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乱立する推理

「よ、相棒。悪魔分かりそうか?」


 死体の調査を終え、裕翔が俺の隣にやって来る。

 返事をする間もなく裕翔は耳元に顔を近づけ、小声で囁きだした。


「正直隻腕のジョンがこうもあっさりと殺されるのは予想外だったわ。あいつを真っ向から無傷で殺すってのは、たとえ鬼でも無理だと思ってたし。それに色仕掛け……に引っかかるタイプにも見ねえからなあ。とはいえ暗殺も流石に無理だろ。この部屋に入ってきた時点でジョンが最大限警戒するのは間違いねえ。いくらイーサンでも扉からジョンがいた場所まで気づかれずに動くのは現実的じゃない」


 裕翔の推理を聞き、俺もふとある疑問に思い至る。彼の耳元に顔を近づけ、囁き返した。


「というかこの犯行が悪魔によるものだとして、悪魔は化けている相手の能力はコピーできているのかな。それ次第で彼らの元の能力を当てにしていいかどうか変わると思うけど」

「確かに! でもまあ、たぶん完コピできてんじゃねえか。というかそうじゃなかった場合、悪魔の能力次第じゃ俺たち人間なんて瞬殺できちまう気がするし。だからむしろ能力を制御する意味も込めて、化けた奴と同じスペックになってると思うんだが」

「その可能性は、確かに高そうだね」


 うっかり忘れかけていたが、この遊戯は悪魔にとっての娯楽なのだ。となれば見ていて楽しめる程度、一方的になりすぎない程度に手加減はされていると考えられる。まして遊戯は最大五回行われ、その都度難易度も上がっていくと言っていた。となれば初回の悪魔などは、比較的弱く設定されている可能性が高い。

 再び思考の波が脳内で渦を作り始める。だがすぐに、裕翔の呼びかけによって意識を浮上させられた。


「ちょいと話は変わるが、お前さっき黒桐と二人だけで何もされなかったか?」

「いや、特に何もされてないけど。なんで?」


 この話を黒桐に聞かれたくないのか、裕翔はより声を潜めて囁いた。


「さっきは紹介し損ねたが、あいつにも通称があってな。あんま上品な名前じゃないんだが、『殺戮ラブドールの黒桐桜子』って呼ばれてる。あいつは気になった男をホテルに誘っては、セックスした後に遅効性の毒を盛って殺してたんだ。あいつが学生だから、男の方がそもそもあいつと会ったこと自体を隠蔽してくれる。そのおかげで黒桐に警察の手が伸びるまでにとにかく時間がかかった。その犯行動機とかもぶっ飛んでるんだが、それはともかくあいつは男の操作にとかく巧みな女だ。少しでも気を許せば、気づかないうちにあいつのマリオネットにされちまうかもしれない。さっき急いだとはいえ、ちょっとの間お前と黒桐を二人だけにさせちまったからな。何かされてたらと心配になってよ」

「ああ、だからあんなに早く戻ってきたのか。取り敢えず何もされてない……はずだから、心配はないと思う」

「ならいいんだが」


 まだどこか不安そうな裕翔の表情。黒桐というのは生前、そこまで危機感を持たせる人物だったのか。

 あの見た目は確かに男受けしそうだが、と黒桐の方へと視線を向ける。すると、彼女はメガネをかけた男の死体の上にまたがり、その体に注射器を使って何かを流し込んでいた。

 呆然とそれを眺めていると、彼女は視線を敏感に察したのかくるりとこちらに向き直り、笑顔を浮かべて手招きしてきた。

 つい数秒前に裕翔に釘を刺されたものの、彼女が何をやっているのか気になり招きに応じる。

 黒桐の隣に立つと、彼女は「これ、なんだと思う?」と注射器を渡してきた。

 中には微かに透明の液体が残っているが、透明故に特徴はなくさっぱり分からない。すると黒桐は楽しそうに笑いながら、「猛毒よ」と口ずさんだ。


「悪魔が化けてる人間って、もしかしたら首を折られても死なないんじゃないかと思って。私の持っていた毒を注入してみたの。でも全然反応なし。やっぱりこの人は首を折られて死んでるみたいなのよね。因みに金髪の男も反応しなかったわ」

「死体が、実は死体じゃない可能性か……。それは盲点だったよ。でもその前に気になるのは、黒桐さんがそんな毒物を持っていたことに対してなんだけど」

「それを言うなら私に限らず皆……ああ、まずはそこから確かめるのもいいかもしれないですね」


 黒桐は男の上から飛び降りると、立ち上がって全員に呼びかけた。


「皆さん。ちょっと考えたのですが、ひとまず全員の持ち物・身体チェックを行いませんか? 一目で分かる方もいますけど、私たちそれぞれ初期装備が違いますよね。もしかしたらこの中に、遠距離から彼の首を切り裂く凶器を持った方がいらっしゃるかもしれません。そうでなくとも血の付いた凶器が見つかれば、一気に解決する気もしますし」


