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第8話 魔女、街へ買い物へ行く準備をする。

あれからナナがなかなか帰らなくて、トウの寝る時間が大幅に遅くなった。

トウの作る質素な夕飯を文句言いながら食べて行き、うちに泊まる勢いだったがそこは断固お断りした。


半ば無理やりポータルに押し込めたので『近いうちにまた来るからな!』を、仕切りに連呼していた。

……いったいこの家の何を気に入ったのか……。


やっと入ったベッドで、大きな溜息をついた。


ナナがあまりに騒いだので、ラファエルにお礼を言い忘れていたのだ。

トウはまた溜息をつく。


初めて貰ったプレゼント。

そっと枕元に飾る。

何も生けてはないが、グラスが気になって眠れずにいた。



次の日思った通り……寝坊した。

毎朝同じ時間に餌をあげているため、裏庭で飼ってるヤギの抗議の叫び声で目が覚めた。

慌てて野菜を収穫し、ヤギの餌と自分が食べる物と分けて保存箱へ入れた。


人参の葉の部分を美味しそうに頬張るヤギ。

鼻の上辺りを指で軽く撫でると、トウに向かってフンと鼻を鳴らす。


「……ごめんね、遅くなって。」


このヤギはトウが物心ついた時にはもういたので、結構な年寄りかもしれない。

お母さんが元気な時は、ヤギも子を産み、その乳のおこぼれでチーズや石鹸なんかを作っていた。


母は料理に魔法をかけられていたので、そのチーズは絶品だとたくさんの人が購入していた。


ヤギの鼻っ柱をひとしきり撫でて、今度はノラと自分のご飯の準備だ。

セイルが持ってきてくれたチーズやジャムも、そろそろ底を尽きてくる。


もう少し持つ予定だったが、ナナが文句いながらもたくさん食べて帰ったせいもあるし。


ココと話したオシャレに関してもそうだが、ちゃんとしたご飯を食べることも約束してしまったのだ。


一人で街に買い物に行けるのだろうか。


急に現れた心細さに震え上がり、調理の手が止まる。

止まった手を催促するように、ノラが『ニャア』と鳴いた。


慌ててご飯を作り終わり、朝食を済ます。

今日は午後から仕事が入っているので、午前中はゆっくりと悩めるのだった。


藤色の魔女が住む北の国はとても寒い。

と言うことはローブがいるということだ。


ゴソゴソと母や祖母の残してくれた衣類の入った箱をひっくり返したが、自分のローブは既に小さくなりすぎていて、母や祖母のローブは大き過ぎるのだ。


これは縫うか買うかしなくては。


縫うにしても生地を買わないといけないし、どうせならちゃんとしたシッカリしたものを購入したい。

自分が縫ったローブなんて、心細過ぎる。


立ち上がり薬草を干している部屋へ向う。

干してある薬草の奥には薬棚があって、薬瓶が並ぶ奥にひっそりとある、銀色の円柱の入れ物を手に取る。


中には今まで必死で貯めた、トウのヘソクリがあった。

祖母の教えで泥棒に入られても困らないように、あっちこっちにヘソクリは隠せと言われている。

時々母や祖母の荷物を掃除することがあるのだが、そんな時偶然祖母や母が残してくれたヘソクリを見つけると、ほんわかした気持ちになった。

トウはそれをまた同じ場所にしまって、また次見つけた時に同じ気持ちなれるように、なるべく隠し場所は忘れるようにした。


入れ物には結構ギッシリと硬貨が詰まっていた。

分散させることをめんどくさがって、トウは全部ここに閉まっているのだが……。


自分でも危ないなぁと、思ってはいる。

ドアも今にも蹴破れそうなガタガタさに、うちのセキュリティは多分スカスカなのだから……。


だが流石の泥棒も『魔女』の家には入らないようだ。


その余裕がトウの面倒くささを加速した。


ジャラジャラと硬貨を数える。

ローブはちょっと高めのいいやつが買えそうだ。

今後何年も使えるように。


だが問題はどこで買うか。


セイルに頼んでもいいのだが、やっぱり自分が着る物だから自分の目で確認して購入したい。


……だけど。

街の人が自分に売ってくれるのだろうか。


硬貨を握りしめ、静かに一人で悩む。

そして静かに一人、不安に思っていた。


お財布がわりに使っている麻袋を取り出し、硬貨を詰める。

買い物は明日か明後日に行こうと決めた。


他にも蜂蜜の瓶や、保存が効く食べ物なんかを買ってこないと。

あとはローブのついでに着替え用のワンピースも……。

それからいつも使っている、ヤギの乳でできた石鹸も切れそうだったし。


買い物へ行くワクワク感と同じぐらいの不安に、今日も眠れないトウであった。



次の日も、その次の日も。

トウが買い物へ行く勇気が出るのにそれから1週間もかかった。


毎日ご飯をあげに行く時に、ヤギやノラに責められているような被害妄想まで感じ出す。


祖母のお店に置いてあるポータルも気になっていた。

誰かがお店を買い取ってしまう前に、違う場所へ移動しなきゃならないため、さっさと撤去しないと大変なこととなる。


渋々支度をして、ポータルに足をかけた。

ポータルが淡く灰色に光り、トウを優しく包みこむ。

そしてそのままトウの姿を光と共に連れ去った。



ポータルの光が消えたら、見慣れた祖母の店の中だった。

あちこち埃だらけとなり、その見た目を悲しい気持ちにさせた。


とりあえず必要な物だけをポイポイと袋に詰め、ポータルに投げ込んだ。

祖母の作った薬草瓶もまだ残っていて、嬉しく思う。


「お母さんの手鏡もここに置いてたのか……」


手鏡は大事にハンカチに包み、お店側のポータルと一緒にカバンに詰め込んで、誰にも見つからないよう店を後にした。


今日は帽子は置いてきた。

あの帽子は一瞬で魔女だとわかる。

久々に髪の毛もブラシで整えて、後ろに結ってきた。


これなら目を見られない限りは、魔女だとは思われないだろう。


なるべく顔を隠すように、下を向いて歩く。

肩掛けの大きなカバンの紐をギュッと握りながら。


小さな少女は歩き慣れたはずの街をゆっくりと歩き出す。

なるべく必要なお店だけさっさと寄って、とっとと帰ろう……。


そんな決意を何度も何度も頭の中で繰り返し、トボトボと歩き出した。





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