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第50話 魔女、西の国へ。

北からはポータルがない為、馬車で移動している。

目指すは西の国。

薄桜の魔女、ココがいる国だ。


北に3日は滞在する予定だったが、あまりの居心地悪さに2日で出発することとなった。

トウが我儘を言ったわけではないが、食事もせずにムウの屋敷に籠るトウを、ミラルドが見てられなかったようだ。

スカイやニールにも心配をかけた様で、馬車の中でのトウは反省中だった。


『心配してもらうって、して貰う方も嬉しいだけじゃないんだなぁ……』


なんだか負担をかけてしまわないかを逆に心配してしまっている。


なので心配かけずに済むには、を考えだしたのだった。


なるべく元気に振る舞うこと。

食事はきっちり取ること。

そして適度に運動すること。

最後のやつに関しては運動する様に心がけないと、元々少食だったトウがお腹が空くわけがないと、気がついた。

元々動く方ではないので馬車で移動中ばかりだと、じっとして外の景色を眺めることばかりだった。


北から西へは野営をしながら4日ほどだった。

トウはゆっくりと景色を楽しみ、意外に楽しい旅の思い出になったと思っていたが、どうやらアーサー対策でルートを変えながら進んだため、思ったより早くに着いたのだった。


初めてくる西の国。

北の国境からゴトゴト馬車に揺られ西の国境に入ると、そこはもう世界が違って見える。


馬車の窓から見える世界は白を基調とした街並みに花が咲き乱れていて、街の中心となる場所に白い建物に囲まれた大きなダムのような湖があり、そこの中央に小さな砦の様なものがあった。


『これがココの国……。』


風に舞う花びらがまるで自分たちを歓迎してくれている様に思え、トウの心は舞い上がらせる。


『ココに会える!』

そして、『遊びに来て』と言う約束が果たせたことを、何より感動していた。


西に近づくに連れ元気を取り戻したトウの様子に、ミラルドは苦笑いをしていた。


「元気になって良かったよ。」


その言葉に、トウは照れた様な笑顔で返した。


「そう言えば北との取引はうまくいったの?」


トウの言葉にミラルドが肩をすくめた。


「向こうの言い分は聞いてきたよ。……それを実行するかは、2年後に考えるよ。」


そう言うと満面の笑みでトウの肩に手を添えた。


「さぁ次なる国で、次の仕事の時間だ。」


その言葉といいタイミングで馬車が止まる。


ゆっくりと馬車のステップの下される音。

丁寧に開けられた扉から、ニールが手を差し出してきた。


「足元に気をつけてください。」


白い石畳がキラキラと反射して、思わず両手で目を覆う。

先にミラルドが馬車から出ると、トウの名前を呼んだ。


ゆっくり目を擦りながら馬車から顔を出すと、そこはまるで御伽噺に出てくるようなお城があった。

城の入り口まで長い長い道なりに、赤い制服を着た兵士が道を挟んで均等に立っており、歓迎するように頭を下げていた。


『……すごい。』


平常心を保ちながら、ゆっくりと辺りを伺うトウ。

ミラルドが肘を差し出すと、恥ずかしそうに手を添え、一緒に歩き出した。


何もかもが生まれて初めての経験。

もちろん自分に頭を下げているわけではないことはわかっているが、それでも錯覚を起こす。

この国に歓迎されているのだと。


トウの心は目に見えて踊りまくっていた。


思わず緩む顔にミラルドが笑った。

慌てて赤い顔して顔を背けるが、ミラルドの笑いは収まることがなかった。


城の入り口に着き、案内されるがまま神殿の様な廊下を進むと、大きな扉の前で西の国の王様、王妃、そして王子が出迎えてくれた。


王様はとても背が高く、若そうで凛々しい方だった。

どこぞの王とは大違いで、スラリとしたイケメンだ。


王妃も細身な方で、どこか面影はココに似ていると思った。

だがとても綺麗な顔立ちをしているが、表情は少し怖い印象を持った。

まるでエスターを思い出す雰囲気。


ミラルドが王と会話をしている間、キョロキョロとココの姿を探したがどこにも見えない。

やはり王族としては此処に立つことは出来なかったのだろうと、少しがっかりした。


「……ミラルド様、トウ様、良くお越しくださいました。

我が国でごゆるりとおくつろぎくだされば幸いです。」


王様に良く似た顔の王子がトウに笑顔でお辞儀をしてきた。

慌てて拙い笑顔でトウもお辞儀を仕返す。


挨拶以外の喋りはほぼミラルドがすることになっている。

トウが焦って変なことを言ってしまうとミラルドが恥ずかしい思いをするんじゃないかと、トウが自ら提案したことだった。


「ハイディ殿下、ありがたいお言葉感謝します。」


横からミラルドが代わりに返事をすると、ハイディと呼ばれた王子は一瞬トウを見る表情が変わった。

その表情に戸惑った顔をすると、気のせいだったかのように笑顔に戻り、ミラルドと握手を交わしていた。


『一瞬、なんだったんだろ……』


自分が喋らなかったので不機嫌になってしまったのだろうかと心配になってしまう。

だが今は蔑まれる魔女とはいえ、自分は『ミラルドの婚約者』として、堂々としなければ。


そうしてトウはまた頑張って微笑むのだった。



+++



「ほっぺが痛い。」


慣れないうすら笑みを浮かべ続けたので、表情筋が筋肉痛を起こしてしまったようだ。

両手で頬を撫でながら、用意してもらった部屋の鏡を見つめていた。


さっきの王子の視線が気になっている。


そして姿が見えないココの様子が知りたいのだ。


「誰かに聞いたら教えてくれるかな……」


確か城の敷地内に屋敷を構えて貰ったと聞いたことがある。

自由に城を動くことができるのであれば、スカイと散歩と称して探すことができるのだけど……。

トウはそんなことをぼんやりと考えていた。


「トウ様、お疲れですか?」


城の侍女に説明を受けていたスカイが、ニールと共に戻ってくる。


未だ鏡の前でほっぺをムニムニしているトウに、スカイは微笑んだ。


「頬痛いなら、マッサージ致しますか?」


揶揄う様に笑うスカイに、トウは頬を膨らませながら首を振るのだった。




「ミラルドはどこへいったの?」


窓の外を眺めていたトウの問いかけにニールが反応する。


「……晩餐の時間までは西の王と協定のことについてお話があるとのことです。」


「……そっか。私はそれまで何をしたら良いのだろ?」


「多分此処でまったりしてたら良いんじゃないですかねー?」


そう言いながらニールはスカイが注いだばかりのカップを盗んでお茶を啜った。

側にあった茶菓子も一緒に口の中に放り込む。


表情は変わらないが多分すごく怒っているスカイがニールを睨んでいるのをクスクスと見ていた。


「まったりかぁ……」


なんとか散歩に行けないかな。

スカイに聞いてもらえないかなぁ……。


そう思いながら窓の外を見上げた。


スカイがニールを制しお茶の準備が整ったので、まったりと休憩することにした。

和やかな空気に眠くなり、ソファーに足を投げ出して座っているとふと、コツコツと足音が近づいてくる音に気がつく。


慌ててピンと座り直し、緊張しながら様子を伺った。

その足音は扉の前に止まると『コンコン』と2回ノックする。


来客の予定を聞いてないニールやスカイも顔を見合わせ席を立った。


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