 天使のほほ笑みを浮かべ、黒桐が皆を見回す。

 かなり安直な考え方な気もするが、意外と効果的なのではないかとも思う。裕翔の言葉が正しければ隻腕のジョンは素手で人の肉体を解体できるほど強靭らしい。首以外に外傷がないため反撃できず殺されたと見ていたが、案外一撃ぐらいはやり返していた可能性だってある。

 これなら反対することが疑われることに繋がるため、誰も拒絶しないだろうと見回す。だが予想に反し、すぐさま否定の声が上がった。


「私は嫌よ。そんなことをしたら悪魔に私の手の内がばれるじゃない。大体遠距離から首だけを切り裂く凶器って一体何よ。やるだけ損しかないわ。……でもまあ、あなたが己の潔白を証明するために身体チェックをしてほしいというのなら、手伝わせてもらうけれど」


 目に怪しい光を浮かべ、カーミラがなめますような視線を黒桐に向ける。

 後半はともかく、前半の意見に対して同じ考えを持つ者は多いらしい。メアリーやイーサン、それに裕翔までもがどこか距離を取っているのが分かる。

 今着ている洋服以外何も道具を持っていない俺は、何となく釈然としない気分に陥る。生前のスタイルがそのまま反映されているのだろうが、この遊戯では純粋な暴力がかなり幅を利かせてくる。せめて初期条件ぐらいは同じにしておいて欲しかったところだ。

 黒桐の提案もあえなく断られ、また各自黙考を始める――かと思いきや、急に裕翔が口を開き、


「つうか凶器うんぬん以前に、単純に考えればそいつが犯人な可能性が高くないか?」


 と人喰いのデオガートを指さした。

 デオガートは自分が犯人扱いされたことを理解していないのか、何の反応もしない。一方裕翔は自分の考えが正しいことを示すため、黒桐に一つ質問を行う。


「黒桐はこのⅨ号室を出て、俺たちがいたⅠ号室に来るまでずっと廊下にいたんだよな」

「はい。特に他の部屋に入ったりはせず、ずっと廊下にいましたよ」


 黒桐の答えが自分の望み通りのものだったのか、裕翔は満足げに何度か頷く。それから扉に近づき、それを内側に引いて見せた。


「扉が開放された状態とは言え、ここの扉は内開き。廊下に人がいる状態じゃあ、見つからずに部屋の移動を成し遂げるのは困難だ。だが真向いの部屋で、しかもそこにいたのが人喰いのデオガートってんなら話は別だろ。ここの廊下の幅はまあちょっと広めだがせいぜい三メートルってところだ。そいつの身体能力なら一秒とかからずこの部屋に入りこめる。そしてそんな一瞬の出来事なら黒桐が気づかなくたって不思議じゃない。隻腕のジョンも弾丸のように真向かいの部屋から飛び出してきたこいつの奇襲に対応しきれず、あっさりと殺されちまったんじゃねえかな」

「奇襲で殺せるというなら、その黒桐というお嬢さんでも同じことが可能では?」


 イーサンが口を挟む。しかしすぐに裕翔は首を振った。


「いや、ずっと部屋に残っていた黒桐のことをジョンだって警戒していたはずだ。デオガートとは違って早々奇襲が成功するとは思えない。それにもし黒桐が犯人なら、俺たちに会いに来たりせず自身もどっか別の部屋に姿を潜めてただろ。じゃないと自分が疑われるのは目に見えてるからな」

「それはその黒人君にも言えるのでは? 普通廊下から誰もいなくなってから殺害を行うと思いますが」

「悪魔からしてみれば一人を殺すのに時間をかける必要性はない。やれるとみればすぐに殺すだろ。それに本来なら死体がすぐに発見される予定じゃなかったんだよ。速攻で殺して何ならソファの影にでも隠れておく。誰かが死体を発見して驚いた瞬間に不意を打ってまた殺害。そんな予定だったんじゃねえのかな。しかし奇襲ゆえ、こいつはポメラニアンの存在に気付かずに殺害に走っちまった。結果としてポメラニアンが吠えわめき、慌てて自室に戻ることに。そして死体がすぐに発見されるなんて事態になった。どうよこの推理」

「……」


 どこまで自信を持っての発言なのかは分からないが、俺を含めて数人から白けた視線が飛ぶ。

 どうやら今の意見にイーサンは納得してしまったらしく、一人頷いている。このままエウレカと唱え、推理を始められてしまえば無意味に脱落者が出てしまう。

 彼を諫めるため口を開こうとすると、俺よりも早くカーミラが口を開いた。


「あなたってバカなのかしら? その推理に特大の矛盾があることに本気で気づいていないの?」

「矛盾って、どこがだよ」


 ややむっとした様子で裕翔が言い返す。カーミラは深いため息をついてから、ひょいと毛が赤く染まったポメラニアンをつまみ上げた。


「この犬が赤く染まってることから分かるように、金髪男を殺した際近くにいた奴には血がついているはずでしょう。だけどそこの黒男には血が全くついていない。持っているナイフにもね。大体飛び散った血も特に遮られた様子もなく部屋中に広がっているじゃない。少なくとも悪魔は正面から殺害を行っていないわ」

