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第7話 騎士、魔女の護衛を申し出る。

両手を広げた状態で、フルフル震えるトウを見つめながら。

ラファエルは剣を、ナナは手を静かに下げた。


トウは必死だった。

コイツらがやりあったら、確実に家が吹っ飛んでしまう。

こないだココが家を少しだけ若返らせてくれたのだが、それでもこの家は丈夫ではない。


「……お前が鈍色に何の用だ。

この国の騎士は『魔女』のことが嫌いなのではないのか?」


先に口を開いたのはナナの方だ。


ラファエルはその問いにも無言でナナを見つめる。

鞘からはゆっくりと手を離したが、剣の上に待機させ、いつでも戦えるように警戒はしていた。


「……彼はこの国の新しい騎士です。

魔女のことはよく知らないのだと……」


トウが痺れを切らし、右手を上に向けるとラファエルに向けた。

そしてその手をナナに向ける。


「こっちは東の国の魔女、ナナくんです。

危険はないので、剣から手を離してください。」


『頼むから』と小声で付け加えた。

今はナナの方が怒り暴れる方が危険だ。

機嫌を損ねると、後が厄介である。

絶対に厄介なのだ。


トウの声にラファエルは眉を寄せたが、警戒態勢を解いてくれた。

ホッとしたトウが小さくお礼を言うと、ラファエルは無言で頷く。


ラファエルの眉間のシワは現状維持だが、剣から手を離した事によりナナも渋々戦闘態勢を解いた。


気を取り直すようにナナが口を開いた。


「とりあえず、なんだっけ。あんたが言ってた億劫な条件は。」


「条件……?ああ……」


条件と言われ、思わず喉に詰まる。

思い直してナナを見つめ、口を尖らせた。


「……べ、別に条件とかじゃないですけど!

