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第6話 魔女、天敵がやってくる。

ココが来てから、またしばらく人の出入りはなかった。

毎日同じ様な生活を淡々と繰り返すことに、段々と寂しさを感じなくなった時だった。


滅多に来ない郵便がトウの家に届く。

一年に一回開催される、魔女集会のお知らせだ。


5つの国の魔女が毎年どこかの国に集まり、『会議』をする習慣があるのだ。

よくは知らないけど、祖母も母も毎年出かけて行っていた。


トウが参加するのはこれで2回目である。


「……集会って言ってもなぁ……。」


口を尖らせながら手紙を見つめ、トウの独り言が止まる。


『集会』や『会議』なんて書いているが、結局のところ『伝統』を重んじただけの、ただの顔合わせである。

しかも今の魔女たちは同年代なのだが、ほとんど交流がないのだ。


祖母の時は確か年齢も疎らで、それでも少しは付き合いがあった様だけど……。


ココとは初めて去年行った集会で良い出会いをしたのだが……たった一人の印象がすこぶるよくない『魔女』が居るせいで、考えれば考えるほど憂鬱に感じてしまう。


祖母や母の時の集会はもっと社交的な感じがしたが、自分はそう言う性格でもないので人前で発表なんて出来れば避けたいし。


深く溜息を吐く。

ココに会えるなら楽しいのだが、こないだの様子だときっと来れないのではないかとなんとなく感じていた。

魔女に拒否権はないのだが、ココは特別なのだ。


しかも今回の国は少し遠い。

藤色の魔女、ムウさんの所だ。


ムウさんは24歳で、我々魔女の中では最年長だ。

厳しい口調だが、言葉に優しさが見える大人の魅力溢れる女性で、『味覚』で『鑑定』をする魔法を持っている。


主に毒や薬草などの効果が味でわかる感じなのだが、ムウさんのいる国ではかなり重宝しているのだろう。

ムウさんのお店の評判はうちの国でも高評価な噂しか聞かない。


しかもナイスバディなスタイルとハッキリとした美貌に、目を引かれない男性はいないほどだった。


ムウさんの国は150年前、病んで自殺した王が治めていた場所。

険しい山肌に囲まれており、少し寒い気候が多い地域だった。


「……気が乗らない。」


だが独断で欠席と手紙を出すわけにはいかない。

だってこれは国同士が決めた『伝統』なのだから。


橋の前にある古ぼけたポストの前で、手紙をにぎりしめたまま、また深く息を吐いた。


「……要は魔女を色で識別して把握する為だからな。

毎年顔を合わせて、どれほど危険に育ったかをみるという、悪趣味な。」


少し男の子にしては高めの声。

背後から突然聞こえた、忘れられない声。


無言のまま固まっていると、その声が話を続ける。


「……んで、なんで気が乗らないんだ?

一年ぶりに会う同志に会いたくないってことかよ」


声がすでに怒っている様にも聞こえ、余計に振り向けないでいた。

肩がかすかに震える。


「……なぁ、なんでこっちを向かないの?」


震える肩に自分よりほんのちょっぴり背の高い彼の手が触れ、体がびくりと強ばった。


「うっすら水色に、仄かな灰色。黒と紫の線……

緊張に恐怖、そして……」


指がパチンと鳴らされると、自分の意思とは関係なく、体が180度回転する。

肩に触れられただけで、あっという間に彼の方を向かされた。


「……ナナくん……!」


「……そして憂鬱、ってお前なぁ。」


トウが集会に参加したくない原因が今目の前に立っていた。


金の瞳にオレンジの髪。

少しくせ毛の髪が目にかかる程、長めの前髪を鬱陶しそうに手で抑えた。

前髪を書き上げた時に見えた、少しツリ目の瞳が余計に迫力を増す。


「えっと、気が乗らないのは、遠いからで……て、何故うちに?どっから、来たんですか……?」


しどろもどろになりながら、会話を探す。

なんとか読まれない様にしようと誤魔化すが、よく考えたらもう全て『オーラ』で読まれている事に気がつき、諦めの表情を浮かべる。


ナナは男の子にして『魔女』だ。

今まで男の子で月の目を持つ子は居なかったのだが、紛れもない月色の瞳と滲み出る魔力で、ナナもれっきとした『魔女』と認定されたそうだ。

要は性別関係なく、『魔女は魔女』なのだろう。


ナナの魔法はオーラが見える事。

オーラで体調や悪いところがわかるし、悪い事して紛れてしまった犯人さえ見つけられるのだ。


ナナくんの国はココとは反対側の隣の国で、医学に長けた国だと聞いたことがある。

地下に潜み、魔物から逃げた王が治めていた国。


5つの国に比べ、一番文明が発展している国かもしれない。

去年はこの国で開催されたのだ。

その時見た街並みは、まるで機械の国かと驚くほどだった。


綺麗に整えられたスッキリとした顔が、トウを見て意地悪そうに歪んだ。


「藤色が苦手なのか?

何なら僕が一服盛ってやってもいいぞ?