「ぬぐ」


 どうやら本気で気づいていなかった裕翔は、顔を歪ませ口ごもる。

 カーミラはつまらなそうに息を吐くと、視線をつまみ上げたポメラニアンに向け、言った。


「ていうか、この犬っころが悪魔なんじゃないの」

「はあ?」


 裕翔が仕返しとばかりに馬鹿にした目を向ける。だがカーミラはその視線を無視して、淡々と言葉を続けた。


「ルールによれば悪魔は最初の部屋にいて、私たちの中に紛れていた生者でしょう。つまり人じゃなくてこいつでもいいじゃない。大体返り血を浴びているのがこの犬っころだけなんだから、話し合う余地なく決まりじゃないかしら?」

「いや、んなもん……どうやってそんな小さな犬が首を掻き切ったっていうんだよ」

「小さくたって爪も歯もしっかりと生えてるのよ。それにもし悪魔が化けているのなら、爪の切れ味を向上させる能力を持っているかもしれないわ」

「いやいや……そもそもこいつは最初この部屋にいたのか? 俺が発見した時はⅠ号室にいたぞ。な、相棒」


 裕翔が俺に話を振って来る。取り敢えず頷いて返そうとすると、それより先にデオガートが片言で、


「ソイツ、サイショカラ、コノヘヤ、イタ。オレト、イッショニ、ヘヤ、デタ」


 とカーミラの考えを裏付けた。


「えと、じゃあ、なんだ……ダメ、ってこともないのか?」


 馬鹿にした表情から一転、裕翔は困惑げに首を傾げる。

 裕翔以外も、彼女の推理に一定の正しさを見出したのか、やや真剣な瞳でポメラニアンに視線を向け始めた。

 一方、当のポメラニアンはそれは違うと言いたいのか、カーミラの手の中で急に「きゃんきゃん!」と吠え出した。しかしこれは完全な逆効果。まるでこちらの話し合いを理解しているかのようなタイミングで吠えだしたために、視線はより鋭いものに。

 カーミラは鬱陶しそうに眉を顰めると、そっと犬の首に手を添え――


「ちょっとお待ちくださいな。実は私も一つ、彼をどうやって殺すか思いついたのよ。先にそれを聞いてくださらない?」


 絶妙なタイミングで、戦慄のメアリーが口を挟んだ。犬好きなのか、ポメラニアンを見つめる瞳にはどこか慈愛の色が窺える。

 カーミラは犬の首から手を離さずに、メアリーに目を向けた。


「何かしら。私の推理に問題が?」

「いえ、問題というほどではないわ。でも、そのワンちゃんが殺害したとする以外にも答えが思い浮かんでしまって」


 メアリーはステッキをコツコツと床に打ち付けながら話し出す。


「悪魔は一つだけ特殊な能力を持っているのでしょう? それなら例えば、『壁をすり抜ける能力』を持っていたとしたらどうかしら。壁をすり抜け背後から金髪の坊やを襲った。それなら坊やが全く抵抗できなかったことにも、犯人に血がついていないことにも説明がいくと思うのだけれど」

「それってこの部屋の隣にいた私が悪魔だって言いたいのかしら? まあ勝手に疑うのは構わないけれど、特殊能力が何かから考え始めたら、いくらでも答えが思い浮かぶわよ。例えば瞬間移動が使えるのなら、あなたでも殺しは可能でしょうし。そんな考えよりも、この吠え犬が悪魔だとした方がすっきりいくわ。というより、その話はこいつを殺しても遊戯が終わらなかったら考えればいい話じゃない」

「それは……」


 反論の言葉を思いつかなかったのか、メアリーは口を閉ざす。

 これで邪魔者はいなくなり、カーミラは首にかけた手の力を徐々に強めていく。ポメラニアンは苦し気に体をよじらせるも、カーミラの力の方が強く逃げ出せない。

 逃げきれないと諦めたのか、最後の力を振り絞り「キャーン」と泣き叫ぶと――


「『エウレカ』」


 急にカーミラの手から弾かれるようにして床に落ちた。

 それと同時に、頭の中で『いまから十分間は一切の暴力を禁止とする』と声が流れる。

 解決のための呪文を唱えた張本人――というか俺は、まだ解決策が思い浮かばない中、ついつい解決編を始めることとなった。


読者への挑戦。

ここまでの物語より、隻腕のジョンを殺した悪魔が誰なのか、論理的に導くことができるようになっております(たぶん)。

また悪魔は作中で最低一度は触れられており、作中に一度も登場していない者ではありません。

加えてもう一つ、隻腕のジョン殺害には悪魔特有の能力が用いられております。

それでは、悪魔の特定ができた方から次のページへお進みください(分からずとも進んで問題ありません)。


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