基本ルール
「ここは……」
視界に映る、血の池でも針山でも賽の河原でも鬼が跋扈する拷問部屋でもない、綺麗に整った明るい部屋。
血の匂いも腐臭も感じない、清潔な部屋など一体何十年ぶりのことだろうか。
俺は顔を左右に動かし、部屋の中を更に観察していく。
長方形の部屋。中央に同じく長方形の木製のテーブルが一脚。それを囲うようにして真っ白なソファが四台置かれている。さらに部屋の四隅には小さな棚と、その上に花の活けられた花瓶が一つずつ。天井には豪奢なシャンデリアがぶら下がり、部屋を明るく照らしている。
そして今、ソファの上には自身を含めて九人の男女が座っていた。
国籍・性別・年齢全てに統一性がない。
一体ここはどこなのか。なぜ自分がここにいるのか――などということは疑問に思わない。
ここがどこなのかも周りにいるのが誰なのかもわからないが、何が起きているのかだけは理解していた。地獄でいつになっても終わることのない罰を受けていた際、おしゃべり好きの鬼が言っていた。
ごく稀に、地獄を抜け出すことが可能な遊戯に参加させられることがある。それはクリア成功率ゼロパーセントの、悪魔の遊戯。
地獄を統括している悪魔が、ごく稀に暇つぶしに行う、蘇りをかけた遊戯。参加させられる者にデメリットはないものの、勝つことは不可能なため実質メリットもない。
見るからに地獄ではない場所に呼び出されたということは、まず間違いなくその遊戯の参加者に選ばれたということだろう。とはいえ、遊戯の内容も分からないままでは動きようもないのだが――と、そんなことを考えた直後、脳に直接声が響いてきた。
『これより、悪魔の遊戯を開始する。遊戯は全五回行われる。遊戯の内容は全て同じであるが、ゲームをクリアするごとに難易度は上がっていく。全ての遊戯をクリアした者は地獄からの解放が約束される』
唐突に脳に語り掛けてきた声は、この場にいる全員に共通して聞こえているらしい。ある者は顔をしかめ、ある者はどこか愉快そうな表情を浮かべ、脳に響く声に耳を傾けている。
『遊戯の内容はいたってシンプル。貴様ら畜生の中に一体だけ紛れ込んでいる悪魔を特定、または殺すこと。それだけだ。そして、具体的なルールは次の通りだ。
一つ。各遊戯には悪魔が一体だけ紛れている。
一つ。悪魔の役割は参加者を皆殺しにすることである。
一つ。悪魔は特殊能力を一つだけ所持している。
一つ。悪魔を特定する、または殺害することができれば、その時点の生存者全てが次のゲームに進むことができる。
一つ。悪魔を特定した際には、「エウレカ」と唱えて十分以内にその者が悪魔であることを示し、告発された者を除く生存者の過半数の賛同を得る必要がある。過半数の賛同を得られなかった場合、その者は脱落となる。
一つ。特定した者が悪魔でなかった場合、「エウレカ」と唱えた者及び賛同した者全員が脱落となる。
一つ。生存者が三名となった時点で、悪魔は正体を現す。その後はルールが変更となり、悪魔を殺すことだけが勝利条件となる。
一つ。「エウレカ」と唱えてからの十分間は、一切の暴力が禁止される。
一つ。参加者は最初の部屋にいる者のみとする。
以上九つが基本ルールとなる。また、悪魔は生者に姿を変え紛れているが、基本的にその変身能力は遊戯中封印されている。それから一つサービスとして、畜生共同士の会話は言語が違っても通じるようにしておいた。
最後に、これらルールは不可侵であることを宣言しておく。
それでは、悪魔の遊戯第一回戦を開始とする』