どうせ魔女なんだから、そんぐらいじゃ死なないだろうし。」


その言葉にトウのオーラが怯え固まるのを見て、楽しそうに笑った。


「冗談だよ。ていうか、お客がきたらお茶に招くとかできないのかよ、鈍臭いなあ。」


そういうと、スタスタとトウの家へと入っていった。

慌ててトウも追いかける。


苦手な人物を家に招く事になるとは、神出鬼没の読めない態度に、流石のトウにも先が見えてなかった様だ。

ノロノロとナナの後について歩く。

家に入ると既にナナが台所を物色していた。

何故うちに来る人は勝手に我が家を漁るのか……。


疑問は残るが、声には出せない。

何を言い返されるかわからないからだ。


こないだセイルが持ってきてくれた茶葉を見つけ、さっさと入れろと言わんばかりにトウに放り投げた。


『……漁っといて自分で入れないのか……』


口を閉じても漏れる愚痴に、渋々少しだけすくってポットに入れる。

コイツにお茶なんてもったいない。

色が付いてりゃいいだろうとケチったのがすぐばれて、ポットの茶葉の少なさにナナがすぐ『追い茶葉』をどさっと追加した。


不満が顔に出る。

それをまた嬉しそうに見つめ、ナナは微笑んだ。


「ケチケチすんなよ、儲けてんだろ?」


「……儲けては、ないですけど……

例え儲けても、この国は魔女に物を売ってくれる人は貴重なので、この茶葉はとても貴重なんですけどね……!」


『そもそもお客というなら手土産ぐらい持ってきてくれたらいいのに……』


聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、早口でこぼす愚痴。

トウより一つ歳が上なので、一応気を使って敬語を使ってみたが、使うに値しない態度に段々とトウの態度も怪しくなってくる。


さっさとお茶を入れて、ナナの前に出す。

そしてナナとは向き合わず、斜めに向いて椅子に腰掛けた。


「……んー、マズイな。

ちょっと濃すぎじゃないか?」


「ナナくんが入れたんでしょ茶葉!あんなにいっぱい!」


思わずドンッとテーブルを叩く。

トウのイライラした態度に何も気にしてない様子のナナは、お茶の入ったカップに少し口をつけ、静かに置いた。


「集会は来月だ。出発するならそろそろ準備しないとだぞ。」


そういうと、テーブルの上に手を組む。

左手の人差し指だけトントンと動かし、トウの返答を待っていた。


「……1ヶ月もないので、流石にムウさんのとこへ行くのは行くだけで1週間かかりますしね……」


「……ちゃんとした護衛はつくの?

前みたいな護衛が回されたら、僕に言いなよ。

こっそり燃やしてやるから。」


ちょいちょい話題に出る、前任者の騎士の話である。

何を言っても問うても『出来ない』『無理』としか言わないし、国から任命された他国への護衛にしても挨拶もせず、途中でサボっていなくなってしまった。

もちろん抗議はしたが、それが受け入れられることはなかった。


お陰で帰りは自腹で馬車を乗り継いで帰ってきたのだ。

なかなかの大変な思いをした。

隣の国でもそんな苦労があるのに、一番遠い国となると、かなり腰が上がらない。


「……護衛はお願いしないで自腹で行くしかないし……行くまでに1週間、帰りも1週間だと予算も限られてますし、今回は見送ろうかなと……。」


ボソボソ言い訳を連ねてみた。

『行かない』という選択肢はない。

でもいちいち感に触るので、無駄な抵抗をしたかっただけだ。


そしてきっと文句を言われるのはわかっているのだが、どうしても気がすすまないのだ。

またコイツに会わなければいけないし、ココという心の拠り所もいない。


トウは魔法があまり使えないので他の魔女に劣等感もあり、そのことの進歩をみんなの前で聞かれるのも苦痛なのである。


ナナはトウの言い訳を目を閉じて聞いていたのだが、突然人差し指のトントンが止まる。


「……お前の言い分は、わかった。」


そういうとナナは立ち上がり、スタスタと玄関の方へ向かっていった。


まさかあんなチープな言い訳が通ったのか?

国として絶対参加と言われている集会を、御託を並べて回避できたのかと、トウはドキドキしながら期待に震え、ナナの背中を見つめた。


ナナが玄関の前でピタリと止まる。

同時にトウの背中がギクリと冷えた。


「……なんて、言うと、思ったか?」


扉の塔に向いていたつま先が、コツンとこちらを向く。


「……なぁ。」


ユックリと振り向くナナに、トウは飛び上がった。

思わず戸棚の隅に身を隠そうとするが、あっという間にナナに手首を掴まれた。


「その回答は想定内なんだよなぁ。

前回僕はお前を揶揄い過ぎたという自覚もある。

だが、お前のオーラはわかりやすく、面白い。

俺が言葉で刺す度、お前はオーラと同じ顔色に変わっていったからな。」


「……悪趣味……!」


少しは手首を動かし抵抗したが、ナナの迫力に恐怖心が勝り、動けない。

震える唇をパクパクと力無く動かした。


その様子も楽しそうに見下ろし、眺めているナナ。

前髪の奥から見える同じ色の目が、鮮やかに光った瞬間。


「トウから離れろ!!」


突然ドアが荒々しく開く音と、背後から聞こえた声の主がナナを突き飛ばし、トウを引き寄せた。


「……お前僕が誰か知ってるの!?」


突き飛ばされ体勢を崩してしまったが、すぐに声の主に手の平をかざすナナ。

トウを抱きとめているのがラファエルだとわかると、トウは声をあげた。


「二人とも、ストップ!!!」


両手を広げ、二人の間に立ち塞がった。


「お願い。

家の中で暴れられると、お家が壊れます……」


トウのか細い現実味を帯びた悲痛な声に、ラファエルとナナは驚いたように視線を合わすと、緊張感を失ったように息を吐いた。

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