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第49話 気がふれた王族の末裔。

ジェイスの顔色が少しだけさっきよりいい気がする。

さっきの自分から出た言葉はなんだったのだろうか。


ベラベラと口だけ自分のモノじゃない気がしたが、やはりあの光はムウのものなのだろうか。

それとも鍛冶場の馬鹿力で私が作り出した幻想の産物なのか……。


ミラルドはとりあえず、馬車や荷物を持ってくるために広い庭にポータル広げ直していた。

ここはムウとジェイスが愛を語っていた場所。


ムウの姿を思い、少し悲しくなってきた。

ジェイスも同じ想いだったのかもしれない。

凍りついた噴水の水飛沫をただじっと見つめていた。


首の傷がヒリヒリと痛むが、それを気にするとジェイスもまた申し訳なさそうな顔をするのだった。


突然視界に馬車が湧いて出てくる。

それに続き、見慣れた騎士たちもゾロゾロと現れてきた。


そこからスカイの姿も見え、トウに気が付くと、こちらに走り寄ってきた。


「囮の馬車をいくつか先行させるのに手間取ってしまったよ。

……トウ、大丈夫?」


ミラルドがそう言いながらトウの首筋を撫でる。


指先がくすぐったくて、肩をすくめながら指先を避けた。


「手当てしたし、大丈夫だよ。

ていうか、囮の馬車?」


「うん、普通の日数をかけて北へと向かわせた馬車と、カモフラージュに南へと向かわせた馬車と、ね。」


「第一王子対策か……。」


「お陰で城に残っている騎士はとても少なくなっちゃったけど。

まぁ、平和条約もあるし、目的達成したら戻るように言ったし、大丈夫じゃない?」


ミラルドはそう言うと、避けられた指先を見つめながらそう言った。


ミラルドの姿を見て、ジェイスが走り寄ってきた。

その後を数名の北の騎士が追って歩く。


「国王がお待ちです。どうかこのまま城へと向かってください。」


『先導します』と1人の騎士が馬車に乗っている騎士へと向かった。


ミラルドはジッとジェイスを睨みつけていた。

何があったかはトウも言わないと分かっているからだろうか。

行き場のない怒りを向けているようにも見える。


とりあえずミラルドのご機嫌を伺うように、ジェイスから視線を外させた。


「ここからお城までどれくらいかかりますか?」


ミラルドの腕を取りながら、別の騎士に話かける。


「ここからはそう遠くありません、護衛のため馬車にご一緒させていただきます。」


愛想のいい騎士がミラルドの方へと答えた。

ここでも魔女の待遇はあまり良くないことを察し、トウはギュッとミラルドの腕を掴んだのだった。


「……なぁ、質問したのはトウの方なんだが?

今回の訪問の目的、知らないのか?」


不機嫌なミラルドの声に騎士はびくりと体を硬らせ、頭を下げた。


「失礼しました!!」


騎士はそういうと『ミラルド』に頭を下げた。


はぁ、と呆れたようにミラルドがため息を吐く。

あまりの機嫌の悪さにジェイスが飛んできて、ここは自分が変わると買って出たのだった。


引き離しが無駄になった瞬間である。




「……すみませんでした。第二王子の『婚約者』様に非礼を心よりお詫び申し上げます。」


ジェイスはそういうと、頭を深々と下げた。


城に向かう馬車の中、真向かいに座ったジェイスが私に頭を下げている。


「ジェイスさん、頭を上げてください。

私は気にしていないので……」


トウの言葉に尚も頭を下げたままである。

困っているトウを見かねて、ミラルドがジェイスに頭を上げるように言うのだった。


「……それで?彼はどういう知り合い?」


ミラルドが不機嫌そうにトウを見つめる。


ジェイスは一瞬何かを言いたげな顔をしたが、トウに視線を送ると頷き、口を閉じた。


「……ちゃんと紹介しますね。

彼は元ムウの護衛の方です。

ムウの幼馴染みだと、聞いてます。」


「……ああ、だから偏見がないのか。」


ミラルドがどこまで『ムウと護衛』の話を知っているかわからないので、それ以上はトウも口を閉ざした。

あまり喋りたがらないジェイスとトウの様子にミラルドの機嫌はさらに悪くなったが、それ以上は何も聞かなかった。


重い空気を払拭しようと、トウはジェイスに世間話を投げかけていた。

それは城に着くまで頑張る事になる。




城に着くとすぐ王や王妃、家臣と見られる方々が待ち構えていた。

ミラルドの功労にて多大な歓迎がなんだかトウには戸惑ってしまう。


彼らもまた『第二王子の婚約者』としての『魔女』の扱いを困っているようで、引き攣った笑顔を向けられていた。

後ろでスカイが小さく『気持ちわるい笑顔』といった言葉に吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。


「この度は中央の国が先頭に立って我が国を支援していただいたと聞きました。」


上着を着ているのが暑いほど暖まった部屋に案内されると、北の国の王は笑顔で王妃の腰に手を回し、自分の席へと座った。

その指には煌めく宝石が輝いており、王妃のドレスも肩が露出し、煌めいていた。


大きな長いテーブルには歓迎の料理が運ばれていたが、『これもミラルドや他の国が支援した食材じゃないの』なんて皮肉に思い、笑えてしまう。

この人達は『飢えていないんだ』と知った。


ムウがいなくなったことで、前回来た時よりも雪が強く降る世界。

この城以外の国民たちが寒さや飢えを凌げていないと意味がないのだ。


騎士やミラルドが席に案内されているのを横目に、ふと窓の外を覗き込んだ。


ここから見える世界は、吹雪く風やその風に舞い上がった雪の柱で何も見えなかった。




部屋に戻ったトウは口に運んだ食事の内容も、くだらない自慢ばかりをする王の話も、ほとんど覚えていなかった。

なんとなく覚えているのは、婚約をお祝いしてくれた言葉と、これからの支援の内容を少し豪華にして欲しいという言葉ぐらいだった。


ここに滞在する意味がわからず、滞在期間はずっとムウのことを考えていた。

ムウの死後、北の国は早く次の魔女が生まれることを望んでいた。


大事にしないくせに、次の魔女も味覚に長けた能力だと助かるなぁと。

その無責任な言葉に、吐き気が込み上がってくる。


『どんな思いでその味覚を試してきたことか……。』


ミラルドが外交をしている間、トウはムウの屋敷の見学を希望し、昼間はそこで過ごした。


ムウの気持ちはムウにしかわからない。

だが、少しずつ残っている痕跡を辿ると、ムウの努力や気持ちが痛いほど感じ取れた。


机やノートに刻まれた、古き魔女の言葉で書かれた落書き。


『誰かここから救い出して……』


果たして死ぬ事でムウは救われたのだろうか。


『こんなとこ、二度と来たくない。

……二度とアイツらと会いたくない。』


自分がいる世界も非情だが、ムウのいた世界も残酷だったことを、この屋敷に残る思い出と一緒にトウは涙を流した。


そして、彼女の痕跡を胸に、早々にこの国を後にした。



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