001 入学
リハビリ投稿です。
よろしくお願いします。
教室が凍りついている。あ、比喩的な意味でね。
今日俺は中学生になった。正味1時間の入学式だったけど、長ったらしい校長や来賓の挨拶なんて、右から左に抜けていった。
さっき教室に戻ってきた。教室の暖かさに、思わず「はー」と大きなため息をついてしまった。体育館の寒さに肩が凝った。周囲を見渡すと、式が終わってクラスメートも緊張感からも解放されているようだ。
ウチの中学は3つの小学校学区が集まる市立の中学で、クラスのメンツは半分以上が初対面だ。机は名簿順で、男女一列づつが交互になってる。なので前後は男子で両横は女子。まぁすぐに席替えがあると思うけど。
おそらく上級生が描いてくれたであろう黒板アートをスマホで撮影したり、前後左右の席のヤツ等と「どこ小?」とか尋ねながらワイワイやってると、本鈴が鳴って間も無く担任の先生が入室したので、皆自分の席に着く。
アラサーくらいの女性教師で指輪はしてないから独身かな?それとも外しているだけ?見た感じ優しそうな人だ。名前は高橋先生だ。高橋という字を黒板アートの空いているスペースに書いて挨拶したあと、簡単な年度行事や配布物・提出物などを説明してくれた。
その後、出席番号順に自己紹介が始まったんだけどさ・・・。
自己紹介なんて言ってもその場で起立して、出身の小学校と入りたい部活動や趣味なんかを話すくらい。中にはガチガチに緊張しているヤツもいたけど、拍手や合いの手を挟んで次の生徒の自己紹介にスムーズに移っていった。
で、俺の前の席に座っている生徒。枇杷島くんって子の番になったんだ。見た感じ普通の男子。今日が彼との初見なので別の学区の生徒だろう。中一男子の中では背が低めなカワイイ系の野郎だ。耳が隠れるほどのサラサラヘアーに目を奪われてしまった。俺天パなんで。あ、俺に衆道の嗜みはないでござる。
話を戻すと、枇杷島くんは、名前と出身小までは、まだ声変わりもしていないボーイソプラノボイスで、他のヤツ等と同じ様に紹介していたんだけど、続く趣味の紹介が教室を凍らせたんだ。
「趣味はライトノベルで、異世界転生モノが大好物です。ネットで小説も執筆しています。いつか異世界で俺TUEEEするのが夢です」
マジでこいつ時を止めやがった。ザ・ワールドやね。元ネタは古いマンガらしいけど。いや、この一瞬なら隣の席の女子のおっぱい揉んでも気づかれんかも知れん。うん、ウソです、冗談です。通報しないでね。
それにしても、大真面目で言ったのかウケを狙って滑ったのかよう解らん。とりあえず突っ込むなら、彼の容姿で俺TUEEEは無理。アッー!か、TS触手◯辱が似合いそう。ゴクリ。ちなみに突っ込むって変な意味じゃないんで誤解しないでね。
教室が静まり帰ったのは、たった数秒のことだったけど、10秒にも20秒にも感じられた。てーか次俺の番。枇杷島くんはさっさと着席しちゃってるし。次の方どーぞー、なんてのないから俺のタイミングで始めるしかない。
意を決した俺は、枇杷島くんに対して拍手をしながら起立し、静まり返った雰囲気の中で自己紹介を始めた。
「東小出身の藤村悠仁です。趣味は物作り・DIYで、工作が得意です。中学では技術の授業があるので楽しみにしています」
ここまで自己紹介してから、何故か判らんが説明のできない使命感というか責任感が生まれた。クラスの空気は未だ冷え切ったままだ。やるなら今しかねえ。
「ちなみに俺もラノベが好きです。異世界に行けたらハーレム無双するのが夢です」
・・・一瞬の沈黙が訪れた。南無三、俺も滑ったか?
刹那、複数の笑い声とともに教室内の空気が弛緩されたものに変わった。
「ふじやん被せてきた(笑)」「ハーレム王におれはなるっ(笑)」「時は動きだす(笑)」「ナイスフォロー!(笑)」
オナ小の心の友たちよ。俺の悪ノリにレスありがとー!小学校時代からお調子者で通ってきたんで、オナ小の友人たちも乗ってくれた。多謝!ヤツ等もなんとかして、この重苦しい雰囲気を打開したいと思いあぐねていたみたいだな。
加えとくと、ふじやんって俺のあだ名ね。ゆーじんって呼ぶヤツもいるけど、小学校時代はふじやんで通ってた。
ひと仕事終えて変な達成感に満たされた俺は、席に着き考えを巡らす。
枇杷島くんのコレ、素なの?純真なの?ウケ狙いなの?初顔合わせの、しかも女子も大勢いる中でアニメやラノベ趣味を堂々と語れるコイツ何?勇者?
その後の自己紹介の時間中は、幾度となく枇杷島くんと目があった。後席の人が挨拶するときは後ろを向かないとだしね。キラキラした目で、俺と話したいオーラ出してくるし。オーケーオーケー、気づいていますよ。
「ホームルーム終わってからね」
俺の言葉を聞いた枇杷島くん、むっちゃ笑顔で頷いてきた。なにこの愛玩動物。見た目だけならクラスの5本の指に入るわ。だが男だ。惑わされてはいけない。冷静になるんだ俺。
一昔前に比べたら、マンガやラノベやアニメは市民権を得たとは思うけど、ゆーても深夜枠扱いだ。当然異世界モノも。ジ◯リやデ◯ズニー、ド◯えもん、サ◯エさん、ク◯ヨンしんちゃんのようなゴールデンを彩る国民的作品とは一線を画している。俺の勝手な思い込みだけど、その一線ていうのは『親と一緒に見ることができるか』だと思っている。俺も隠れオタではあるが、共通趣味の気心の知れた友達としか話すことはない。さっきマンガネタでレスポンス返してくれたヤツ等のことね。
そう言えば、最近は人気声優が地上波のバラエティ番組や歌番組に出演することも増えてきたけど、見ていてなんであんなにハラハラさせられるんだろう?A◯-X内の番組だとそんな気持ちにはならないんだけど。謎だ。
なんて取るに足らないことを考え込んでいたら、いつの間にか俺の後ろ以降のクラスメートの自己紹介が終わってしまっていた。やっべ、別学区の子でちょっと気になる女子がいたんだけど、名前すらも聞き逃してしまったorz。まぁ機会はまたあるっしょ。
お読みくださいましてありがとうございます。