002 親友
よろしくお願いします。
「ふじやーん!マジウケたんだけど!」
ホームルームが終わって俺の席に駆け寄ってきたのは、小学校からの腐れ縁である武本慧。相変わらず声でけー。体もだけど。中学になったばかりですでに身長が170cm近くもある。上級生と並んでも遜色ないほどだ。
「たけちゃん。さっきはフォローあり。一瞬やっちまったかと焦ったし」
いやほんとマジで、無茶しやがって(AA略)にならなくてよかった。
「おう、俺もあの雰囲気は居たたまれなかった。身を挺したふじやんの勇気に敬服するわ」
と言い、屈託ない笑顔を向ける。ちなみにワ○ピネタを放ったのは彼だ。たけちゃんは、俺の性格や趣味を理解してくれている親友。
こちらこそ感服だ。そこまでアニオタでもなく、JC関連しか引き出しがない中で、よく海賊王ネタを返してくれた。お礼に、バ○ボンドの後ろに巧妙(笑)に隠されているT○LOVEる!全巻は、秘密にしておいてあげよう。以前たけちゃん家に遊びに行った時、本棚に違和感があって発見したものだ。いつか強請り(笑)に使えるかと考えていたけど、たけちゃんの男気に敬意を払い見なかったことにしてやんよ。
ここまでは俺とたけちゃんの示し合わせ。6年も一緒だからな。たけちゃんも、俺の前の席に座っている彼のことが気になるよね。わかる。
たけちゃんが声をかける。
「琵琶島くんだよね。はじめまして。俺武本慧。よろしくね。H/Rの時はマジ尊敬!一瞬琵琶島くんが時を支配してたし。ディオってたねー!」
「うん、ありがとう?琵琶島総司です。よろしく。狙ってたわけじゃないんだけどね。自己紹介の番がせまってきて、何を言おうか決まらなくて。結局、かたよった趣味全開で喋っちゃったんだよ。もしかしたらなろう系好きな人とお近づきになれるかなって。でもこうして二人に話しかけてもらえたから、言って良かったって思えてきたよ」
なるほど。差し詰め俺たちは大きな釣り針に釣られたクマか。同類だからこそあの冷え切った雰囲気を打開したかったし、そんな俺の行動を見兼ねた周りのヤツ等も、オタ趣味を被せ緩和してくれた。少なくとも琵琶島くんにとっては、意図せず友釣り出来ちゃった感じ?あ、友釣りの本当の意味って違うみたい(縄張りに入ってきたオトリ鮎を追っ払おうとして、仕掛け針に引っ掛かってしまう鮎の性的なやつ)だけど、ニュアンス的には通じるかな?
おっと、俺も挨拶せねば。
「俺は藤村悠仁。さっきのハーレム無双はあの場の咄嗟のノリだから真に受けないでね?でもラノベ好きなのはホントだから。趣味友同士仲良くしよう」
そう、俺だってオタだ。隠れオタだけど。さっきは悪ノリで笑いを誘って誤魔化したがラノベやマンガは大好物です、はい。
けれども、それを不特定多数にカミングアウトする気は今のところない。さっきもH/R中に考察していたけど、この世の中、オタクの立場も地位も数も弱く低く少ない。
平成・令和の若者世代ほど、オタクが受容されているなんていう。でも、それって『新世代オタク』のことだよな。彼氏・彼女がいて勉学や仕事が充実していてスポーツにも打ち込んでいるようなリア充・陽キャでありながら、マニアックな趣味も持ってますって。
誇れる武器がある中で、ともすればウィークポイントになりそうな趣味が、逆に親近感を持たせたりする。言ってみれば彼らにとってはサブウェポンになるんだと思う。所謂『ただしイケメンに限る』だ。
俺は、体を動かすことは好きだけど上手ってほどじゃない。自己紹介の時に話した工作やDIYも、誇れる武器ってほどではなく、寧ろこれもマニアックな趣味だと思っているから。あー、今んなって後悔してきたぞ。登山とかキャンプが趣味って言ったほうが受け(誰からのだよ)が良かったか?
まぁ、そういったことを気にせず、引け目にも感じず堂々と胸を張って自分の趣味を話せる琵琶島くんと仲良くしたいと思ったからこそ、俺は趣味『友』と先手を打ったんだ。今から俺たち友達だよ、ってね。
「ありがとう、よろしくね。」
琵琶島くんは俺の言葉に返すように、お礼の言葉とともに右手を差し出してきた。当然俺も右手を出して握手した。うん、やわらかい。ふにゃっとしてしとっとしてわずかに冷たく俺より少しだけ小さい手でした。ホント男?付いてるの?やべ、赤面しそう。落ち着け俺!俺には惚れてる女がいるじゃないか。一時の気の迷いに流されるんじゃない!
自分に喝をいれながらも、力が弱まり離れていく小さな手を名残惜しいと思ってしまった俺、反省しろ!
次に、たけちゃんも琵琶島くんと握手をしながら話を繋げる。
「おう、俺とも仲良くしようぜ。で、さっき俺TUEEEしたいって言ってたけど、武道とかやってんの?、ちなみに俺は剣道やってるぜ」
「すごい!たくましい手だね。カッコいいな。武道は全くだよ。僕は体弱かったから、身体能力を上げるために3月まで4年間、スイミングスクールに通ってたんだ」
たけちゃんの硬い手の平をムニムニ触りながら、恥ずかしそうに話す琵琶島くん。たけちゃんに少し嫉妬しながらも、なぜか彼のスク水姿を連想してしまい、今ちょっと起立出来ません。
翌朝、男とキスをする夢で目を覚まし、筆舌に尽くしがたいほどのダメージを心に負った俺は、布団に包まって言葉にならない叫びをあげた。
相手が誰とか、どっちからとか思い出したくもない。はぁ、今日も顔を合わせるんだよな。当たり前だけど。入学二日目にして登校拒否したくなってきた。
学校行きたくねー!
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