なんですか人が駄々こねてるみたいな言い方して……」


「……いや、駄々こねてんだろ。

遠い〜とかめんどくさ〜いとか藤色がこわ〜いとかそんな理由だろ?」


『いや怖いのはあなたの方だ』と思わず喉まで出かかったが、ごくりと飲み込む。


とりあえず返事に困っていると、ナナは不敵に笑った。

彼はトウのオーラを見て判断している。

生半可に誤魔化しは効かない……。

なので、気をつけなきゃ……。

トウは肩から息を吐き、気合いを入れた。


「……そう言うわけでもないんですけど、まあ色々……」


ゴニョゴニョと見当たらない言い訳を並べようと口を尖らすと、ナナが恐ろしい程清々しい顔で微笑んだ。


「護衛の件は僕から交渉してやる。というか、そんなの要らないようにこっちも対策してある。

魔女が忌み嫌われた存在でも、国としては貴重なものだ、大事にしないと呪われるからな!」


そう言いながらチラリとラファエルの方を見る。

ラファエルはピクリと眉を動かしたが、ナナの言葉にそれ以上反応はしなかった。


そんな態度を見つつもナナは不敵に続ける。


『魔法が使えないのに、どうして呪えるのか……』


思わず心の奥で言い返す。

だがその言葉がまた自分を惨めにさせる。


「後は、予算と距離だっけ?それもこれで賄える。」


そう言うと背中のリュックからヒョイと、小さな長細い包みを出してきた。

キョロキョロと家の中を見渡して、勝手に水晶のある母の部屋の片隅にその包みを広げ始めた。


ナナがゴゾゴゾやってるのを、遠くからラファエルと覗き込む。

思わず肩に手をかけてしまいラファエルと目が合あうと、大きく体を飛び上がらせて逸らしてしまった。

そんなトウの様子を、ラファエルは吹き出してしまう。


トウは顔を真っ赤にして頬を膨らました。

そして帽子のツバを思い切り下に引っ張ると、顔を隠してしまった。


「……ねえ、二人でイチャイチャすんのやめてくれる?」


ナナが冷ややかに二人の様子を見ていた。

二人は慌ててそっぽを向いた。


「……してません!ちょっと驚いただけです。」


慌てて弁解するが、その様子が気に食わなかったのかナナはトウの手を取り、今何かを置いた部屋へと強引に連れて行く。

ラファエルは警戒しながら二人の後をついて行った。


「移動はこれでできるはず。藤色の国の入り口に飛べるポータルだ。

これで自由に移動できる。

後、こっちが……」


ナナが最後まで言い終わらない前に、ラファエルが身を乗り出しポータルを物珍しそうに見つめていた。

それを鬱陶しそうに見つめ、最大限に眉をよせ睨みつけた。


ラファエルはナナの睨みに気がつかず、まるで初めておもちゃを見た子供のようにポータルをあらゆる角度から眺めている。

トウはその様子を見て、少しだけ微笑んだ。


「ねえ、トウ聞いてんの?」


不機嫌な声でナナがトウを睨む。

トウは慌ててナナの方を向き、大きく何度も頷いた。


「そんで、こっちのオレンジのが……僕の国ね。」


「え!?何で?」


思わず本音で驚いてしまう。

トウの疑問にますます機嫌が悪くなるナナに慌てて弁解した。


「……え、だって、ナナくんの国へはその、今のとこ御用がないと言うか……そんな許可なく頻繁に私、国から出れないと言うか……」


しどろもどろに目を泳がしながら、必死にナナを怒らせまいと手をバタバタと動かしながら説明をした。

ナナは小さく舌打ちをすると、いまだポータルに夢中なラファエルをもう一度睨みつけた。

トウはナナの視線を気にしてまたオロオロするばかり。


その態度にも正直ナナはイライラを募らせていた。

自分でもよくわからないこのイライラ感。


だけど今までとは違い、トウが他人を気にしているのは初めてみる。


実はナナはトウと会うのは一回ではない。

初めて会ったのは去年の魔女集会だが、ナナはトウを気にして何度かここを訪れていた。


勿論声などかけていない。

コッソリと見に来ただけだ。


初めて見た時、挨拶をしただけでオドオドと自信なく震え、自分が口調を変える度に顔色がオーラと同じ色に変わっていった。


最初は面白かったのだが、同じ魔女にまで怯えその自信のなさに苛立ち、強く当たってしまった。


後に中央の国の魔女が自分たちより一番虐げられていると後で聞き、悪いことをしたなと少しだけ気になったのがきっかけだったのだが……。


初めて会った集会で、ついついやりすぎるほどいじめてしまったことをとても後悔して謝りに来たのだ。

だがどうも天邪鬼な性格が災いして、いまだツンケンした態度をとってしまう。


自国の騎士に放置され先に帰られてしまい、それでもめげずに一人で帰りの馬車を探す、とても小さな見窄らしい少女に同情した。

なのでお詫びも兼ねて、わざわざポータルを作成して届けに来たのだが。


『こいつは一体何なんだ……』


自分の心をザワザワさせるこの騎士の存在は一体。

ナナは胸のザワザワを止めようと、自分の胸を力一杯叩いた。


その音にびっくりして二人がナナを見つめる。


ナナはゲホゲホと咳き込んだが、顔を上げてトウを見た。


「お前に用がなくても、僕にはあるんだ。来年はここが集会の会場だろ。

何度も来なくていいように、今のうちに置いとくんだよ!」


あまりに苦しい言い訳だと、ナナはすぐ後悔した。

すぐにバレてしまう嘘のような、自分にしてはチープな答えをしてしまったと。


だがそんなことは気がつかない単純な二人は『ああなるほどそうだったのか』と笑顔で納得しだした。

それも全く面白くない。


こいつら本当に馬鹿なのかとナナは小さくため息をついた。


「……これで護衛も必要なくなったし、移動も文句ないよな?

向こうで僕がトウの護衛を……」


ナナは言葉を最後もで言い終わらないうちに、恥ずかしくなってトウを軽く睨みつけた。

トウはその目にびくりと飛び上がったが、また大きく何度も頷いた。


「あ、護衛は俺がするから、大丈夫だ。」


ふとラファエルが口を開く。


『はぁ!?』とすごい顔でナナがラファエルを見るが、ラファエルはニッコリとほほえみ返した。


「トウは魔女の友達がいたんだな!

ずっと一人かと思って心配していたから安心した。」


そう言うとトウにもニッコリと微笑んだ。

トウ自体は友達という言葉にクエスチョンマークを飛ばして固まっているようだが、ラファエルはそんなこと気が付きもしない。


「……護衛ってどういうこと?」


トウが静かにラファエルに聞いた。


「ああ、昨日俺に辞令が降りたんだ。」


そういうと胸元から一枚の紙を取り出し、トウに渡した。


「来月の集会とやらに俺がトウの護衛をすることになった。

トウ、よろしく頼む。」


何のことか頭がついてこないのか、ハッとした顔でラファエルとナナを交互に見つめる。


「ポータルあるのに護衛なんかいらないんだよ!」


ナナが苛立って声を荒げた。

その声にもいちいち、この小動物はビクビクとする。


その度にこの騎士が心配そうにトウを見つめるのもムカついた。


「だがしかし、これも俺の仕事なんだ。知らない国に行くわけだし、そこでも護衛は必要だろ?

……というか俺ポータル使うの初めてなんだが、使い方を教えてくれないか?」


突然子供のようなキラキラした目で、ラファエルがナナの肩を抱いた。


「僕に気安く触るな!」


「何だよ硬いこと言うなよ!」


拒否するナナにラファエルは引こうとしない。

結局何度か押し問答を繰り返し、ナナが諦めることでラファエルはポータルの使い方を教えてもらうこととなる。


二人がワイワイ言い合いをしている間、ふと気が抜けた。


椅子に腰掛けようとしたトウは、テーブルの上の紙包みに気がついた。

そっと手に取り開いてみると、小さな緑色のガラスに綺麗な花の模様のついた、細めの小さなグラスが入っていた。


小さなカードが添えられており、それをそっと開いてみると……。


『この間街で見つけたものだ。花瓶とは違うがこれも花を生けることができると思うので、よかったら。』


この間、野花と一緒に挟まっていた手紙の文字と同じ形。

トウは緑のグラスを愛おしそうに胸に抱いた。


初めて家族以外でもらった贈り物だ。

誕生日でもない、お土産でもない。


初めて貰った、自分へのプレゼント。


ナナがふと振り返る。

トウに包まれるバラ色のオーラを見て、キツく眉を寄せた。


初めてみるオーラ。

ナナはこの能天気な騎士を睨みつける。


『……なんだか気に入らない。』


ナナの睨みに気がつかず、二つのポータルを交互に見つめているラファエル。


『よく分かんないけど……こいつはトウのそばに置いておくべきじゃない。』


感じたことのない想いがナナの中に芽生えていた。

モヤモヤするこの想いがなんだか分からないが、ナナはじっとラファエルを見つめていた。



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