代のトイペを生んだんだなー。


「ケツを拭くモノは時代とともに変遷していってトイレットロールに行き着いたのは分かったよな?ミシン目が入ったり2枚重ね(ダブル)になったり(※2)、エンボス加工だったり、香り付きだったり、ウォシュレット向けのが登場したけど、今後便器の形態が変わらない限りはたぶんトイレットロールが最終形態だろうさ。これにて、古今東西・現代異世界の、ケツを拭く道具の現代編を終えるぜ。後半の異世界編に行く前に、ここまでで二人とも質問は?」


「さっき話にでたちり紙ってどういう物なの?一度も目にしたことがないけど、なんとなくトイレットペーパーの日本語的表現な感じなのは理解できるんだ。同一の物なの?」

 おーじの質問。あーうん。俺も、ちり紙と言われたらトイペってイメージするけど、実際どうなんだろ?


「あーね。日本の中世の話で、漉返紙の話したじゃん?和紙って植物の繊維(※3)から作られてんだけど、紙って当時手工業だったから貴重だったんよ。で、使用済みになった貴重な紙を再資源化(リサイクル)して再生紙にしてたんだわ。江戸時代になると、低品質な再生紙、えーっと浅草紙とかって呼ばれてたんだけど、それがトイペ替わりの落とし紙として使われるようになって、その発展版がちり紙だと思ってりゃいーぜ」

 ふむふむ。

「ちり紙のチリって塵埃の塵な。もともと、植物の外皮屑みたいな低品質な材料から作られてたんだけど、明治の初めころ(1870年代中盤)に日本でも製紙業の機械化がはじまって、木材パルプを原料に大量に紙が作られるようになったんだ。で、ちり紙も、トイレ用の落とし紙やティッシュ(※4)に相当するはな紙として広まったんだとさ」

 ふむふむ。たけちゃんは時折、用意していたメモをチラ見しながら話を続けてる。

「日本だと、高度成長期以降、全国的に水洗便所が広まったんだけど、下水管と繋がっている水洗便所の普及率は6割(※5)くらいなんだと。先進国の中だと低いほうなんだってさ。でも汲み取り式便所の洋式・水洗化が進んだから、ちり紙に代わって水溶性のトイレットロールがシェアを占めたんだわ。今じゃちり紙のシェアは1%もないんだとよ。ああ、そうそう。昔はちり紙は非水溶性だったけど、最近のはトイレに流すことを踏まえて水溶性のが売られてるってさ」

 あー、そんだけシェアが少ないなら、ちり紙を見ない訳だ。


「よく分かったよ。たけちゃん、ありがとう」

 おーじが礼を言ってる。それじゃ俺も質問してみようか。

「俺からもいいかな?和紙が再利用されてたっていうけど、まさかケツ拭いた後の紙も、またリサイクルされてたん?」

「それこそ、まさかだわ。さすがに拭いた後の紙は処分されてたわ。ケツを拭く紙は、下の下の再生紙だったから、落とし紙は紙の行き着く最終地点だったって訳だ。当時は古紙を集める仕事の人がいて、商家とか家々を回って紙を買い取ったり、道に落ちている紙くずを拾い集めたりしたんだと。で、集めた紙を紙問屋が買い取って、さらにその買い取られた古紙が、漉き返し業者によって再生紙として生まれ変わったんだ。今でいう空き缶回収みたいなモンな」

 いやー、当時紙って貴重だって言ってたから、もしかしたらって思って質問しただけなんだけど。まぁ、さすがにう〇こついた紙はリサイクルせんわな。

「そりゃそうだよな。にしても、江戸時代って無駄がないんだな。紙一つとってみても使い捨てされずに、集めて蘇ってたんだ。すごいな」

「そうだね。紙だけじゃなくって、着物なんかも仕立て直されたりしていて、物を大切にしていたってイメージがあるよね」

 おーじも賛同してくれた。

「そーだな。今みたく機械化・自動化されてなくって、物を一つ作るのにも手間暇がかかっていた時代だからこそ根付いていた精神よな。ちなみに、古紙の分別をする若旦那にスポットをあてた落語があるんだってよ(※6)。ふじやんの質問から話がそれちゃったけど、こんな感じ?ほかにも質問ある?」


「俺はないかな。おーじは?」

「僕もないよ。二人とも、ちょっと第二部に行く前にトイレに行ってきてもいい?」

 俺とたけちゃんは、一瞬の目配せのあとに、こう言っておーじを送り出した。


「「行っトイレ!!」」





(※1)水溶性でない紙を流すと排水溝が詰まる恐れがありますのでご注意ください。かつて日本においても、新聞紙をトイレットペーパーの代わりとして代用していた家庭も少なからずありましたが、落下式ぼっとん便所から水洗便所への移行に伴い、水溶性のトイレットペーパーが主流になっていきました。


(※2)ミシン目の特許は1880年代後半に米国の企業が出願しました。2枚重ねは1942年に登場しました。※3枚重ねや4枚重ねも存在します。


(※3)和紙の繊維には楮こうぞ、みつまた、雁皮がんぴなどの内皮が使われています。地域によっては、上記以外の植物の繊維が使われていることもあり、生産地ごとに特色のある和紙が生み出されてきました。


(※4)読み方は、ティッシュでもティシューでも間違いではありません。ティッシュペーパーは非水溶性ですので、トイレに流すのは極力避けたほうがよいでしょう。


(※5)トップの東京都の普及率は約99%、最下位の徳島県の普及率は20%を下回ります。注意いただきたいのは、上述の数値は、下水管と繋がっている水洗便所の普及率です。汲み取り式トイレの簡易水洗化率は全国平均で90%を超えています。


(※6)『紙屑屋』 別名『浮かれの屑選り』

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